「騙す女、騙される男」
女は、ソンクラーンに田舎に帰る為に、金作せねばならなかった。田舎の家族には、日系企業の社長秘書として働いていると嘘をついていたので、毎月のサラリーも25000バーツ貰っていることになっている。 先月は客付が悪く、10,000バーツにも満たなかった稼ぎで、家賃とローンを払うと、4000バーツほどしか残らなかった。学費の支払いも滞っており、明日のことを考えると憂鬱な日々が続いていた。 おまけに、母親が入院するために、今回の帰郷には最低50,000バーツは持って帰らねばならない。(どうする?) 店で客が付かなかった日は、店がハネテからコーヒーショップでの稼ぎに期待する他無かった。そこで本来の稼ぎをしている連中からは縄張りを荒らすよそ者として見られ、時にはトラブルにも見舞われた。 そうして、身を削ったにも係わらず、20,000バーツ足りない。 女は「最後の手」として電話帳をくって、以前に相手した日本人に無差別に電話し、営業をかける。しかし、誰もカレもつれない返事ばかり帰ってくる。 そんな時、二週間ほど前に数回、相手した、60才過ぎの日本人の男から電話が入った。(元気か?、ソンクラーンが終わったら、またそっちに行く)といった内容の電話。(飛んで火に入る夏の虫)---ずっと、アナタのことばかり考えていたの。嬉しい---ほんとに?---ほんとだよ。会いたい、でも。。。---どうしたの?---お母さん入院するの、100,000バーツ必要で。、どうしていいか分 らない。 初老のその男は、即座に銀行へ走り、送金してやった。 次回のタイ訪問で、その女に思いを告げ、日本に連れ帰りたいというオファーをする決心がついた。 女は舞い込んだ「ツキ」を当たり前のように考え、その男のことなど指先も考えていないのに、甘い言葉で騙した。 再会を果たしたその男は、思いもしなかったような、冷たい言葉を浴びることになる。---田舎に帰って、結婚して母親の面倒みることにしたの。---そうか。良かったね。 それしか、言葉が出てこない。(金を返せ) そういって罵られるようなことは絶対無いと女は踏んでいた。 何故なら、その男の性格を読みきっていたのだ。(いいかっこばかりして、自分が恥をかくようなことは絶対しない) 二十歳そこそこの小娘の、圧勝であった。