ファーリー・グレンジャー レコードとブック・マニアで孤独癖のある美男俳優
ファーリー・グレンジャー、ハリウッド黄金期に高い人気を誇ったやや癖のある美男俳優。その魅力は単なる二枚目ではなく、青春の屈折したかげりを持ち、したたかに生きるというところにあったようだ。レコードの収集家でブック・マニアとしても有名。ファーリーは1925年7月1日、カリフォルニア州サン・ホセで生を得た。父はカーディーラーで裕福な少年時代を送ったが、家業の失敗からロスに移り、高校進学の傍ら、バイトに精を出した。17歳のとき名プロデューサー、サミュエル・ゴールドウィンに見出され、1943年の『北極星』でデビュー。海軍除隊後、さらに演技を仕込まれ、ゴールドウィンの秘蔵っ子になった。48年、ヒッチコックの「ロープ」に出演、異常心理役をなんなくこなして高い評価を得た。続く「魅惑」や「彼らは夜に生きる」などで一気にスターダムへ駆け上がる。日本デビュー作「われら自身のもの」では一挙に日本のファンを獲得した。51年、再びヒッチコックに起用され、「見知らぬ乗客」に出演、見知らぬ男から交換殺人を持ちかけられる主人公の不安とあせりを巧みに演じた。そして1955年、ルキノ・ヴィスコンティ監督作品「夏の嵐」では人妻の伯爵夫人(アリダ・ヴァリ)を誘惑しておきながら捨て去り、その復讐を受けて死刑にされるオーストリア将校を見事に演じた。彼の代表作と言えるのはこの2本、「見知らぬ乗客」と「夏の嵐」だと私は思う。1950年代後半からはテレビ出演が多くなり、72、73年に「風来坊」「エスピオナージ」などのヨーロッパ映画に脇役で出演した。2007年に自伝を出版、自分がバイセクシュアルであることを明かすとともに、レナード・バーンスタインやエヴァ・ガードナー、パトリシア・ニール、シェリー・ウィンタースらとの恋愛関係を赤裸々に告白している。独身で84歳の今も健在である。