第六章 「勝敗」-5(第五話)細く括れたティックの腰に羽田は両の手を廻し、華奢な体を強く引き寄せた。 その間も重ねた唇は離れない。 テイックは時折その息苦しさに眉間に皺を作るが、微かな抵抗もすることなく羽田に身を任せていた。 やがて、二人とも荒々しい息を吐きながら、手探りでベッドルーム探した。 互いに着ているものを剥ぎ取る勢いで全裸になると、絡みあってベッドに倒れた。 少し開かれたカーテンの隙間からは、濃い瑠璃色なった空が盗み見をしている。 男と女の荒々しい息遣いと、二つの肉体がシーツと擦れあう音だけが薄暗い部屋に流れていた。 やがて、ティックの息遣いが激しく乱れだし、ついには声を発した。 ---ああーーっ・・・ 羽田は、組み伏した女が発するその声に五感を刺激され、強い欲望が押し寄せてきた。体の奥で眠って いた雄の本能が叫ぶ。 ---(全て・・・尽きるまで・・・) 既に限界まで緊張しきったものが、それを鎮める先を探し始めていた。 逸る自分を抑え、今しばらくこの女の体を愉しみたかったが、ティックの女芯は既に十分濡れそぼっているのが それを探った指先で分かった。 それに反応するかのように、ティックは下半身を捩りながら羞恥から逃れようとした。 そのことは余計に雄の本能を掻き立て、羽田はティックの腰を抱えるようにして、そこに唇を押し付けた。 ---ああーううっ・・・ああっ・・・ 反り返るティックの背骨の弧が美しかった。 その向こうでティックの紅色の唇が半開きになって雌の歓喜の声を次から次へと発しているのが見て取れた。 今、自分がしているような所作を、以前誰かから受けたのだろうかと嫉妬じみた感情が横切った。 既に充血しきったティックの雌芽は最後の頂に差し掛かっていることを示していた。 羽田の男根も激しい血液の逆流で強い勃起を維持していた。 示し合わせたように、ティックは自ら股を開き、羽田はそこに割って入った。 ----ううっ・・・ 羽田は、鳥肌のたつような快感を覚えた。不覚にも爆発しかけるのを堪え、しばしまたティックの唇を吸い体を 抱き寄せた。 そのわずかの間であったが、羽田の冷え切った心の奥が僅かずつであるが、温もりを取り戻していくのがわかった。 ---(このままで居たい・・・) そう念じたことが、ティックに伝わったのだろうか、ふいに重ねた唇を外し微かに聞こえる声音で羽田に囁いた。 ---ずっと・・・このままで居たい。 羽田は無性にティックが愛しく思え、折れんばかりに抱き締め、また唇を重ねた。 そして次には激しくティックの中で動き全てをその体の奥へと撃ち放った。 最後の一突きにティックの子宮は痺れ、その激しい快感が壁を通じて羽田にも感じ取れた。 負の二次曲線のような雄のエクスタシーに比べ、雌のそれはしばらくなだらかな曲線を描いて堕ちていくのだった。 ティックは、大きく長い息を羽田の胸に吐きかけた。 羽田は、手の平でティックの頬を包み込み瞼に一つキスをした。 ティックはすすり泣くように肩を震わせ息を整えている。そして細い肩の震えが小さくなった。 ---もう、これで羽田さんを捕まえておくことができなくなっちゃったね・・・。 ---なんで? 駄々っ子のような戯言だと聞き流す風な羽田の声音に、ティックはもう一度重ねる。 ----うう、うん・・・きっと貴方は私に飽きる。 分かるの・・・男は皆そう。次の綺麗な花へ飛んで行ってしまうのよ、違う蜜の味に惹かれて・・・。 (そんなことはないよ) その言葉が出てこない。 ティックは羽田の腕を手繰り寄せ、そこに寝付いた。 規則正しい息を感じながら、羽田はずっとティックの顔を眺めていた。 ---そんなことないよ・・・ずっと好きだよ。 羽田は、ティックの意識がどこにあるのかも確かめることもなくそう言った。 そして、先程ティックの中で無防備に放ってしまったことにも、(それならそれでも、いい・・・)と思った。 羽田はティックの肩を抱き寄せ、たった数センチの距離をも惜しんで縮めようとした。 それは、見渡す限りの不毛の砂漠を彷徨う男が、やっと見つけた小さな泉であったのかもしれない。 やっとの思いで手に入れたものは、いつの間にか手の中からすり抜けて失ってしまう。 それは世間の常識にこだわり、出来るだけ失敗のない道を選んできた自分の人生において、その偽り に気づいた時、(今度こそ)とやり直そうとする度に、ことごとく打ち砕かれ失ってきたもの。 (今度こそ離したくない・・・) そして、自分を偽ることなく楽に生きていきたいと思った。 満ちていく心地よい温もりに眠りを誘われ、意識が薄くなっていく自分を見ている。 (ふっ・・・そんなにうまくいのかな?) (第五話 了) ジャンル別一覧
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