309737 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

BANGKOK艶歌

BANGKOK艶歌

(エピローグ)

           「エピローグ」

  2006年 12月24日 pm7:00 

・・・・・・・
     We wish you a merry Christmas
     We wish you a merry Christmas
     We wish you a merry Christmas
     And a happy New Year.
     Glad tidings we bring
     To you and your kin;
     Glad tidings for Christmas
     And a happy New Year!・・・・・・・

 アソーク『ウェスティンホテル』。

 玄関先のクリスマスイルミネーション。
今年のそれは、星屑が頭上に降って舞い落ちるかのような趣向。
噴水の水面に反射する眩い輝きは、見る者を幸福へと誘う。

 Toiにとって、加瀬との大事な思い出の場所だった。左手薬指に
通された金の指輪は、昨年のクリスマスに加瀬から貰ったものだった。
右の指で、そのリングをくるくる回しながら居心地を確かめる。

 携帯の時刻表示はPM6:50.約束の時間には少し早かった。
 加瀬との待ち合わせに自分が先に着いたことなどなかったことを思
出だし、苦笑い一つ零す。

「待ち合わせ」とは言っても、来るはずのない相手を待つもの。
確かに、昨年のイブの夜、来年も一緒にクリスマスを過ごそうと約束
したのは事実だ。だが時間も、待ち合わせ場所も、決めていない。

だから、昨年と同じ時間、同じ場所に「決めた」だけ。

 PM7:00 アソーク「ウェスティンホテル」玄関前で。

 ここに来れば、加瀬と再会出来るなどとは思っては居なかったが
クリスマスイブの夜に、一人あの部屋で居るのは辛すぎた。
 せめて、一人芝居でもロマンティックな夢に浸っていたかったのか
もしれない。

 一人、眩い光のシャワーの中で佇むToi

・・・・・・
    We want some figgy pudding
    We want some figgy pudding
    We want some figgy pudding
    Please bring it right here!
    Glad tidings we bring
    To you and your kin;
    Glad tidings for Christmas
    And a happy New Year!・・・・・

 スクンビッツ通り BTS『NANA』駅付近を過ぎて、渋滞に捉る。
去年もそうだった。腕時計の針はPM6:50を指している。
 ぴたりと止まった車の列は動き出す気配すらない。

---間に合わない・・・

 加瀬は、運転手に所要があるからここで降りることを告げ、先に
帰るようにと命じた。(昨年と同じことを敢えてする)

 マフラーで首元を暖め、手袋で手を守り駆け出すといった風情
は無いが、人混みをかき分けて、「そこ」に向かって走り出す。
 待ち合わせ人が居るという確証もないのに・・・

 駆けながら願う。

---お願いだ、去年と同じように、遅刻しておくれ。
  怒らないから・・・

『ロビンソン』前のツリーのデコレーションに気を取られながらも、
その先を急ぐ。 

 馬鹿げた「賭け」だと知りつつ。


・・・・・・
    We won't go until we get some
    We won't go until we get some
    We won't go until we get some
    So bring it out here!
    Glad tidings we bring
    To you and your kin;
    Glad tidings for Christmas
    And a happy New Year!・・・・・・

 
 加瀬を知る者の記憶では、その後、本社からの2度の帰国命令
を加瀬は拒絶したということだが、それからのことは誰も知らない。


・・・・・・
   We wish you a Merry Christmas
   We wish you a Merry Christmas
   We wish you a Merry Christmas
   And a happy New Year.
   Glad tidings we bring
   To you and your kin;
   Glad tidings for Christmas
   And a happy New Year!・・・・・・

 あの事の後、ToiをBangkokの夜の街で見たものはない。
ジョイの話によれば、シーロム近くにネイルアートの店を出したと
いうことだが、傍らに加瀬の影があったのかどうか・・・。

 微笑み携えた慇懃なワイを残して、ジョイはBangkokの人混
みに消えた。

 
                        Fin

[筆者記]

 Happy X'mas ・・・・・!
 
 長らくのご愛読、心より感謝致します。
 ありがとう、ございました。
                    From BANGKOK


© Rakuten Group, Inc.