BANGKOK艶歌

2006/05/27(土)10:40

「タニヤ。虚飾のネオン」

『バンコクの天使達』(48)

南国の灼熱の太陽が、その勢いをいまだ滾らせ西に沈もうとしている。 タニヤも通りを歩く人の顔ぶれが変わる時間。  長い黒髪をなびかせ出勤してくる女達。ジーンズに包まれた細くしな やかな脚の影は、斜陽とともに、いっそう長くなる。  夜の喧騒とはうって変わって、水を打ったような静けさのタニヤ通り。 そこを歩くタイ人は人並み以上のサラリーを得ているOL達。日本食を週に 何度か食べるために昼時やってくる。  彼女達は、その地がどんな意味のある所なのかは、人から聞いて知って いる。日本人の男が遊ぶ場所。「特有」の場所だと理解している。  陽もとっぷり暮れて、通りの端々に濃い化粧を施し、ケバイばかりの衣装 に身を包んだ女達が立つ。  今日の糧を求めて、女達の戦いが始まる。  昨日も、その前も、いや今週はずっと客が取れない。  そんな焦りを濃い化粧の奥に隠し、生活のためにわざとらしい微笑みを通 りを行く男に投げかける。  男が無視をし、通り過ぎるやその顔は能面のように変貌し、今しがた、た たえていた微笑みは消え失せている。それどころか、「チッ」っと舌打ちし ながら気を取り直してもう一度、偽善の顔作りを試みる。  同伴帰りの男と女が腕を組んで店に戻ってくる時間。その女は得意げな顔を 店の入り口で客引きする女に向ける。  自分の掴んでいる客を ---(さぁーどうぞ。値踏みしてごらん)  と言わんばかりの傲慢な顔。  しかしその女もまた数ヶ月前、同じような「仕打ち」を同僚のホステスから 受けていた。    今日は、華でもあすは分らない世界。  それらのシガラミの全てを吸収しながら、タニヤのネオンは今日も男と女の  舞台を照らす。  そう。。。虚飾に満ちた裏舞台。

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