銀ぎつねさんのお店ある日、黒頭巾ちゃんは、傷心の赤頭巾ちゃんを連れて、お出かけすることにしました。おおかみとのことで、赤頭巾ちゃんは、大事な赤頭巾をずいぶんと汚してしまったみたいで、少しワインレッドの頭巾になっていました。 黒頭巾ちゃんは、赤頭巾ちゃんと一緒に、どんどん夜の盛り場の奥へ入っていきました。 「緑頭巾さん、お詳しいんですね」 「そんなことはないわ」 黒頭巾ちゃんは、緑の頭巾を被っていますが、夜の暗闇の中では、それはとても黒く見えるのでした。 「さあ、ここよ」 黒頭巾ちゃんは、赤頭巾ちゃんを、地下へ降りる階段が長い長い、深い地の底のお店に案内しました。 重い木のドアを開けると、そこには落ち着いた雰囲気のバーがありました。 「いらっしゃいませ」 中へ入ると、とても素敵な男性が近づいてきました。 「久しぶりだね、黒頭巾ちゃん」 「ほんと久しぶり。銀ぎつねくん、素敵なお店ね」 「やっと来てくれたね」 「遅くなってごめんね。そうそう。紹介するわ。こちらは赤頭巾ちゃん。わたしのお友達なの。赤頭巾ちゃん、こちらはね、銀ぎつねさんと言って、わたしの昔のお友達なの。最近、ここにお店を出したのよ」 銀ぎつねさんと黒頭巾ちゃんは昔、勉強中に知り合ったのですが、銀ぎつねさんは事故で勉強をやめ、バーのバーテンになり、そして途中からホストクラブへ移り、そこでずいぶんたくさんのお金を稼いで、自分でお店を開いたのでした。 「素敵なお店ですね。あのピアノは、銀ぎつねさんがお弾きになるんですか?あれ、フルコンですよね」 赤頭巾ちゃんが店の隅においてある大きなピアノを指差して言いました。 「いや、僕は弾きませんよ」 銀ぎつねさんが言いました。 黒頭巾ちゃんは、久しぶりに会った銀ぎつねさんの指を、じっと見つめました。 昔、とても好きだと思った指なのでした。 けれど、もう、それはずいぶん昔のことなのでした。 赤頭巾ちゃんと、銀ぎつねさんのお話が盛り上がり始めた辺りで、トイレに行くふりをして黒頭巾ちゃんはそっと銀ぎつねさんのお店を出ました。 秋口の風は冷たく、黒頭巾ちゃんはちょっと震えながら月を見上げ、ゆっくりと体にショールを巻きました。 こんなに月の明るい晩には、黒い神様は現れないに違いないわ、と思っていたのですが、帰る途中にふらりと立ち寄ったお店に、神様はいたのでした。 黒頭巾ちゃんはお店の隅で、神様とキスをして、二人で手を繋ぎ、そのお店を出ました。 神様、今夜もありがとう。わたしは神様を愛しています。 黒頭巾ちゃんはぼんやりとそう思いました。 |