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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

March 22, 2019
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「ウェルテル」は美しいオペラです。何より音楽が美しい。うっとりさせる旋律美と、劇的瞬間のあざやかな融合。ゲーテの「若きウェルテルの悩み」をオペラ化した心理劇ですが、若々しくストレートで思い込みが強いウェルテルの情熱を、さまざまなスタイルの音楽で描く手腕には脱帽します。
 原作と比べたこのオペラの特徴は、ウェルテルだけでなく恋人のシャルロットにもスポットが当たっていること。原作はウェルテルの一人語りですから、シャルロット自身の気持ちはほとんど語られません。オペラでは、シャルロットはもっとはっきりとウェルテルに惹かれ、行動し、揺れます。
 そんなシャルロットの存在感を、日本が誇るプリマ、藤村実穂子は十全に示してくれました。

 新国立劇場で「ウェルテル」をみました(2016年のプロダクションの再演)。キャストはすべて初演とは別ですが、なんといってもシャルロット役の藤村実穂子が圧巻でした。これまで内外で何度も彼女を聴いてきましたが、一度として裏切られた(?)ことがない。カウフマンやニールンドとが出演した昨年春のボストン交響楽団「トリスタンとイゾルデ」第2幕(演奏会形式)で突出していたのも藤村実穂子。それは実力の証だと思いますが(何人かそういう歌手はいます)、今回、初役だというシャルロットも圧倒されました。格が違う。今、海外で疑いなく第一線にいる日本人アーティストは藤村実穂子と内田光子だと思うのですが、改めてそう思いました。
 藤村実穂子の一番の武器は、技術の正確さとディクションの美しさにあります。得意のワーグナーにおけるドイツ語はもちろんですが、今回のフランス語も明瞭(フランス語はわかりませんが、フランス語ができるひとからみてもそうだったとのこと)。言葉がくっきりしていると音楽の響きも明瞭になる。それを彼女ほど思い知らせてくれる歌手はそうそういません。声を守るために筆談を多用するというストイックさも含めて(尊敬します)、その点がまず得難い歌い手です。
 声それ自体ももちろん美しい。きっちりした技術の枠組みのなかでしなやかにうねり、透明感とまろやかさを併せ持ち、声のグラデーションもあり、フレージングも美しい。声量のコントロールも自在。そして劇的な表現力の迫真なことといったら!第3幕冒頭の「手紙の場」は、公演の白眉。客席から「思わず」といった感じでブラボーが出ていました。1、2度金切り声めいたところがありましたが、ケアレスミスの範囲でしょう。これで初役!実力の高さはやはり別格です。
 タイトルロールはアルバニアのテノール、サイミール・ピルグ。スカラ座やウィーンなどの常連です。かなり前から活躍しているので中堅どころの印象があるのですが、まだ37歳とか。声じたいは明るくていい声だし、のびやかさもあって好感が持てます。響きのコントロールがちょっとうまくいっていなくて、不自然なところで引っ込んだりですぎたりするのがちょっと気になりましたが、「聴かせる」ツボは心得ていました。ヴィジュアルも感じがよくスマートで、背丈もあって舞台で映えます。 
 ソフィー役の幸田浩子さんのきらきらとしてコロラトゥーラ、愛らしい存在感もチャーミングでしたし、脇役の日本人歌手たちの生き生きした歌も印象的でした。
 指揮はイギリス人ポール・ダニエル。美しい音楽のスコアを無難になぞっている感じで、音符の奥にある表現までは下りて行っていない感じ。まあ、再演で、リハーサルの時間もそう取れないのだとは思いますが。。。。今回の予習のために聴いたDVDやCDでの、ジョルダン、プラッソン、ユロフスキといった指揮者たちが素晴らしく、「ウェルテル」の音楽の凄さをつくづく思い知ったので、ちょっと分が悪かったかもしれません。(プラッソンは来月二期会で、同じマスネの「エロディアード」。これは期待できそう)
 ニコラ・ジョエルの演出は美しく、ドイツの村の自然や(第2幕では背景に山々の写真)、自殺するウェルテルのインテリぶり(最終幕の自殺の場面で使われる私室は本棚がぎっしり)などがさりげなく盛り込まれていました。「ウェルテル」の世界を体験するにはうってつけです。

 「ウェルテル」はあと2回。海外ではポピュラーな作品ですが、日本ではあまり上演されないのは残念です。この機会にぜひ。
 https://www.nntt.jac.go.jp/opera/werther/






最終更新日  March 22, 2019 09:36:38 PM
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Re:シャルロットの美学〜圧巻、藤村実穂子〜新国立劇場「ウェルテル」再演(03/22)   BRIO さん
24日にいく予定ですが、圧巻のレビューを拝読してぞくぞくするくらい楽しみになってきました。ありがとうございます。

ちなみに僕もジョルダン、プラッソンのDVD予習で聞いています。アルヴァレスとカウフマン、ガランチャとコッシュの聴き比べも楽しいです。 (March 22, 2019 10:22:03 PM)

Re:シャルロットの美学〜圧巻、藤村実穂子〜新国立劇場「ウェルテル」再演(03/22)   シュロスベルク さん
ピルグは、2008年グラーツ、アーノンクール演出・指揮の「イドメネオ」題名役の時はまだ20台だったのですね。主役クラスで一番若かったかも知れません。
ゲネプロを振り終えたばかりの巨匠に、フリムとペレイラが駆け寄って硬い握手を交わしていたことが、昨日のことのように思い出されます。 (March 25, 2019 07:11:25 AM)

Re:シャルロットの美学〜圧巻、藤村実穂子〜新国立劇場「ウェルテル」再演(03/22)   シュロスベルク さん
ピルグは、2008年グラーツ、アーノンクール演出・指揮の「イドメネオ」題名役の時はまだ20台だったのですね。主役クラスで一番若かったかも知れません。
ゲネプロを振り終えたばかりの巨匠に、興奮冷めやらぬ面持ちのフリムとペレイラが駆け寄って硬い握手を交わしていたことが、昨日のことのように思い出されます。 (March 25, 2019 07:23:15 AM)

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