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カテゴリ:ラノベ・一般小説
これも久しぶりに読み返す。「北の工作員が二つの家族をめぐって命がけで悩む話」という大まかな筋以外はすっかり忘れていて、実に新鮮(笑)。貧乏になったら、新たに本を買わずに、こうやって昔読んで面白かった本を読み返せばいいわけだな。とか言って、この本も、日曜に読んでいた本も、家のどこかにあると知りつつ、文庫で買いなおしたわけだが。 「プラチナ・ビーズ」の主な登場人物が、そのままスライドしていて楽しく読めた。葉山もエディもいっぱい出てきてうれしいよ。坂下もね。出番は少なかったけど、キレた野口女史や、女好き炸裂の仲上氏も健在。坂上がちゃっかり水谷を情報屋として使っていたのにも笑った。おかまの吾郎ちゃんと葉山が連れ立って、田所先生の洋服を買いにいくシーンは、本筋とはなんのかかわりもないから、ファンサービスなんだろうな。 主人公は、北の工作員チョンと彼の2つの家族なわけだが。 前回読んだ時、なんだかすごく泣ける話だったということを覚えていたのに、なかなか涙腺を押されないので、あれ~おかしいなあと思いながらも、アクション映画さながらの後半の韓国大統領狙撃未遂のあらましを読んでいた。で、思ったとおりチョンは殺されるわけだが、その後の、ラストのわずか10数ページ、二つの家族の未来を担う長男と長女で締めくくるところで、涙の堤防が決壊した。「こうくるか! こうきたか!」とそれまでのハードボイルドタッチを180度ひっくりかえすメロドラマに、やっぱりテーマは家族なんだなと納得。 エディばっかりひいきにしていたけど、この本では葉山が成長していて嬉しい。エディの人の悪さを十分承知しながら、駆け引きにでたりしている。エディの行動も発言も読めるくせに、自分の弱さも自覚している葉山は、慎重になりすぎているような気がするよ。ええいっ、なぜそこで押し倒さない!と思うシーンがいくつもあった(笑)。 エディも葉山のことは単なるコマとしてでなく大事に扱って、割と彼のためならなんでもしてやっているように見える。エディ、もしかして、やっぱりあなたの葉山に対するその態度はラブですか? 同じコマでも、坂下は神経が通ってないような人間で、ほうっておいてもロボットのように正確に動くから、やっぱり手をかけるべきは葉山なんだな。 自分の完璧なルックスをも武器になることを重々承知しているエディが、葉山にまで「首の傷を隠すために髪を伸ばすのはいいが、ほどほどに」とか、こまかく指示を出すところがおかしい。おまえはおねえさんかと。そして今回も坂下とともによく走ったね、葉山。 葉山は常に、自分のアイデンティティーがどこにあるのかを探している。前回はそれをサーシャに指摘され、今回は「父の不在」という境遇がチョンの長男(勇気)とシンクロした。その前に、エディには「なにものにも属さない人間でいることなど不可能だ」というようなことを言われているんだよね。エディってば、結構葉山の能力を見抜いていて、その弱さも人間臭すぎるところもひっくるめて愛しているとしか思えないよ。 「プラチナ」もこの本も、「3way waltz」もそうだったけど、五條さんは実際の事件・事故を巧みにストーリーに取り入れて、リアリティを出しているところが秀逸だ。北からの亡命の現状とか金大中大統領来日の様子とか、大物政治家亡命の裏にある司法取引とか。それに舞台設定が、プラチナに出てきたバルカー船もそうだけど、大阪帝国ホテルも周辺の地理を含めて目に見えるようにリアルで、随分取材したんだろうなあ。 同じ登場人物で、9.11以降の横田の姿勢と、拉致邦人帰国以降の北の動きを踏まえた新しい話を書いてほしいんだけどなあ。ああ、でもそうすると葉山は40歳とかになっちゃうし、いつまでも末端のヒラのアナリストではいられないから無理なのかな。もういっそサザエさんワールドで、エディも葉山も坂下も、永遠に年をとらないといいのに。 最後の書き下ろしは、完全にファンサービスだな。葉山に野球ができるとは思わなかったけど、それを遠くからじっと見守っているエディがかわいいよ! エディ! ああ、そうそう。冒頭に出てくる蝶々さんみたいなはかなげな少女が、ハニートラップであることは、すぐにわかったよ。これはちょっと単純すぎる伏線。シークレットサービスは犬死だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.05.16 07:54:44
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