ちへこだらけの水泳大会

勧誘

【キトサン】

23~24歳の頃かな?
ある日、友達の裕介から電話がかかってきた。
「聞いて欲しい話があるから、明日の夜あけといて」と。
彼とは18歳の時から友達だが、そういうのは初めてで
一体何なんだぁ???と思いながら「別にいいよ」と答えた。

電話を切ってから、考えた。何の話なのか。
一つ、思い当たった。

その1ヶ月程前、裕介の家で、やっさんと3人で飲んだ時のこと。
やっさんと連携プレーで(?)部屋のロフトに勝手に上がった。
そこには、2つのダンボール箱が置いてあった。
「何、これ?見ちゃえ!」

中には「キトサン」と書いた小箱が、いっぱいあった。
1箱(小箱が)2万円と書いてある。
見てはいけない物を見た気がした。
きっと、この件だな。と思った。

・・・当たってた。(涙)

次の日、裕介は車で家に迎えに来た。
家は歩いて1分程度の所だから、別に歩いて近所の店に行ってもいいのに。
いつもなら「どこ行く~?」なのに、行き先が決まっているらしい。

車を走らせて10分。某ファミレスに到着。
誰かに電話している。
「5分ぐらいで、俺の上司が来るから。」

は?何で私が裕介の上司に会わなきゃいけないの?
「訳分からんよね。・・・あ、俺の名刺渡しとくわ」
そう言ってくれた名刺には、彼の会社じゃない名前。
しかも「特約店・○○裕介」と書いてある。
個人なのに「特約店」て、おかしいじゃないか!と指摘したが、どうしても「特約店」らしい。

暫くして登場した「上司」は、28~29歳ぐらいの、紅の豚みたいな男。
「やぁ、遅れてすみません。私、こういう者です」
名刺には「代理店・○野○○」と書いてある。
やっぱ日本語としておかしい。

ドリンクバーのみ、3つ注文。あ、あたくし、夕飯食ってないんスけど・・・。
そして、裕介、なぜかノートとボールペンを用意。代理店の話をメモする。

代理店は、どうでもいい話をする。
「洋服はどこで買うの?」と聞いておいて、人の答えはろくに聞かず
「自分は、どこそこのブランドのスーツが好きでして・・・」と話し出す。
ロレックスの、めっちゃ高い腕時計を愛用している、と言い、時計をチラつかせる。
「裕介の車はどんな安い車か知らないけど、僕の車は外車なんだ」とか。

席を外したすきに「帰りたいんやけど。ねぇ!」と裕介に言うが、
「お願いやから今は帰らんといて」と、弱々しく答えられた。

戻ってきた代理店は、本題に入った。裕介はメモをとる。
途中で携帯が鳴ると、「人が話してるんだから、携帯の電源ぐらい切っとけ!」
何様なんだ・・・

キトサンと、乳酸菌だか何だか知らないが、商品の良さを、息つく間もなく話し続けた。

キトサンについての研究に、ナントカ省が12億円かけたのだ、という資料やら、
この効果については医者も認めているんだ、と言う。
乳酸菌?この商品だけが、生きたまま腸に届くのだと言う。
「じゃあ、ヤクルトのCMは嘘ですか?あれも生きて腸に届くって言ってますけど」と言うと、しどろもどろになる代理店。
でも、めげずに話す。

「ま、体にいいんでしょうね。」と聞いてやってたら、契約の話になった。
「買う」なんて一言も言ってないので断ると、
「あなた、今までの私の話が理解できなかったんですか?」と言う。
言ってる事は分かるけど、私はいらない。

購入する事を頑なに拒む私と、代理店の戦いは、4時間に渡って続いた。
裕介、一言も口出しせず。

その4時間のあいだ、代理店が強調するのは「金儲け」のこと。
ネズミ講以外の、何物でもない。
(違うと言い張っていたが・・・)
商品の良さについては、もう話すことはないらしい。

これをやってるから、自分は大金持ちになり、親孝行できているし、
高級ブランド品も、好きなように手に入るのだと。
今やらないと、絶対に後悔するんだと。

そりゃ良かったですね。でも、私はや・り・ま・せ・ん!

最後には「これだけの話を聞いてもやらないなんて、あんたバカだ」と言われたので
私は「バカで結構ですよ。」と返しておいた。(微笑で)
こんな話で、しかもドリンクバーなのに1杯しか飲まずにいた。

さぁ、やっと帰れる。・・・そういう訳にはいかなかった。
「ドリンクバーのお金・・・」
ブランド買いあさりで、高級外車に乗ってる奴が、飲み物代ぐらい払え!
と、心の中で思い、控えめに「え?私に払えって?」と言うと
裕介が「俺が誘ったから、出すよ」と、私の分も小銭を出した。

更に、代理店と特約店で、2人だけの話があるらしい。
代理店が「ちょっと席を外してくれます?」と言うので、10分ほど待った。

私の所へ来た裕介は、ちょっとやつれ気味。怒られたのか?
そして、車に乗り込んで、私からも攻撃を受ける。


ちなみに、やっさんは勧誘をうけなかったようだ。
事細かに報告しておいたら、暫くして、やっさんからこんな連絡があった。

「12億円かけてナントカ省がキトサンの研究をしたとか言って勧誘する
ネズミ講のこと、TVでやってたよ。やっぱり嘘だってさ。」

ふふ、ふふふ・・・。


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