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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

September 6, 2020
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カテゴリ:音楽
「魔笛」は絶大な人気を誇るオペラです。Operabaseの統計では、世界のオペラハウスにおける2018-19シーズンの上演回数は「椿姫」に次いで2位。ドイツ語圏では、ナンバーワンでしょう。

物語はともかく、音楽の人気が高い。これまで、「魔笛」をそう捉えてきました。けれど、昨日見た「魔笛」のアレンジ版「魔法の笛」は、そんな見方をちょっと変えてくれました。不思議、あるいは理解が難しいと思える物語は、実は単なる「ボーイミーツガール」の物語だけでいけるのだ。第二幕の「試練」は、フリーメーソンの入信式だと言われているけれど、そして実際にそうではあるのだけれど、別にそこからみなくとも、「若者が試練を経て結ばれる」物語で十分なのだ。そう思えたからです。だったら、お話しだって十分魅力的ではないか、と。

それも、第一に、宮本益光さんによる秀逸な再構成の賜物です。おそらく新型コロナのため、合唱も省かれ、ディスタンスも意識してのセミステージ形式でした。といっても舞台装置などはなく、衣装も、鳥の扮装をしたパパゲーノやパパゲーナ、など一部をのぞいておそらく自前なので(三人の童子や三人の侍女は、それぞれ黒パンツと白シャツ、黒ドレスで揃えていましたが、おそらく自前では。。。)、「セミステージ」といっていいかどうか微妙ですが。とはいえ、演技はかなりついていたので、「演奏会形式」以上のものではありました。

そんな形式でも、「魔笛」という作品の素晴らしさ、そのエッセンスは十二分に伝わりましたし、むしろわかりやすくなっていたように感じます。一見さんでも間違いなく楽しめる。「魔笛」という作品の懐の深さを、改めて知ったおもいです。

 

 今回の公演は、五島文化財団が出している「五島記念文化賞 オペラ新人賞」を2014年に受賞した、キハラ良尚さん(指揮、コレペティトゥール)の「成果発表会」という形のもの。ですので、キハラさん指揮の東響オペラアンサンブルが主役なのですが、歌手たちの顔ぶれが実に贅沢(これ、最初から決まっていたのか、それともコロナ禍でみなさん時間ができてこんな顔ぶれになったのか???)。構成を手掛けた宮本さんが得意のパパゲーノを歌うのは当然として、例えば実力派メッゾの中島郁子や、これも実力派ソプラノの増田のり子さんが「侍女」を歌うなんて、なんだかもったいないような。それ以外にも、タミーノに望月哲也さん、パパゲーナに鵜木絵里さん、パミーナに文屋小百合さん、夜の女王に針生美智子さんなど、第一線で活躍する顔ぶれがずらり。みな実力相応の歌唱で、これだけで「声の饗宴」です。

なかでもやはり、構成者でもあり、この役に定評のある宮本益光さんのパパゲーノは、言葉の自然さ、声の滑らかさ、そしてよく動く目にはじまる豊かな表情で、宮本さんにしかできないパパゲーノを創造していたと思います。モノスタトスの伊藤達人さんも、小心な悪役を痛快に演じていました。

 

 これだけでも来たかいはありましたが、やはり今回の肝は構成です。

 まず、ジングシュピールに必須の台詞はほぼカット(おそらく飛沫対策?)。その代わり、俳優の長谷川初範氏がナレーションで、セリフに相当する部分を語る形式でした。これが、意外とわかりやすいのです。アドリブで笑う瞬間がないのは寂しいかもしれませんが、話の分かりやすさはこちらの方が上かもしれません。飛沫対策だとしたら、瓢箪から駒、かも。
 そして、合唱がないこともあるのでしょうか、フリーメーソン的な部分がかなりカットされていました(例えば、第一幕でタミーノにザラストロのことを説明する「弁者」は登場しません)。これで、「ボーイミーツガール」の物語がくっきりします。異論のある方もあるでしょうが、これはこれでいい、と私は思います。

 さらに秀逸だったのは、「魔法の笛」をフルート奏者が、「魔法の鈴」をダンサーが担当したことです。上野由恵さんのお姫様的な美しいフルート、そして普段は脱力していて、「音楽の力」で呼ばれると立ち上がって生き生きと踊り出す、作本三月さんのダンス。それは、二人が従うタミーノとパパゲーノの写し絵でもあるのです。

 

 最後は敵味方関係なく、全員が揃って、歌詞を手にして最後の合唱。夜も昼も超えての大団円は、「光の世界」が独占する従来のやり方より、モーツァルトの大いなる人類愛にふさわしい。「音楽は人生」だと宣言し、「音楽で人と人とを結びつけた」(宮本氏)モーツアルトに。

 宮本氏は訳詞も担当。場面や人物のキャラに合わせて変幻自在で、ユーモアもあり、秀逸でした。宮本氏はこちらの方面の専門家でもありますが、それにしても唸ります。ほんと、才人ですね。

 

 モーツアルトは「魔笛」を、「ジングシュピール」ではなく 「二幕の大オペラ」と呼んでいます。セリアでもブッファでもジングシュピールでもない、ジャンルを超えた大オペラ。考えてみれば、ソプラノとテノールが主役カップルを演じるのは、来たる19世紀に主流となる新しいスタイルです。その点でも、新しい時代を予告するオペラ。その真髄は、このようなエッセンシャル的な上演でも、十分に伝わるのです。

 

 キハラさん指揮の東響は、自然に感興が湧き出ているような、流れのある演奏。ドラマの移り変わりがスムーズで、音が柔らかく美しい。歌手にも自然に寄り添います。モーツァルトの国オーストリアで、研鑽を積まれたこともあるのでしょうか。

 この宮本版、1回だけではもったいない。学校や地方の劇場などを巡回したら歓迎されると思います。歌手の方も入れ替わり立ち替わり演じればいいし。これを見たら、多分誰でも、オペラが好きになるのではないでしょうか。

  

 会場の「かつしかシンフォニーヒルズ」モーツァルトホールは、客席数およそ1300、テアトロ・ジーリオ・ショウワと似たような規模です。これくらいの広さだと、歌手も楽ですね。東京文化会館は広すぎますし、3日に「フィデリオ」を見た新国立劇場も、歌手によってはちょっと大きすぎる感が(「フィデリオ」は紗幕があったので、余計に)。こういう会場で、もっと経験が積めるといいのですが。。







最終更新日  September 6, 2020 06:13:34 PM


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