「人生が変わったこの1冊」、第8回は桐野夏生「グロテスク」です
閲覧総数 27567
May 8, 2020
全58件 (58件中 1-10件目) 人
カテゴリ:人
藤木大地さんといえば、日本を代表するカウンターテナー、と言われますが、日本が生んだ、世界のオペラ界で通用する初めてのカウンターテナー、と言った方がいいように思います。
男性テノールが裏声で歌うカウンターテナーは、20世紀の後半からヨーロッパでは市民権を得てきました。が、オペラのレパートリーがまだまだ狭い日本のオペラ界では、カウンターテナーの役柄がある20世紀半ば以降やバロック時代のオペラは上演が少ないこともあり、それほど活躍の場がありませんでした。 カウンターテナーという存在自体は、日本では1990年代以降、米良美一さんら何人かが注目されていましたし、宗教作品の分野では活躍している方もありましたが、オペラではまだまだ、だったと思います。
藤木さんは、そんな現状を打ち破った初めての日本人カウンターテナーです。カウンターテナーとして初めて日本音楽コンクールで優勝したのをはじめ、ボローニャ歌劇場、そしてオペラの殿堂ウィーン国立歌劇場に、日本人のみならず東洋人初のカウンターテナーとしてデビュー。大きな話題になりました。 先日は「らららクラシック」に出演して大好評。この秋には、新国立劇場のシーズンオープニング「夏の夜の夢」で新国デビュー。主役である妖精王オベロンを歌います。(本当は4月の「ジューリオ・チェーザレ」で新国デビューの予定でしたが、ご存知の通り中止になりました)
8月31日、その話題の人、藤木大地さんを朝日カルチャーオンラインにお迎えし、対談講座を行いました。対談と言っても、実質的には藤木大地ロングインタビュー。 いや、とても、興味深いお話が聞けました。なぜ藤木さんが「世界のフジキ」になったのか、私なりにお伺いすることができたかも、と思っています。
藤木さんは、もともとの声はテノールです。それが、声が出なくなった時に裏声を試してみたら、いい声が出て、自然に歌えた。それでカウンターテナーに転向。世界に羽ばたきました。その話は「らららクラシック」をはじめ、あちこちで語られています。
私が知りたかったのは、 テノールからカウンターテナーに転向したらレパートリーがガラリと変わる。それに抵抗はなかったのか。 ということと、それ以前に、そもそも、「なぜオペラ歌手なのか。ポップス歌手でもよかったのでは」 ということでした。
二つとも、謎?が解けました。
まず「なぜオペラ歌手を選んだのか」について。 「最初は芸能界に入りたかった。目立ちたかったし。チェッカーズ、藤井郁弥が大好きで(似てます!)」 あ、やっぱり。 それがそうならなかったのは、 「宮崎の田舎で、芸能界に入るなんて言ったらみんなが応援してくれなさそうで。高校が進学校だったので最初は進学するつもりだったのですが、数学でつまずいて。なら好きな音楽をやろうと思った」 「で、クラシックの声楽なら、みんなに応援してもらえるかなって。それで声楽を習いはじめました。ただ音大を受けるとなると、家にピアノもなかったので、学校の音楽室のピアノを勝手に借りて放課後とかに練習していた」 それで、芸大に現役で受かってしまうのですよ。。。 もともと「美声だって褒められていた」そうですから才能はあるわけですが、それに加えて頭が良くて集中力があるのは、明らかです。
その先がまた面白い。 とにかく、「オペラに全然興味がなかった」という。
「芸大入って、周りはオペラ好きばっかりですが、全然興味が持てなくて。「いい声」「自然な声」を出すことには興味があったのですが」 フリッツ・ヴンダーリヒのファンだったそうです。うーん、オペラより歌曲ですね。 で、芸大を出た時に、とにかく食べなきゃいけなくて、「新国立劇場の研修所を受けたら受かってしまった」 それ、芸大に入るくらい、いやそれ以上に難しいかも。
というわけで、やはり才能はおありになるわけですが、その後奨学金を得てボローニャに留学したり、再度奨学金を得て、今度はウィーンに行きます。けれどそこでは音大の大学院でマネジメントを勉強。20代は色々試してらしたんですね。 で、30前に、テノールの声を壊してカウンターテナーに転向、成功しました。 それで、私が知りたかった、テノールのレパートリーを変えることへの抵抗、ですが、
「もともと、テノールでオーディション受けていたときって、「フィガロ」のバジーリオとか、「道化師」のペッペとか、脇役で受けていたんです。その方が受かる確率が高いし、舞台に立てる可能性があるから」 そうか、テノールの王道レパートリーじゃなかったんですね。 「僕の声はそういう方が向いているって、周囲にいる人たちが言ってくれたから」 これが、どうも、大きなポイントです。 藤木さんのやり方の一つに、周囲の意見を聞く、というのがあります。ご自分を常に客観的に見ているのです。どうやったら、自分という個性を一番生かせるか、それを常に考えている。だから、カウンターテナーの発声で歌ったら「いい声だ」と言ってもらえたら、躊躇なく転向する。声種より、まず舞台に立って歌うことの方が優先順位が高いのです。それは、はっきりしている。 優先順位がはっきりしていること、そして自分を客観的に見ていること。これは、藤木さんの強みだと感じました。 もちろんもともとの才能はおありなのですが、それをどう活かすか、ということを常に考えている。セルフマネジメントですね。
アーティストは、とかく浮世離れしているイメージが付き纏いますが、これからの時代、アーティストにも、このようなセルフマネジメントが必須なことは明らかです。
そして、藤木さん、機会を与えられれば速やかに行動し、全力投球します。今は、とにかくいい声で、世界で歌う、ことが優先でしょう。けれど一方で、「5年後には何をやっているかわからない」と冷静に思っている部分もある。冷静と情熱のあいだ。それを行き来しながら、「今」を十全に生きている方だ。そう思いました。
他にも、カウンターテナーは声が消耗しやすいので、テノールやソプラノのように声が熟成するとか、この役が目標、というのはない、というお話も興味深いものでした。
持って生まれた才能、というのはあります。けれどそれを活かすも殺すも本人次第。それを改めて強く思った、8月最後の夜でした。
最終更新日
September 3, 2020 10:43:45 AM
December 14, 2009
カテゴリ:人
何度かこのブログで予告した、岩田達宗さんとの対談レクチャー、無事終了しました。
対談といっても、ほとんど岩田さんの独り舞台。つまり、魅せられてしまったのです。 よくあるパターンですが、岩田さんはもともと演劇の方。途中で、オペラに向いているとある高名なオペラ演出家に言われ、転向したそう。 その理由は、ひとつは演劇は、演出家の独裁になりがちなこと。出演者は演出家のいうとおり、それではつまらない、幸せじゃない、と思ったとか。 「オペラはいろいろめんどくさい。指揮者もオーケストラも、もちろん歌手も説得しなきゃならない。でもそのめんどうくささが、好きだったんです」。 そしてオペラは、「僕が幸せになり、お客さんも幸せになる」方法だと。 岩田さんの演出のすばらしさは、作曲家の表現したかったことを、できるだけ自然に、目の前のお客様に伝えようとしていることです。 ト書きとおりにやったのでは、今の、たとえば日本のお客様には伝わらない。ではどうやれば、作曲家の意図したとおりに伝わるか、を、工夫しているのです。 たとえば、「ボエーム」の第3幕の雪の場面。パリの雪は冷たい。でも、日本人の感じる雪は、歌舞伎が典型的だけれど、あたたかい。だから普通に雪を降らせても、冷たさが出ない。 そう思った岩田さんは、第3幕ではあえて雪を降らせずに、凍った地面などをつくって、冷たさを出したのだそうです。 ほかにも、いくつか映像を見ながら解説いただいたのですが、一番感動したのは、「ファルスタッフ」のラストシーン。 名古屋で行われたこのプロダクション、舞台の上にもうひとつ舞台を置いて、その上で進行するような形だったそうですが、最後のフーガのシーンでその第2舞台?にかかっていた布が外れると、石のようなもの、そして背後にステンドグラスが。 「これは、ストラットフォード・エイボンにある、シェイクスピアのお墓なんです。」 それが、岩田さんの説明でした。実際に見ていらしたようでもありました。 「ヴェルディは、シェイクスピアが好きで好きでしかたなかったんですね。 だからこの最後の作品の最後のシーンで、彼のシェイクスピアへの愛情をあらわしてみたんです」 そんな説明だったと思います。 感動しました。そこまで汲んでくれたら、ヴェルディはうれしいんじゃないでしょうか。 指揮者も、同じようなことを言ったりします。10月にトリノで「椿姫」を見たとき、指揮のノセダ氏は言いました。「ヴェルディが喜んでくれるように」。そう言える演奏家は、信用できるように感じます。 演出も、同じなのではないでしょうか。 巷によくある、自分流の「読み替え」に辟易している身としては、岩田さんのスタンスには快哉を叫びたいところです。 終了後のお茶会で、受講生の方から、その手の独裁的な演出への不満が出ましたが、岩田さんいわく、 「そういうのとの戦いです」 そうでしょう。納得と同時に、ほんとうに応援したくなりました。
最終更新日
December 31, 2009 01:11:19 PM
October 28, 2009
カテゴリ:人
ツアー2本、ちょうど20日の旅を終えて、無事?日本に帰り着きました。 さて、ツアーの間にはいろいろなことがありましたが、とくに感謝しているのが、1本目のツアーにご参加された、車椅子の方へのご協力。 一番積極的だった、ある60代のご夫婦いわく そのご主人、スカラ座で「イドメネオ」を見たときお隣だったのですが、表情がまるで違いました。 音楽の力、すごいです、本当に。
最終更新日
October 31, 2009 12:03:17 AM
September 1, 2009
カテゴリ:人
自分の仕事を「天職」だと思っているひとに出会えることは、とても心地よいことです。 ここしばらく、体のメンテナンスをしてもらっているある女性は、そんなひとりです。 最近知ったのですが、そのひとは、生後7ヶ月の時に突然ぜんそくにかかり、14歳まで、病院の記憶しかないのだそう。 私も、その時にもよりますが、かなり体が楽になり、助かっています。 ちなみに彼女のサロンは、このご時世なのにいつも超満員。電話やネットで予約する日が3ヶ月ごとに決まっており、その機会を逃すとまた3ヶ月待ち、という盛況ぶりです。
最終更新日
September 3, 2009 01:42:41 PM
July 23, 2009
カテゴリ:人
ずっと海外に出ていて(いつものようにブログもさぼって・・・順次書き込みます)、帰りの飛行機のなかで、若杉弘先生の訃報を知りました。 芸術監督が若杉先生に代わってから、新国の観客動員はアップしました。一部からは批判も聞かれましたが、ポピュラーな演目を中心に、ときどき初演ものをまぜるという方針は分かりやすく、支持されやすかったのではないかと思います。 指揮者、若杉弘をはじめて意識?したのは、高校生くらいのときだったでしょうか。N響の演奏会かなにかで、アンコールに「ローエングリン」第3幕への前奏曲をさっそうと振られたのに圧倒されました。なんてかっこいい曲、と思ったことを覚えています。 若杉先生が「初演魔」であったことは有名ですが、個人的には、なんといってもびわ湖ホールでの、ヴェルディオペラの初演にかかわらせていただけたことが、大きな思い出です。 深い感謝とともに、ご冥福を心よりお祈りいたします。
最終更新日
July 24, 2009 01:32:07 AM
July 1, 2009
カテゴリ:人
気候が悪いせいでしょうか、最近、とつぜんの訃報をきくことが多いような気がします。 昨夜、その六本木男声合唱団の演奏会があったのですが、ちょうどプログラムが、2曲の「レクイエム」(モーツァルトと、団長でもある三枝成彰氏の)だったこともあり、眞木さんの追悼演奏会のように。 演奏も、とくに「モツレク」は迫力満点でした。(指揮は小林研一郎、オケは新日本フィル) 眞木準さんのご冥福をお祈りいたします。
最終更新日
July 1, 2009 10:21:42 AM
June 22, 2009
カテゴリ:人
昨日は、ライプツィヒ・バッハフェスティバルの最終日。 2001年から、ここでファイナルコンサートをきいているので、いろいろな指揮者で「ロ短調」を聴きましたが、これまでのベストは、ヘレヴェッヘの指揮によるものでした。 それはさておき、今年のファイナルコンサートの「ロ短調ミサ曲」が、トーマス・ヘンゲルブロックの指揮と知った時、小躍りしてしまいました。 1958年生まれ、ドイツ人のヘンゲルブロックを初めて聴いたのは、ケーテンのバッハフェスティバル。手兵のバルタザール・ノイマン合唱団&アンサンブルと作り出すサウンドは、信じられないほどピュアで、澄んでいて楽器と声楽の境がわからなくなるくらい自然でした。 オペラでも個性的な活躍ぶりで、自分自身で演出もしたり、他の分野のアーティストとのコラボレーションもしています。 同時代を生きていることが幸せと思える演奏家に出会えることはとほうもない幸運ですが、ヘンゲルブロックはまちがいなくそのひとりです。 そのヘンゲルブロックが、いよいよ「ロ短調」! その合唱団のひとりひとりがソリスト級なのですが、ソリストのパートも、古楽でよくやるように合唱団のなかから出すわけですが(コンチェルティスト方式)、ひとりを立てるのではなく、団員がかわるがわる出てきてソロをやるのです。 とはいえ、やはりよかったのはアリアや重唱より合唱曲でした。 実は、、HPを通して、マネージャー経由でインタビューを申し込んでいたのですが、やはり終演後の混乱で、「後でメールで」という話になってしまいました。まあ、しかたないことですが。 そういえば、演奏中も、私は彼の背中に見とれていました。 それ以来1週間、いまだにぼおっとしたままなのです・・・
最終更新日
June 29, 2009 05:10:08 PM
May 22, 2009
カテゴリ:人
先日亡くなられた、評論家の上坂冬子さん。 すごいな、と思ったのは、ノンフィクションを書くのはお金がかかる。 音楽もそうですが、本などをまとめようと思えば、費用はいくらでもかかります。
最終更新日
May 22, 2009 07:43:44 AM
April 18, 2009
カテゴリ:人
「カラヤン」取材で今日までご一緒していた脳科学者、お分かりの方もいらっしゃると思いますが、茂木健一郎さんです。 お別れにあたり、ご著書にサインをいただきました。 一方で、旅行中にさしあげていた私のバッハの本に、サインを求めてくださった気遣いに、温かさを感じました。 ユーモアにくるまれたお人柄の魅力もですが、本質はなにかといつも考えている、その真摯さを近くで見せていただいて、とても勉強になりました。 旅の間に、「芸術は、自由じゃなきゃいけない」と、編集者にお話されていたことがひっかかり、「何から自由でなければならないのでしょう?」とお尋ねしたら、 大野和士さんと初めてお会いしたときも感じましたが、人生、ちょっと変わったかもしれません。
![]()
最終更新日
April 26, 2009 06:38:13 PM
March 18, 2009
カテゴリ:人
都内某所で、コンサート形式の「カルメン」のために来日中の世界的メッゾ、ヴェッセリーナ・カサロヴァさんに会うことができました。 今回はたいへん失礼ながら、どうしても日程があわずに「カルメン」は聴きそびれてしまったのですが、以前ザルツで聴いた「皇帝ティトの慈悲」や、チューリッヒで聴いた「ポッペアの戴冠」がすばらしかった、と言ったら、喜んでくれました。 自然体で、謙虚さの感じられる可愛らしさ。今は、(カラスのようでなく)こういうプリマの時代かも。 写真は、チューリッヒの「ポッペアの戴冠」です。 ![]()
最終更新日
March 21, 2009 02:46:31 PM
このブログでよく読まれている記事
全58件 (58件中 1-10件目) 総合記事ランキング
|
|