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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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February 12, 2021
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カテゴリ:音楽
ここ1ヶ月ほどで、モーツアルトのオペラ「フィガロの結婚」を3回見ています。先月は藤原歌劇団、一昨日は、「モーツァルト・シンガーズ・ジャパン」によるハイライト上演(ピアノ伴奏)、そして昨日は新国立劇場「フィガロの結婚」。ちょっとした「フィガロ」ラッシュです。

 貴重であると同時に、いろいろ考えさせられる体験でした。

 3つのうちで最も際立っていたのは、「モーツァルト・シンガーズ・ジャパン」による上演。見終わって「オペラ万歳!」という気分になりましたから。そして、これからのオペラ上演のあり方の、大きな可能性を感じられたからです。

 「モーツァルト・シンガーズ・ジャパン」は、人気バリトン歌手宮本益光さんが率いるグループ。モーツアルトの名作オペラを、宮本さんがアレンジしたハイライト版で上演します。セミステージのような形式ですが、演技はふんだん。何より、内容を噛み砕いて、とにかくわかりやすく、楽しめるものにしているところが素晴らしい。
 このグループ、これまでもこのような形式でモーツァルトオペラを上演しているのですが、私が見たのは昨秋、「魔法の笛」というタイトルで上演した「魔笛」です。その時は指揮者のキハラ良尚さんの、五島文化賞受賞後の活躍の成果発表という面もあり、東響メンバーによるオーケストラが入ったのですが、今回はピアノ伴奏でした(山口佳代さん。でも十分で、不足はありません)。

 「魔法の笛」の感想ブログ
  「まほうのふえ」感想

 このグループの公演の何が素晴らしいって、第一に宮本さんの構成です。ナレーションで物語の軸を説明する(語り手は長谷川初範さん)っていうのがまず大成功。「フィガロの結婚」って、音楽はともかく物語は結構入り組んだオペラで、セリフだけではストーリーがちゃんと追いきれません。さらりとした会話だけでは、ゴタゴタした物語の伏線を説明しきれない。貴族階級の恋愛遊戯=ロココの世界だから、ややこしいのは仕方ないのですが、でもわかりにくい。物語が二転三転する第2幕フィナーレなんて、ほんとに訳がわからなくなってしまいます。
 今回のヴァージョンは、そういう部分を、ナレーションでうまく説明していました。この形式だと、物語がすっと頭に入る。音楽と舞台に集中できます。
 
 一番感心したのは、伯爵がケルビーノに出した軍隊行きの辞令に「ハンコがなかった」ことを、第2幕のケルビーノのアリエッタ「恋とはどんなものかしら」の場面で、ナレーターが説明したことです。この「ハンコのない辞令」、アリエッタのあとでちらっと触れられるだけなのに、幕のフィナーレで物語の鍵になります。よほど注意していないとききのがしてしまう。それを、事前に然るべき場所で説明しておくのは正解だ、と思いました。
 それから、これもとても重要なポイントですが、伯爵を偽の恋文で誘き出してとっちめるという物語の大筋の部分、最初は小姓のケルビーノをスザンナに変装させようとして、見つかって失敗し、伯爵夫人が変装する展開になるのですが、夫人が変装するという話も、第3幕の最初の伯爵夫人とスザンナのさりげない会話で仄めかされるだけなので、最初はなかなか気付きません。見ているうちにわかるのですが。。。が、その部分も、ナレーションであらかじめ説明することで、いつの間に変装する人間がケルビーノから伯爵夫人に変わったのか?と思い悩まずにすみます。
 また、スザンナが伯爵に宛てた偽の恋文をめぐる「ピン」の逸話もわかりにくい。第3幕のフィナーレで、スザンナが伯爵に逢引きの場所を伝える手紙を渡した際、ピンで留めるのですが、そのピンを、伯爵が返事の代わりにスザンナに渡さなければならない設定だと、ナレーションで説明してくれたのもありがたかった。ピンを渡すこと=返事だとは、不覚にしてわかっていませんでした。。。続く第4幕の冒頭で、バルバリーナが伯爵から預かったピンを無くしたとアリアを歌うのですが、その伏線をこれだけ説明しておいてもらえると、バルバリーナの切羽詰まった曲調も理解できます。
 とにかく、そういう工夫がいっぱいあるのです。
 
 「フィガロの結婚」って、実は初心者には勧めにくい作品だと感じることがよくあります。予習会などしてビデオを見ていると、安らかにお休みになるケースが多かったり。。。それは音楽が美しいのに加えて、話がわからなくなってしまうというのもあると思うのです。こういう上演なら、断然おすすめできます。
 それは別としても、このような上演形態は、これから必要とされていくと思うのです。オペラは、何しろ長い。「フィガロ」だって休憩を入れれば下手すれば4時間です。このヴァージョンですと、正味2時間くらい。それで、音楽のエッセンスは十分味わえる。
 音楽は、アリアは1人1曲くらいに抑えて、アンサンブルを重視。第2幕の長大なフィナーレも全部やりました。第4幕のフィナーレも。この頃「フィガロ」の講座をやるとき、長さに身構えて第2幕フィナーレなどはほとんどやらないのですが、うーん、やっぱりあったほうがいいかな、そんなことも考えながら見ていました。
 演出もとても気が利いていました。ダンサーを入れてその場の状況を暗示するのは「魔法の笛」でもやっていて、成功していると思いましたが、今回もその手法を踏襲。男女2人のダンサーが、歌手たちと絡みながらその場を盛り上げます。舞台の大道具は数本の棒で、部屋の輪郭などを暗示するのに活用されていました(ちょっと、ピーター・ブルックの演出した「ドン・ジョヴァンニ」を思い出しました)。
 そして歌手のみなさん、バンバン演技をします。ダンスもします。所狭しと駆け回る。突っ立って歌うオペラはますます過去の遺物になりそうです。
 貫禄の宮本伯爵、可憐機敏な鵜木絵里スザンナ、美声に加えてユーモラスな演技も抜群の加耒徹フィガロ、堂々とした美声に伸びやかな演技のケルビーノ中島郁子(このところ絶好調!)、これまた貫禄の澤畑恵美伯爵夫人などなど、歌手も粒揃いでした。

 一方、今月幕を開けた新国立劇場のプロダクションは、2003年以来上演され続けているホモキ演出の7回目の再演。革命前の、それまでの規律が崩壊していく時代の空気を幾何学的に表現した舞台〜空間が崩壊していく〜の魅力は健在。人間がそれまで頼ってきた指針を失ってよるべなくなる危機の時代を、鮮やかに視覚化しています。今回はディスタンスを意識して、合唱団の配置を大幅に変えたり、演技も所々変えていて、苦労が偲ばれました。
 フィガロ役は1月の「トスカ」でスカルピアを歌ったダリオ・ソラーリで、スカルピアを聴いた時にフィガロの方が向いているかも?と思ったのですが、果たしてその通りでした。リリカルでしなやかな声、ユーモラスな演技、イケメンで背も高くて舞台映えがします。伯爵役ヴィート・プリアンテも色好みの伯爵を好演。こちらもイケメンで、バブリーな雑誌「レオン」(古いですね)に出てくるイタリア男みたいでした(ナポリ生まれ!)。
 期待のケルビーノ、脇園彩は演技も声もスケールが一段上。ちょっとした眼差しの雄弁さがたまりません(レパートリーではないんでしょうが、「ばらの騎士」のオクタヴィアンが見たくなります)。バルトロ役妻屋秀和の人間味溢れる声と表現力もさすが。妻屋さんはユーモラスな役の方が演技力が生きる気がします。スザンナ役臼木あいの、軽やかで澄んだ鈴を転がすような声もコケティッシュでした。
 沼尻マエストロ指揮の東響が紡ぐ音楽は流麗でロマンティック。あのクルレンツィスとは対極にあります。これはこれで「あり」。モーツァルトの懐の深さですね。

 とはいえ、全体的に、今ひとつ緩いな、と思ったことは確かです。新型コロナの影響でキャストやオーケストラが変わったり、リハーサルの時間が制限されたこともあるのでしょう。

 先月の9日には、藤原歌劇団の「フィガロの結婚」をテアトロジーリオショウワで観劇しました。マルコ・ガンディーニのプロダクションの再演。いわゆる伝統的演出で、セピア色を基調にした柔らかな色合い、適度な大きさの舞台を有効に使ったシンプルな大道具、ベッドのヘッドボードや雰囲気のあるデスクといった小道具、ディスタンスも多少意識した躍動感ある演技などが印象的。キャストの中では、スザンナ役中井奈穂のフレッシュでチャーミングな声と演技に惹かれました。
 あと、フェイスシールドをつけての公演でしたが(藤原は昨夏の「カルメン」からそうですね)、これ、歌い手によってかなり差が出るような気がしてちょっと気の毒なのと、フェイスシールド自体の効果はあまりないという実験結果が出ているようなので、再考してもいいのではないでしょうか。
 そしてこの時、上演時間の「長さ」を痛感しました。緊急事態宣言が出たばかだったので、換気を意識したためもあるのでしょうが、休憩が2回入ったため、合計4時間。
 今はともかく、アフターコロナの時代がきたときに、平日の午後に4時間をそれに費やせる人たちを対象にした出し物がやっていけるのか。。。。

 その点でも、「モーツァルト・シンガーズ・ジャパン」の公演のあり方に大いに可能性を感じた、今回の「フィガロ」ラッシュでした。





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最終更新日  February 12, 2021 11:31:02 AM


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