『姉の結婚(1)』西炯子
うわあ。「娚の一生」がヒットしちゃったもんで、二匹目のドジョウを狙ったかどうかは知らんけど、どうやら延長線上にある作品っぽい。今回は、アラフォー負け犬(ですらない、と作中で主人公が自嘲気味に言っていたな。ならさらに上行く私の立場は)女子の年の離れた妹から見た、姉の婚活レポート、みたいなもんかな。でも早くも1巻目にして超面白いんですけど。30過ぎまで東京の図書館で司書として働いていた主人公は、数年前、地元の図書館に職を得てUターンし、司書として勤勉にして規則正しい生活を送っている。地方都市の図書館司書! 地味すぎて素敵(笑)。私も一時憧れたぞ。一生好きな本に囲まれて仕事するのもいいかもって。そういや元同僚の妻が図書館司書だが、今は図書館のほとんどがアウトソーシングで民間委託しているから、彼女も民間の司書派遣会社(というのか、図書館運営請負会社?)勤務らしいが、2交代制で夜が遅いときは、夫である元同僚が夕飯を作るんだ、なんてことを最近一緒に飲んだときに言っていた。編集者と司書夫婦でも地味なもんである。さて、この作品に出てくる男のほうはかなりタチが悪くて、精神科医にして著作も多く、メディアにもたびたび登場するという地方の有名人で、しかも逆玉婚なのか、実家が金持ち(病院長)の娘と結婚していて、当然超ハンサム。そして女にダラしがない(かどうかは実はまだわからない)。なぜか中学の同級生だった地味なアラフォー女にちょっかいを出しはじめる。その出会いのきっかけづくりがかなり周到で、ゆえに相当に戦略的な浮気(笑)。しかし、もう結婚に夢すら抱かなくなった堅実なアラフォーは、そんな誘いにも熱くならず、一歩引いている。ここがミソ。細かなディテールがいいよね。ヒロインはアラフォー独身でお金のかかる趣味もないからして、小金はある。地味にしていても、身につけるものは結構質の良い、お高いものだったりする。おろしたての結構お高い靴で走って、ヒールが剥けて、ヒールごと蒔き直しになって数万の修理代がかかって涙目とか、あまりにも同じ経験しているので笑ってしまった。もしかしてこういう世代はみんな同じ経験してるのか? 私のお気に入りの靴なんて、靴の定価以上の修理代がすでにかかっていたりする(10年もの)。さて、主人公には年の離れた妹がいる。あんまり成長を見てきてないし、見事に性格違うし、見た目も妹は華やかで無邪気で男にモテて、片や男を寄せ付けない地味オーラが漂っている、とあまりにも正反対なのに、なぜかちゃかり妹は一人暮らしの姉の部屋に転がり込んでくる。そんな妹を姉は迷惑がっているんだが、ほとんど料理をしない姉に代わっておいしいごはんをつくったり、健全な恋愛経験から人(男)を見る目は長けている妹は、何くれとなく行き遅れの姉の身を心配している。まあ、ちょっと前なら、「上がつかえている」状態だな。しかし、この妹もさ、あまり一緒に暮らしたこともないはずなのに、姉というだけで、邪険にされてもそんなに親身になれるものなのか。きょうだいがいない自分にはなんとなくピンとこないおせっかい。出、中盤から実は浮気性の精神科医の妻が、ヒロインそっくりであることがわかり、あるパーティーでほとんどとりかえばや物語になる。パーティーに着ていく服を選ぶシーンがスプリットスクリーン仕掛けで、古い手だが楽しい。そしてこの妻が、夫の浮気に気づいているし、自分もどうやら浮気しているらしいんだが、西さんのゴテゴテしてないあっさり系の絵でどろどろの浮気劇が読めるとは思わんかった。続き楽しみ。平行してないとキャップ代わりに読んでいた短編集(かなりゴッタ煮)の『西炯子のこんなん出ましたけど』をチビチビよんでいたら、『娚の一生』とこの『姉の結婚』のモチーフみたいな短編に突き当たった。足のきれいな地味な女の子が、書道教室で足フェチの師にいたずらされているところを教室の孫に見られて、成長後再開した二人は、男のほうは妻帯者の市会議員で、女性のほうは司書(実は西さん司書好きか?)、そしてやはり足に抗いがたく、エロチックな靴を贈る、というもの。背景は『娚の一生』を髣髴とさせ、ヒロインは『姉の一生』のようだ。ああなんかゾクゾクする。夢見がちな少女は卒業して、現実どっぷりに生きていて、もはや白馬の王子は必要としないけど、ファンタジーと現実の狭間でちょっとだけ夢を見たい女性たちのための作品、という気がする。地方都市なら抗いがたく存在する縁故や同級生のその後(議員とか役場の職員とか銀行員とか郵便局員とか教師とか司書とか)と関わりながら生きていく話。泥臭くならずにギリギリファンタジーにするワザはベテランならでは。書道の師匠がスケベなのは、私が通っていた書道教室でもそうだった。なんでだ。万国共通なのか?