000000 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

本のある森

PR

プロフィール


Bluebellchat

バックナンバー

カテゴリ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2020.10.13
XML
カテゴリ:本好きのつぶやき
好きな作家をひとり挙げるとしたら、三木卓だと思う。
我ながら不思議だ。子供のころからずっとファンタジーやSFばかり、しかも翻訳もの中心に読んできた。なのに国内の、SFでもファンタジーでもない人が一番好きなのだ。

実は、三木卓氏は過去にSFを、少なくとも一作書かれている。尊敬する方なのでつい敬語になる。
『惑星の午後に吹く風』という作品だ。わたしはこれを、装丁と、なんだかSFらしい、というだけで買って読んだ。そしてものすごいショックを受けた。今まで読んできたSFと違っていたからだ。でも、どこがどう違うのか自分でもよく分からなかった。ただものすごく好きだ、もっとこういうのを読みたい、ほかになにかないか、と思った。
それで、作者の三木卓という人について調べてみた。SFは他に書かれていないようだった。がっかりした。
その時の自分は、SFじゃない、普通の小説は読みたくなかった。だから『惑星の午後に吹く風』は家宝みたいに大事にしていたけれど、三木卓のほかの作品手に取ろうとは思わなかった。
それから長い時間が経って、やっぱりわたしはファンタジーとかSFばかり読んでいた。異世界ものが流行っている今、ファンタジーという言葉は誤解を招くかもしれない。自分が好きなのは、異世界でかっこよく冒険するエンタテイメントよりも(それが嫌いなわけではないが)幻想的で静かな、あるいは妖しい物語だ。でも、現実的な話に興味がない点では同じである。
そんなある日、たまたま立ち寄った書店で三木卓の名前を見つけた。白いハードカバーで、『K』というタイトルの本だった。SFではないようだ。たまにはいいか、と思って買って読んだ。そして夢中になってしまった。
この本は三木卓氏のいわば自叙伝で、癌で亡くなった奥さまとの出会いから別れまでを描いたものだ。こう紹介すると、仲の良いご夫婦の、愛に包まれた日々を描く感動作みたいに思えるが、そうではない。どろどろとした愛憎劇でもない。説明するのが難しい。妙に淡々としてどこかおかしい。そしてぐいぐい引き込まれてしまう。
この本を読んだ数年前、わたしは父を癌で亡くしていた。そのせいもあったのだろうか。ともかくもっとこの人の本を、普通小説でもいいから読んでみたいと思った。
そして次に読んだのが『路地』で、普段の自分なら絶対に読まないタイプの作品だった。なのにこれにも引き込まれてしまった。
それから自伝的作品を3冊続けて読んだ。『砲撃のあとで』『裸足と貝殻』『柴笛と地図』。どれも夢中になった。
SFでも幻想文学でもないのに、なぜ面白いのだろう。
それはあなたが成長して、一般小説の面白さが分かってきたからでないでしょうか。
そんなふうに言われそうだ。でも違う。自分はまあ大人ではあるけれど、恋愛も結婚もしていない。男女の話が分かるほど、現実に生きる人間としては成熟はしていないのだ。ほかの人の一般小説を読んでも、ふーん、そうですか、となるだけだ。面白いものはそれなりに面白い。でも、ここまで夢中にはならないし、他のものも読んでみようという気にはならない。
これを書いているのは、『K』を再読して、いてもたってもいられなくなったからだ。
いいなあ、しかし何がいいのだろう。終盤の、奥さまの闘病シーンは辛いので、逃避も兼ねて「どこが好きなのか」と考えながら読んでいた。
やっぱり分らない。敢えて言うなら語り口というか、読んでる間聞こえてくる声のようなものだろうか。
過去に好きだと思った作家はたくさんいる。でもその作家というより、その人の書くSFとか、その人の書く幻想系のお話が好きなのではないかと思う。こんなに自分の好みから外れたジャンルなのに、でも好きだ、といえる人はほかにいない。

そんなわけで、自分の好きな作家を挙げるとすれば、三木卓なのである。






最終更新日  2020.10.13 20:00:08
[本好きのつぶやき] カテゴリの最新記事



Copyright (c) 1997-2020 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.