ちほの転び屋さん日記

2006/05/14(日)12:22

不法原因給付と横領-悪い奴を処罰して悪い奴を保護する?

いたづらにむつかしい刑法(17)

表記の論点、たとえばこういう事例ですよね(金銭の占有の話はとりあえずぶっとばします)。 「Aは、麻薬購入資金としてXに500万円を預けた。けどXは、全額慈善団体に寄付してしまった。」(「慈善団体」とかいって、これから言おうとする方向にかなりバイアスをかけてるのは姑息でしょ) で、Xに横領罪が成立するかどうかで肯定説と否定説が分かれているんですが、この論点も、以前、防衛の意思について述べたのと同様(こちらを参照)、犯罪成立を肯定すればするほど法益保護効果が強まるってもんじゃないよって問題だと思うのです。 横領罪を肯定するとどうなるかっていうと、Aは安心してXに麻薬資金を預けられるってこと。 他方で、Xは、麻薬を買えば麻薬取締法に違反するし、他に使っちゃえば刑法に違反するし、じゃあ、使わないでずっと持っていたらいいのかっていったら、たとえばAが「3日以内に麻薬を買ってこい」って委託してたら、ほっといたら委託の趣旨に反しちゃうんじゃないの。まあ、この場合はXは領得してないっていえば横領罪は成立しないんだろうけど。 要するに、横領罪を肯定するってことは、頼まれた悪い奴を処罰することで頼んだ悪い奴を保護する結果になるってこと。そんなAの財産なんか保護してどうするのさ。 じゃあ、横領罪を否定するとどうなるのかっていうと、Aはお金を渡して他人に悪いことを頼みづらくなるってこと。Xは、Aが悪いことのためにお金渡してきたら、自由にお金を使っていいんだもの。そうすると、Aは、他人を使って麻薬を買えなくなっちゃうから、仕方なく自分でやるしかなくなると。これは、悪い奴を孤立させることで悪いことをやりにくくするっていう、盗品関与罪と似たような話だよね(こちらを参照)。 Xが他人の金を勝手に使うのは許せねえ、って思う人がいるのかもしれないですけど、それって麻薬買おうとしたAのお金なんだし。 この問題、刑法と民法が交錯する法秩序の統一性・相対性の問題だってことで争われてるんですが、実は広義の刑法秩序内の統一性の問題でもあるんですよね。 麻薬取締法が「麻薬を所持しちゃいけないよ」って言ってるのに、刑法が「麻薬を買ってきて」っていう委託関係を保護するってのは、矛盾しちゃってるよね。 もちろん、刑法を発動していいのは法的保護に値する利益が侵害されたときだけ、って考えるのではなく、「他人のものを使い込んじゃいけません」というルールに違反すれば、保護に値する被害者がいなくても刑法を発動していいって考えるのであれば、私のいってることは、何の意味もないことですけど。 ちなみに、この論点に関する林幹人先生の民法論文がネット上に載ってますが(林幹人『不法原因給付における「給付」の意義――批判に答えて――(上智法学論集45巻2号)』)、私は未読。委託にとどまる場合でも、横領罪を肯定する以上、悪い奴を保護することにかわりはないと思うんで。

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