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『4ヶ月、3週と2日』
カンヌ国際映画祭で見事パルムドールに輝いたルーマニア発の話題作。 ※一部ネタバレを含んでいますがネタバレ箇所は白字で消してあります。 この映画を観る前にふと思った。 ルーマニアってどんな国?この映画の背景は? 事前に調べておくべきことなんじゃないかと急に焦り、もしかしたらパンフレットに載ってるかもと思って開始前に購入。 席に戻ってページをパラパラめくっていたらやっぱりあった! そしてやっぱり読んでおいてよかった! でないとおそらく映画に入っていけなかった。 ということでパンフレットの説明をまとめると、 当時のルーマニアは社会主義国家でチャウシェスク大統領による独裁政権末期。 1970年代に強引な工業化を進めたが第一次オイルショックと1976年のブカレスト大地震により挫折、莫大な対外債務を抱える。 これを返済するために食料や灯油といった生活必需品までもを輸出する飢餓輸出政策(耐乏計画)のため、食料は厳しい配給制になりタバコやコーヒー、化粧品といった輸入品は一般市民には手の届かない贅沢品であったし、街灯は都市部の主要道路だけに限られていた。 また秘密警察(セクリタテア)の監視による言論の統制、国民の監視も行われ、「レストランなどあらゆる公共の場には必ず盗聴器が仕掛けられていた」と言われている程だった。 そしてこの映画の中核を成す中絶問題。 工業化に伴い必要な労働力を確保するために出産が奨励され、女性には最低3人子供を産むよう押し付けられ、45歳未満の女性は子供を4人産むまで中絶が禁止された。 妊娠は職場単位で定期的にチェックされ、妊娠チェックにひっかかり出産しなかった者は処罰の対象とされた。 違法中絶は厳しい懲罰刑が科せられた上に避妊も禁止され、食料事情も最悪なので孤児や捨て子が大量発生するという結果を招いた。 とこんな時代にヒロインがルームメイトの違法中絶を手伝う二人の女性の一日を描いているのだけど、これがまたなんでそこまでするの?というくらいヒロイン・オティリアの行動が男の自分には理解できない。 これは女性だからこそ分かる気持ちなんだと思う。 正直ルームメイトだからといってガビツァのためにそこまでできないなと思った。 そしてたとえ中絶問題に対してこの映画がメッセージ性を意図的に含めていなくても、軽々しく中絶することに対しての恐怖をとても感じたし、いい加減で責任感の全くないガビツァを通してそういう女性に対する憤りすら感じた。 女性の方の感想を是非聞きたい作品だ。 しかし1シーン、1ショットを用いた映像や構成はまるでドキュメンタリーを観てるかのようなリアルさがあり、夜の場面になると明かりのない街(と認識はとてもできない)はニュースで見聞きする北朝鮮のようで、それも相まって一息もつけない緊張感を感じたし食い入るようにのめりこんだ。 ※ネタバレ 特にこのシーンは非常に緊張した。 「オティリアが堕胎した胎児を目にしたとき、その時にはまだ観客の目にそれは触れていないのだが、出るか出ないかギリギリのカメラワークには手に汗握っていたし、そして呆気なくそれが映し出された瞬間は正直嫌なものを見た気分だった。」 この映画のリアルさは監督が実際に体験者から聞いた話を元にしていることと、まさにこの時代を監督自身も体験していたためだろう。 おそらく本当にそういうことがあったんだなと思うシーンや物がいくつもあった。 とりたて感動するわけでもなく淡々と当時のルーマニアを描いた作品ではあるが、ものすごい緊張感にどっと疲れたと同時に、ルーマニアという国と世界の歴史の一部を垣間見ることができたことはとてもいい経験となった。 そして今ルーマニア映画界ではニュー・ウェーブが起こっているらしい。 この作品はルーマニア・ニュー・ウェーブの第1波であり、それは今後も続々と押し寄せ世界 中を驚かせる作品をさらに世に送り出す可能性を示唆している。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
こんにちは。
やっと、昨日観てきましたよー。 そうか、労働力確保のための中絶禁止だったんですね・・・。 チャウシェスク政権の具体的な政策なんて知らなかったので、参考になりました。多謝。 実際の私はそんなに友情に厚い女ではないけれど(笑)、映画の中のオティリアには、心寄り添ってしまったし、その行動の一つ一つもその崖っぷち状況においては不自然ではなかったので、充分に理解できましたですよ。 こんな目にはあいたくないというのが本音ですけど、そう思うからこそ、いざとなったら開き直ってそう行動してしまうかもーってな感じなのでした。 緊張感にあふれて見ごたえがありましたねー。 (Mar 20, 2008 11:36:53 AM)
かえるさん
コメントまでいただけて感激です! 僕なんてチャウシェスクすら知りませんでしたからほんとパンフレット見ておいて良かったですよ(笑) オティリア自身も友情からくる行動のようではなかったですが、やはり理解できる行動なんですねぇ。 男性の感想は理解不能が大多数だと思います。 けどそれと映画の評価はまた別で、これは当時のルーマニアを描きたかったのだから大正解だと思いました。 (Mar 20, 2008 10:00:22 PM) |
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