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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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February 5, 2021
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これは、とてもいい本です。
 「つながりと流れがよくわかる」というタイトルは、本物です。
 「西洋音楽史」に限らないですが、「なんとか史」の本というのは、ともすれば史実(?)と有名人(の業績?)の羅列になりがち。そこに年号(いらないよ年号!)でも挟まろうものなら、もうお手上げ。紙に書いた記号の連続みたいなものです。この手の「教科書」を使わされて、歴史嫌いになった人も多いことでしょう。
 「西洋音楽史」もかつてはそうでした。大昔ですが、某音楽大学で、「西洋音楽史」の講義をかなり長い間持っていたことがありましたが、そのころは東京書籍から出ていた「西洋音楽の歴史」を教科書にしてました。それは当時としてはかなりわかりやすい、と思って使っていたのですが、それでも学生からは「難しい」と言われた。まして、私が大学時代に受けていた「音楽史」の相棒は、コルネーダーやグラウトの「西洋音楽史」でした。いえ、勉強になる、いい本ですよ。でも翻訳物というだけで限界はあるのです。元々の文章だって相当硬いですからね。やはり自分の言葉で書かないと。グラウトは必読ですが、その前にもっと読みやすい「教科書」が必要です。
 で、その後、日本人研究者の方による「音楽史」の本が続々出てきました。以前ここにも投稿した岡田暁生先生や久保田慶一先生などはお一人で書き下ろしているし、複数の著者による「西洋音楽史」もずいぶん出てきました。岡田先生の本は読み物としても大変面白く、おすすめですが、やはりお一人で書かれているいい点と、偏りという、まあ欠点と言えば欠点もあるわけで。複数の著者による本は、各人の得意なところが発揮され、視点も含めて、広がり、ヴァラエティがあるという利点があります。
 この本も、その一つではあるのですが、どちらかというと主要著者の岸本宏子先生の御本、という色が濃い。それが、プラスに作用しているのです。
 まず表紙のイラストに描かれている音楽家がびっくりです。表表紙がモンテヴェルディ!とベートーヴェン。裏表紙がジョスカン・デプレ!!!とモーツァルトです。モンテヴェルディはまだしも、ジョスカンですよジョスカン。ジョスカンの曲聴いたことある方手をあげて!なんて呟きたくなります。
 狙いは明らかですね。「音楽史」は、まあ岡田先生の本にもありましたが、どうしてもルネッサンス以前と20世紀以降が弱い。それはいわゆるクラシック音楽のレパートリーが19世紀中心だからなんですが、これ、例えば美術史と比べるとすごく困るんです。だってルネッサンス美術(ジョスカンの時代)ってすごく豊かではないですか。それに引き換え、ルネッサンス音楽に親しんでいる、というか、そもそもルネッサンス音楽と言われて、イメージできる人ってどれくらいいるんでしょうか?難問です。
 この本は、その点も含め、「流れ」を見事に解き明かしてくれます。まず、ヨーロッパ文化の土台となっている古代ギリシャ、古代ローマからの遺産について。現在のヨーロッパ世界は、古代ギリシャからは「学問、芸術」を、古代ローマ帝国からは「キリスト教」を受け継いだ。そして、ヨーロッパの3つの宗教の解説(ユダヤ、キリスト、イスラム)。そしていよいよ本編が始まるわけですが、全体を3つに区切り、「バロックまで」がまず長い。約240ページの中で、ここまでで150ページです。区切りの最初は中世〜ルネッサンスで「神の音楽」、区切りの二つ目はバロック〜古典派で、「神の音楽から人の音楽へ」。そして19世紀以降はひとまとめにして「西洋音楽のたわわな実り、そして」となるわけです。19世紀以降が短い?そうですよね。でもね、時間的な長さからいったら、結構これが正解かもしれない、と思うわけです。だって「西洋音楽の始まり」は、本書によると、カール大帝が神聖ローマ皇帝に即位した800年なのですから。「西洋の音楽は、バッハより何百年もさかのぼる歴史を持っている」(「ごあいさつ」より)。だから表紙がモンテヴェルディでありジョスカンなんでしょう。
 「中世、ルネサンス」の章を担当し、巻頭言にあたる「ごあいさつ」、序章、そして「終わりの始まり」と題された終章を担当した岸本先生は、「西洋音楽は1960年台代から「終わり」に差し掛かっている」と総括します。理由は、神聖ローマ皇帝の子孫が絶滅し、カトリック教会が変容して「神聖ローマ帝国と教会」という二頭立てが完全に消滅したことと、テクノロジーによる世界の変容です。興味深い。(そう、今は転換期かもしれない、ということは、コロナ禍でも思いました。)
 本書を貫いているのは「西洋音楽の基盤となる社会、文化的な要素」を理解することの重要性です。それがわかって、初めて「流れ」が見えてくるからです。そういう構想の原点は、岸本先生ご自身が学生時代に「音楽史」の授業で、「ストーリーが見いだせない」ことに悩んだことのようです。岸本先生、歴史好きだったそうですから、なおさらでしょう。
 この本は、岸本先生が大学で実践してらしたことの集大成、のようです(ご講義を聞いていないので確かなことはいえませんが)。他の著者の先生方の文章も読みやすく、知識を得られる点でも過不足ありません。
 本書は岸本先生が、初めて編集者のご主人と作られたご本だそうですが、ご主人は途上で旅立たれ、そして岸本先生も、本が書店に並ぶ前に逝かれたそうです。遺言ですね。でも、遺言が残せるって、お幸せなことだな、見事なことだな、と感じました。
 クラシック音楽好きな方に限らず、ヨーロッパ文化に関心のある方、ご一読をお勧めします。

 つながりと流れがよくわかる 西洋音楽の歴史





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最終更新日  February 5, 2021 06:32:25 PM


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