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カテゴリ:BL小説
『紅楼の夜に罪を咬む』和泉 桂 清澗寺シリーズの番外編。もう2年も前に発行されているのか。リンクスに掲載されていた和貴編の続きがノベルズになるのをずっと待っていて、それを読んでからこっちに取り掛かろうと思ってとっておいたのに、さっぱり出ないので痺れを切らしてしまう。まあこの本の本編は和貴とは関係がないんだけど、もう一編収められている「凍える蜜を蕩かす夜」が、14歳の和貴が「小父さま」こと伏見義康に、自ら志願して拓かれるという記念的エピソードだからして(笑)、もっと大事にして後から読みたかったんだけどね。もう我慢できなかった。それにしてもこのシリーズのタイトルのうまさといったら! 言葉のパズルのようだが、よくも毎回こう、話の雰囲気を体現するような文字を集めて組み合わせるものだ。 ページをひらくと・・・おおおうみっしり! 2段組・1行23字詰め×19行。詰められるだけ詰めてみましたって密度。しかも大戦間の上海の話。こんな複雑な場所を敢えて選ぶなんて。近代史は超苦手だけど、それでもこの時代の上海は租界だらけで列強群雄割拠の場だったはずだ。でも和泉さんは歴史モノ得意だし、齟齬なくちゃんと書いているはず・・・と思ってチャレンジ。そして相変わらず濃厚で、ただの状況説明の文章までもがえろいよ和泉さん。 長兄・国貴の宿敵だった憲兵・浅野が上海に赴任するお話。浅野は最初の印象がすんごいヤなやつだったので、上海でだってどうせ諜報活動とかだろうと思ったら、その通りだった(笑)。あでやかなチャイナドレスの受がやけに眼光鋭くて、しかも表紙の二人はハブとマングースのごとき一触即発状態で、とてもロマンティックにはなりそうになかったので、かえって面白そうだと読んでみたら、命がけの狂おしいほどのラブだった。こういうのは好み。 相変わらず浅野という男には、私は魅力を感じないが、世に言う仕事一筋の真面目な男で、男子たるもの色に溺れて己を見失ってなるものかとか思っているのに、宿敵であり運命の相手とも言える男と出会ってしまう。ここがツボだった。そして浅野だからして相手はただの男ではなくて、一筋縄ではいかない「上海の治外法権」だった。 受の天佑は妓楼のオーナーで、昔はそうだったにしろ今は別に男娼ではないし、長身で手足も長い美丈夫だし、色仕掛けでアプローチする設定にはなっていない。なんつうか、攻的な受だったよ。行動も誘い方も。どっちもリンクス以外では出せないような珍しいキャラだし、時代背景もここまで詳細に書いて大筋から浮かないのはさすが和泉さんで、期待していなかった余計好みだった。しかも受は、父編での重要キャラだった嵯峨野公爵のご落胤というミラクル設定。 双方にとって殺したほうが都合がいい運命の相手で、でも溺れていて、命かけてるけど世間的な義務も果たさなくちゃいけなくて、「お前を殺すのは俺だ」「俺が殺してやる」という、大好物海賊BLみたいなおいしい台詞が頻出して悶絶した。いいよいいよこういうの。時代ものファンタジーでしか書けない命がけBL! 互いに国とか体制に縛られていて、しかもそれぞれ守るべき大事な存在があるという、相似形のきれいなシンメトリー関係にも萌えた。その後の二人も読みたいぞ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.10.13 07:18:39
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