生け捕り編 ★ネズミ捕獲の一部始終★
素敵なアパルトマンだった。シャンゼリゼからひとつ角に曲がったところにある瀟洒なアパルトマン。それが、私と同居人 (注: 現相棒ではありません) の城だった。
入り口にはコンシエルジュ。部屋の窓からは中庭を一望でき、シャンゼリゼからほど近い場所にあるとは思えないほどの静謐さ。宿題をするのも眠るのも大好きなロフトで。私はこのアパルトマンが大好きだった。
この空間にあれが出るなんて思いも寄らず――。
ある晩のこと。テレビを見ていた同居人が、何かを、見た、と言った。テレビの前を横切った何か。それは目にも留まらぬ速さで、一体何であるのか見当もつかない、と言った。私は、どうせ言いがかりだろうと、相手にもしなかった。
それが、また、出たのである。ネズミの形をしていたと同居人は言った。
えええ!? ネズミといったら、病原菌で有名な小動物ではないの!?
しかし私、そういう状況にちょっぴり憧れていたのも事実であった。嬉々として部屋の隅にチーズ (=エメンタール) を置くと、その上にうまくザルを立てかけ、ネズミ捕りの罠を仕掛けるのであった。
しかし。捕まらない。
一週間もすると、私はすっかり飽きてしまった。チーズももったいないことだし、と罠を撤去した。
と・こ・ろ・が!!!
ある夜更けのこと。キッチンでがさごそ音がするので行ってみると、ゴミ箱に入り込んでしまったネズミが、出ようとしてもがいているのであった。ィヨーシ! ガッツポーズを作ると、私は、ネズミを外に捨てようとした。
と・こ・ろ・が。それを止める手が。同居人が、せっかくだからそいつを飼いたいと言い始めたのである。えええ! この、ドブネズミを!? 気は確かか??
しかし同居人。某米系ネズミ産業で働くデザイナーなだけあって、このネズミにすっかりトリコ。飼うと言って譲らない。
ウーン…。考えに考えた私は、ある条件を出した。清潔に洗えば飼っても良し。
そうしてバスタブに水が張られ、ネズミが放たれたのであった。泳ぐネズミ。洗う私。逃げるネズミ。捕まえる私。よくよく見ると、権兵衛さんのような顔のネズミであった。ネズミ色の全身に、ピンクの鼻先。そして鼻のてっぺんがまたネズミ色になっているのである。コソ泥が鼻のあたりに手拭いを巻くが、あれにそっくりなのである。
なかなか愉快。洗いながら私はネズミを観察していた。 と! そこへ!
ピキーーーーーーーーーン!!
今までバスタブを飛び跳ねていた元気なネズミが、突然、硬直したのである。丸々と太った体がピーンと伸びて動かない。たいへんでーす! 私は大声で同居人を呼んだが、叫び声も虚しく。権兵衛の体はほどなく死後硬直が始まったのであった。
同居人は私をなじり、目に涙を溜めながら (←キモい) 権兵衛の亡骸をテーブルに横たえた。つうかそんなとこに置くなーーー!
同居人と私の関係に亀裂が生じたのは、まさに、このときであった。
↓教訓↓
ドブネズミは洗うな。
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