『B.L.T』木原音瀬
【送料無料】B.L.T価格:1,103円(税込、送料別)『B.L.T』木原音瀬ずっと絶版になっていて手に入らなかった作品の新装版。書き下ろしもついて結構分厚かったけど、一気だったな。相変わらず読み手をイライラさせる人物造形にかけてはピカイチだな、木原さん。さて、読みながらずっと、愛憎について考えていた。木原作品は愛と憎が常に紙一重で、この作品もまさにそんな感じだった。相変わらず余計なものは一切排した状況で、どこにでもいる市井の人々がたまたまほもなんだってことを描いているんだけど、最近読んでいるノンフィクションの理論とかぶってしまって、オスという種としての弱さ、情けなさを描くのが木原作品なのかも、とか思ったりしていた。当初、中身については全然知らなかったから、BLTってまさかサンドイッチのコトじゃないだろうなと思っていたのに、サンドイッチだったよ(笑)。この人のタイトルの付け方もまたいつも奇妙で印象に残る。編集さんの仕業のような気がするけど、他の作家さんではあんまりないよね、こういうタイトルの付け方。冒険すぎるからか?で、例の条例が施行されれば、この作品は再販できなくなるから、駆け込み需要なのか?だって出会った当時の話が冒頭にあって(書き下ろし)、相手は中坊だった。小鹿みたいなフレッシュな中学生を電車のなかでずっと見ていた攻は、理性で抑えようとしているのに、ある日つい魔が差して手を出しちゃう。まー痴漢なわけで。でもこの中坊(受)がまた一筋縄ではいかない、おバカなくせに悪知恵だけは回る子で、痴漢したことを会社にバラすと言っては金をくすね、食事をたかり、あろうことか部屋まで提供させる。なんつう悪賢いガキンチョだ。読んでいるうちに気持ち悪くなるくらいの小生意気なガキなのに、この攻はこんな子どものどこがいいのか。いわばこれがテーマで、ひたすら説明のつかない愛憎ばかりを描いている木原さんの真骨頂なんだけどさ。普通の恋愛って、好きって感情だけでは心もとないから、シュミが合うとか、話が面白いとか、尊敬できるとか、なにか代替保障をつけない? 自分が恋愛体質でないせいか、むしろ後者のもろもろが一致した結果「好き」になったりしていたので、そういう要素が一切不要な愛というものは、所詮紙の上、ないし頭の中だけのものという気がするんだよね。でも木原さんのお話は、性格最悪、クチも超悪くて罵詈雑言バリバリ、オマケに手を出すどころかDVに近い暴力を振るう、みたいな最悪の相手に、みんなメロメロになっている。なんでだ? これは愛憎の謎としてぜひ解明したいところだ。今回も攻めは、頭の中では、この子といると自分が傷つくとわかっていながら、「好き」が止められない。長じて受は大学生になり、攻が店長をしている書店でバイトをすることになるんだけど、社会常識すら通用しなさそうな相変わらずおバカでお気楽な受の成長してなさぶりがあっぱれだし、攻もいつも理性と闘って克服してみせると頭では思っていても、本能の前に屈服しているし。途中で、現在の攻は、理想の恋人と同棲していることがわかるが、この恋人というのがオレサマな王子で、自分は平気で他の男を家に連れ込んで浮気するくせに、相手の店長には一切それを許さず、常に上から目線で「お前なんか俺に奉仕して当然」という、かなりな性格。あーなんか思い出しているうちに、好ましい性格の人間が誰一人としていないことに気がつく。狂言自殺までしでかすこのオレサマな当て馬といい、煮え切らない「いい人」の典型である攻も、寂しがりやな癖に、つねに最初に惚れたのはむこう、というのを切り札にしやがる受といい、最初、人格者風で登場したカフェのオーナーといい、どいつもこいつも腹の中はどろどろで、これぞ「ザ・人間模様」ってものを書いちゃうところが、やっぱりただの娯楽小説ではない気がする。これだけ魅力がない人物だからこそ、狂おしいほどの説明のつかない「好き」が引き立つのかとか。うーん。これがもし全然別の作家さんの作品なら「なんだこれ?」って呆れるけど、木原さんの作品だと「相変わらずすごいなあ」と思ってしまうほどにはファンなんだが。後味は相変わらずよくない(笑)。さて、冒頭の意味不明箇所のいいわけをすると、最近、福岡伸一さんとか池田清彦さんの本業のほうの本を読んだりしているんだけど、やはり生物学者はクチを揃えて、種としてのオスの弱さを証明している。繁殖においては、メスは質を担保するし(だから強いオスを選ぶ)、オスは量を担保する(だから浮気する)。動物界ではいかにメスを獲得するかが人生のすべてだし、オスなんていなくても繁殖しちゃう生物もたくさんいる。なんかオスって哀れなんだな。だからはじかれちゃったオスは同種同士でむつみあうのかBL!そしてオスはY染色体の中にあるオス化を促すスイッチ遺伝子が発動しない限りオスにはならないことがわかった。だから性同一性障害ってこれと結びつくのか? だとすると見かけは男だけど中身は男じゃない(Y染色体はあるけどね)という種が一定数いるのも理解できるわ。オスに養ってもらうなんて幻想にすぎず、そもそもメスはオスなんてアテにもしてないから、ある地域の女性たちは家族を置いて出稼ぎに行くし、ライオンの群のオス(キング)は、種付け以外の役目を与えられない。なんか哀れだなあオス。唯一、そうした自然に反旗を翻したのがイスラム教かもしれない(笑)。そして、メスでいるのも疲れるなあ。