「プロローグ」『クルンテープ・恋歌』「プロローグ」 この世に生を得たる物、すべからく雌雄のみ。 雄は雌を追い、雌はその種を受入れ子をなす。 力のある雄は美しい雌を手に入れることが出来る。 それは、時には力ずくであっても、雌は服従する。 雌はその理に従い、己を磨きひたすら雄を誘うことに腐心する。 美しい雌は力を持った雄を引き付け、あらゆる犠牲を雄に要求 することを許される。 それが天より授かりし当然の権利のごとく。 クルンテープ---タイ王国の首都、BANGKOK。 そこには天使が住むという・・・ 「焦がす」と形容される熱帯の太陽。 「蝿」のように交錯する車とバイク、そしてそれらが走り去った後に 舞い上がる「砂埃」。 道路端で営業する屋台にそれが降りかかる。 「ガイヤーン」を焼く紫煙が立ち昇り、狭い路地の軒下で遊ぶ子供たち。 それを慈愛に満ちた眼差しで眺める母親。 親達は汗と埃にまみれて働く。首に巻いたタオルが薄黒い。 やがて陽が落ち、辺りを夕闇が支配する頃、安物の香水の匂いを撒き 散らし、Copyとすぐに判別できるブランド物のバッグを提げた女達が仕事 先へと急ぐ。 それを横目に『エンポリアム』のsyopping袋を提げた女が、我慢できない とばかりに眉を潜め、息を止めその「匂い」をやり過ごす。 それを背中で察した女は無言で返す ーーーふっ、どんな面してようが、どんな氏素性だろうが・・・女は女なんだよ。 いずれの雌も雄の物を咥え歓喜に声を震わせ、そして頂に昇り、果てる。 いずれの雄も熱く熔けた雌の中で己を迸り、一瞬の快楽に走り、果てる。 男と女の理・・・ 東南アジアの大都市、クルンテープ(BANGKOK)で、今この瞬間も繰り 広げられている男と女の理。 男は狂ったようにその地を目指す。 熱帯の土地にふさわしく、焦がすように燃え上がる男と女 女は男どもに蜘蛛の糸を張り巡らせ、絡め虜る。 もがく男を激情溢れる嫉妬と情念で、それを逃すまいとする。 ある男は、その糸を自らの歯で噛み切り逃走する そしてある男は、もがき暴れる力を徐々に失い、その女のもと で精気を吸い取られ、生きた屍と化す。 様々な「恋歌」が生まれては死ぬ。 この地で歌う『恋歌』、その果てに何がある・・・ ジャンル別一覧
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