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続きは、球場で。

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F41【episode 5】

F41



     episode 5

 翌朝、三景はいつもどおり9時に出勤して仕事の準備を始めた。
 最初にすることは、パワーストーンの自動販売機をセットすること。

 自動販売機と言っても、ありようは占いゲーム機に近い。
 利用しているのは主に女子中高生で、硬貨を入れて液晶画面に出てくるいくつかの質問にタッチパネルで答えると、最後に占いの結果と小さなパワーストーンが払い出されるという仕組みだ。

 自動販売機は親会社からの支給だが、占いのプログラムやおまけのパワーストーンは予算の範囲内で三景自身が用意している。
 これがよく当たったり、パワーストーンの効果があったりで、リピーターも多い。

 今日は珍しく占いの予約が午後になってからだったため、三景はのんびりと箱庭水晶に“沐浴”をさせていた。
 商売道具、というより相方と呼んでもいいこの石と対話する大事な時間、なのだそうだ。

 と、自動販売機のところで賑やかな女の子たちの声がした。
 まだ昼前なのに学校はどうしたのかと思っていたら、どうやら定期テストの日で早く終わったらしかった。

(なんだ、家族全員来ちゃったよ…)

 仲間に促されてコインパースを取り出そうとしているのは、昨日訪れた主婦とその夫の娘だった。
 丸く収まったと思っていたが、顔を合わせたらやっぱりだめだったのか、親の夫婦喧嘩に悩んで来たのかと不安になったが、どうやら彼女の悩みは全く別の次元にあるようだった。

「何て書いてる?」
「えー…ストレートに言えって!」
「きゃ~!」
「でも振られてもそれも経験だって…」
「えぇ~~~!?」

 思春期の娘の悩みと言えば、そりゃ恋の悩みでしょ。
 一番単純なことを忘れていた自分に苦笑いの三景。

 里中夫妻の娘はカプセルから出て来たロードクロサイトを大事そうに制服の胸ポケットにしまい込み、仲間たちときゃあきゃあ騒ぎながら帰っていった。



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