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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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June 12, 2019
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ドナルド・キーンさんの最後のご本、「オペラへようこそ!」を読みました。亡くなられた後の御出版。英語で語られたのを中矢一義先生が日本語にされたそうです。
 素晴らしいご本。売れているらしい。読まれているらしい。オペラ好きにとってはどんどん読まれてほしい、売れてほしい本です。
 なぜかって、オペラを愛する「幸せ」が、ぎっしり詰まっている本だから、です。キーンさんにとってオペラを愛するということは「幸運」以外の何物でもない、と。そう言い切れるのって、実はなかなか難しいのではないでしょうか。私など、オペラがあって幸せな人生だというのはもちろんなのですが、世間一般からみたら変わり者だよね、という思いはどこかにあります。それで全然構わないのですが、キーンさんのように、迷いなく「堂々と溺れる」のはつくづくすごいと思う。しかも聴き方が深いです。さすが。
 
 オペラとの出会い、オペラにまつわるきままなエッセイ、オペラと日本古典芸能との関係、作品論、歌手論、などからなっていますが、どの章もそれぞれ読み応えがあります。エッセイの章では、「初めて見るなら「カルメン」」、「最初に精通した「フィガロの結婚」は最高傑作」、など、初心者にも参考になる部分もあちこちにあります。
 
 作品論では11作品、歌手論では8人を取り上げていますが、感じ入ったのはとくに歌手に関する表現。カラスはもちろん、フラグスタート、シヴァルツコプフ、ニルソンなど伝説の歌手を、それもいい時に聴いていらっしゃるのですが、彼らの「声」の表現が絶妙なのです。ご自身が歌われる訳ではない、つまり専門的に声楽を学ばれているとかそういうわけではないと思うのですが、(もし間違っていたらすみません)、そういう方が語る「声」の魅力が、すごくわかりやすく、イマジネーションをそそってくれるものでした。
 たとえばキルステン・フラグスタートについてはこうです。
「ヴァーグナーのオペラで、オーケストラが最大限の力を振り絞って熱演しているときでも、その上を飛翔してくるフラグスタートの声には、甘美さを感じとることができました。稀有なソプラノでした。外見からいえば、彼女より魅力的なソプラノはいたかもしれません、しかしヴァーグナーのオペラにおいては、フラグスタートの声の魅惑に匹敵するものを備えた歌手は、一人たりとも存在していませんでした」。
 この文章を読んだら、どうにもこうにもフラグスタートのヴァーグナーを聴きたくなるのではないでしょうか。私はそうでした。
 男性歌手で、キーンさんが「最高」だと太鼓判を押す、エツィオ・ピンツィア。不勉強で名前しか知りませんでしたが、これもこの表現を読んだら聴きたくなります。
 「ピンツィアの声の特徴を述べるのは簡単ではありません。演ずる役に応じて声を変えていたからです。しかし、どの役を歌っても、力にあふれていても、決して荒さはみせず、きわめて柔軟性に富み、声域全体にわたって均質を誇る声だったという点では、共通していました。ピンツィアは、ことばに誇張を伴わない彩を添える能力をそなえていて、いかなる楽句にも、その中心となる意味が確実に伝わるように配慮していました」。
 ことばと「声」の関係が眼に浮かぶようです。中矢先生の訳も絶妙なのだと思いますが。
 
 作品編では、11作中6作がヴェルディのオペラ。「エルナーニ」や「シモン・ボッカネグラ」といったマイナー作品があるのも嬉しい。キーン先生、以前はヴェルディ協会でも何度も講演をしてくださったようで、いつも大盛況だったよう。聴けなかったのがくやしくてたまりません。。。
 「仮面舞踏会」がシェイクスピア的、というのもなるほどでしたが(悲劇だがユーモアがある)、一番膝を打ってしまったのは、「「トロヴァトーレ」ほど楽しいオペラはない」という、「トロヴァトーレ」の章の書き出しです。まさにまさに!「この悲劇を見て、涙を流したことがありません」「オペラが終わってみると、マンリーコに関して、楽しい思い出(!)ばかりが残っているのです」…あんなに人が死んでばかりいるオペラで「楽しい思い出』が残る!なるほど。
 いやまさに、同じようなことを、私自身最初の著書「今夜はオペラ!」で書いたのでした。「「トロヴァトーレ」くらい、読むと聴くとでは大違いのオペラはない」というようなことですね。でも、「こんなに楽しいオペラはない」という書き方は思いつかなかったなあ。さすがです。

 ちなみに、最晩年のキーン先生のベスト10オペラは以下です。

1「ドン・カルロス」
2「トラヴィアータ」
3「神々の黄昏」
4「カルメン」
5「フィガロの結婚」
6「セビーリャの理髪師」
7「マリーア・ストゥアルダ」
8「湖上の美人」
9「エヴゲーニイ・オネーギン」
10「連隊の娘」

 晩年は、ヴェルディや「フィガロ」「カルメン」に加えて、ベルカントにかなり魅せられていたご様子ですね。

 ご本の詳細はこちら。

 https://www.amazon.co.jp/ドナルド・キーンのオペラへようこそ-われらが人生の歓び-ドナルド・キーン/dp/4163910077





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最終更新日  June 12, 2019 01:06:18 AM


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