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プラハ国立歌劇場と一緒に、来日中のソプラノ、デジレ・ランカトーレ。 彼女が主役を歌った「椿姫」がよかったことは書きましたが、「椿姫」以外にも、リサイタルやイベントが企画されているようです。 そんな企画のひとつ、イタリア文化会館で開催されたイベントに参加してきました。 彼女が対談形式のインタビューにこたえ、さらに歌まで歌ってくれ、そしてイタリアのラジオ放送に生出演する。そんな贅沢な内容で、なんと入場は無料。 そのせいでしょう、直前の告知にもかかわらず、席数370ほどのイタリア文化会館のアニエッリ・ホールは8割がた埋まっていました。男性ファンが多かったのもさすがです。 マキシ丈(といっても裾はアシンメトリーになっているしゃれたもの)の黒いドレスで登場したデジレ嬢は、もう長いお付き合いらしい通訳兼インタビュアーの井内美香さんを相手に、くつろいだ表情。家庭環境、音楽との出会い、キャリアの形成、「椿姫」ヴィオレッタ役についてなど、興味深いトピックを、ざっくばらんに語ってくれました。 家庭環境をきくと、歌手、少なくとも音楽家にはになるべくしてなったと思わせられます。シチリア島のパレルモの出身だとは知っていましたが、両親は、パレルモ第一の劇場でイタリアを代表する劇場のひとつ、マッシモ劇場に所属する音楽家(母は合唱団員、父はクラリネット奏者)。だから「お腹のなかにいるときから音楽を聴いていた」。 驚いたのは、歌を学び始めてからデビューまでの短さです。16歳で声楽を(母について)学び始め、なんと18歳半でザルツブルク音楽祭!の「フィガロの結婚」!のバルバリーナ役でデビュー。何でも、彼女が受けたコンクールに、当時の音楽祭総裁であるモルティエが来ていて見出されたとか。ザルツブルク音楽祭ですから、他のキャストは超豪華で、スーザン・グラハムやイルデブラント・ダルカンジェロ、ドミトリー・ホヴォロトフスキーらそうそうたるメンバーが出ていたのですが、18歳のデジレ少女は誰のことも知らず、「みんなうまいなあ」と思っていたそう。ある日、ザルツブルクの街を歩いていたら、レコード屋の店頭のポスターに、その歌手たちが写っていて、初めて彼らが有名な歌手であることを知ったのだそうです。今だから、笑い話になることですね。 その後のキャリアも順調で、2004年には、スカラ座の改修後の再開公演で、ムーティの指揮のもとで、サリエーリの「見捨てられたヨーロッパ」(これはスカラ座が開場した時に上演されたオペラです)に出演。以後世界中で活躍しています。 (個人的な話で恐縮ですが、私が彼女をはじめてきいたのは、2005年、マチェラータ音楽祭の「ホフマン物語」のオランピアでした。とにかく完璧な技術、よく通る高音、チャーミングな演技に圧倒され、魅せられたことをよく覚えています。それから、彼女が出る舞台はいつも楽しみにしています) 歌手の仕事を始めてから、出会った人たちの話では、デセイ、ホヴォロトフスキー、ムーティという人たちの名前があがりましたが、最高の出会いは「レオ・ヌッチ」だったといいます。「人生において重要な出会い。歌を心で歌うことを教えてくれた。オペラ界の基礎を学びました。彼となんども歌った「リゴレット」は本当に勉強になりました」 今回日本で披露した「椿姫」は、つい最近歌い始めた役柄。けれど思い入れは深く、解釈もきちんとしています。「ヴィオレッタは、とても品格のある女性です。彼女がアルフレードを諦めたのは、彼の妹のことを持ち出されたから。妹がもっている純潔、それが自分にはないものだとわかっているから、身を引いたんです」 「技術的には、ヴィオレッタを歌う歌手はそこへ行くまでにいろいろ経験を積んでいるので(そういうケースばかりでもないと思いますが。。。)、難しくはないんです。ヴィオレッタは3つの幕で3種類の声が必要だといいますが、それは技術というより彼女の魂が幕ごとに変わるので、それをあらわすことが大切です。最近になって、ヴィオレッタをうまく歌えるようになりました。とくに第3幕ですね。」 なるほど、だから、彼女のヴィオレッタからは生身の女性の体温が伝わってくるのでしょうか。 対談の途中で、披露されたアリアは3曲。「オテロ」の「アヴェ・マリア」、「ロミオとジュリエット」の「私は夢に生きたい」、「椿姫」の「さようなら、過ぎた日よ」。それぞれ有名なアリアで、とくに2曲めは大曲なのに、それをデジレのような歌手で聴けるなんて、ほんとうに贅沢でした。「私は夢に生きたい」では、途中で歌詞を忘れて初めから歌い直す一幕もありましたが、なにしろ喋りながらですから、切り替えが大変。でも恐縮し、照れ、初めから歌い直す自然さがチャーミングで、会場は暖かな雰囲気に包まれました。後半は、イタリアのラジオ番組への出演ということで、ラジオの司会者に向かって、今回の日本ツアーの印象などを楽しそうに喋っていました。客席にいたひとも大半はイタリア語が分かる感じだったので、番組の間も和気藹々とした時間が流れていました。 最後に会場からの質問を受けるコーナーで、さすがプロだな、と思った回答は、歌手の卵である女性から「あがらないためにはどうすればいいですか」と質問された時。 「歌手としての技術をみがくこと。技術の練習は1日に40分。あとはその時学んでいる役柄の勉強をしましょう。それから、歌手はアスリートと同じです。腹筋のトレーニングは必要。あと食べ物も大事。あまり重いものは食べないよう。そして喋り過ぎないよう。夜遊びはしないように。」 すらすらと、本人のふだんの生活、心がけていることが開陳されました。会場は、しん、と静まり返って聞いていた。やはり、一流のひとは、努力している。そのことがかいま見えた一瞬でした。 そして、日本のファンが純粋に、真面目に聴いてくれるということを、感慨をこめて語ったくだりでは、「日本に来ると、いつも自分のことがちょっと好きになって帰るんです」としめくくり、会場に新鮮な感動をくれました。 (ちなみに彼女が「キティちゃん」の大ファンであることも、一部では知られています!) チャーミングで、真摯。デジレ・ランカトーレ、素敵な女性です。
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最終更新日
October 23, 2015 01:02:21 PM
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