もう一つの「お別れ」
世間が、地味に「あさかぜ」と「さくら」という二つの寝台特急のさよなら運転を報じている。特に「あさかぜ」の場合はおよそ半世紀に及ぶ現在の寝台特急の礎を作ったといってもよく、メディアが報じる場面によく遭遇した(とはいえ、東京駅の"現場"の熱気と乖離するほど地味な内容であったが)。思えば、昨年のちょうど今頃。己も九州新幹線の開業を機に西鹿児島(現:鹿児島中央)までの営業廃止が決まった寝台特急「なは」号に一度乗っておこうと、B個室寝台を予約して乗りに行ったものである。(ちなみに「なは」号は現在、京都⇔熊本間で営業運転中である。)寝台特急そのものは、新幹線や航空の便利性の高い愛知県に長く住んでいるとあまり乗る機会に恵まれないのだが、青森や北海道など、どうしても鉄路では乗り換えの多くなりがちな経路の場合には重宝する。ただシーズンさえ選べば飛行機で行くのが圧倒的に安いため、最近は毎回ブルトレでということもなくなった。つい最近では友人と乗った「カシオペア」で、それでももう半年以上前の話になる。そんな風に寝台列車との別れを惜しんでいる2月の晦日、私はコンビニエンスストアの閉店というオペレーションに立ち会っていた。先日の日記でも少し触れたが、競合との競争に淘汰されてしまったといってもいい「閉店」という末路は、決して珍しいできごとではないし、コンビニに限ったケースでもない。ブルートレインも飛行機や新幹線との競争に勝てなかったのである。より便利なものへ消費者が流れるのは自然の摂理である。私が今回閉店に携わったお店は16年以上の実績があったが、昨年の初夏にもとの経営者が契約期間の満了(15年)を機に経営を手放したため、直営店化した。さらに追い討ちをかけるように、便利のいいロケーションに同業他社が新規出店してしまったから、手の打ちようがない。長い年月をかけて店舗も疲弊するのだ。「店舗機能」という業界用語がある。タバコや酒類、切手などの免許制品の有無を指すばかりではなく、郵便ポストはいわずもがなトイレ(しかも男女別かどうか)やATM、さらには大型車が駐車可能かどうかなど、細部にわたる機能がコンビニエンスストアの優位性を左右する。そんな店舗機能の点からみても、見劣りは否めなかった。いよいよ閉店20分前。ゆうせんチューナーをいじって、蛍の光のワルツ版"別れのワルツ"を流し始める。すでに販売できる商品はないが、そこでプチハプニング。「シャッターの閉まる瞬間を見たい」というハタチ前後の珍客が一人、店内に居座りはじめたのだ。さくら・あさかぜには遠く及ばないが、見送り客が一人だけでもいたからよしとしようではないか。申し訳ないけどとスーパーバイザー(経営指導を担当する社員)がなだめて店外に送り出し、さっさと閉める。結局、精算業務などすべての業務を終えて店舗の主電源を落としたのは午前2時過ぎ。いつもと同じ深い夜に、また一つ灯が消えた。