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カテゴリ:BL小説
『手を伸ばして触れて』名倉和希 初めて読む作家さん。本格的にBL小説を読むようになったきっかけが、リンクスの「コルセーア」と「月と茉莉花」だったので、久々の盲目ものかとちょっとだけ期待していたんだが。まあ、いろいろと残念だったわけで。 なんだろうこの中途半端さと既視感。事故(火事)で両親と家を同時になくし、自分も失明。何もせず1人暮らし。やたら親切な隣人に恵まれている。視力は手術すれば治る。 これが受の設定だが、同様の要素を持った作品をこれまでにも複数読んだことがある。 今回は両親の死が殺人であり、5年経ってそのナゾに火をつけに来た雑誌記者と、今だ事件を追っている老刑事と、毎日のように様子を見に来る幼なじみが協力して犯人探しをするんだが、ミステリーとしてもサスペンスとしても薄ら寒い。なんか超薄くて、これじゃアジェンダ読まされているみたいだよ。 そもそもこの作家さん、中途失明者についてなにも調べてないような気がする。このあたりの福祉行政は手厚いから、共同生活をしながら見えない生活に慣れるための訓練施設とか全国にあるはずで、そこでおそらく血のにじむような訓練をしているはずだが、そこがすっとばされているので、全然苦労しないまま、1人で暮らし始めたように見える。何度もつまづいて転げ落ちそうになる受は、白杖を落とすが、実際には手にベルトを絡めてから白杖を握るはずだから、簡単に手から離れることはない。 それに事故当時、彼は未成年だったんだから、遠くても縁故を当たるはずなのに、近所の幼なじみの家で暮らしながら、一軒家を建てたんだろうか。ものすごく不自然。成年後見とか保証人どころか、保護者が絶対必要なのに、すべて割愛されている。障害者の1人暮らしだったら、ソーシャルワーカーが関わって支援しているんじゃないのかなあ。自立支援法って法律だってあるんだから、掃除とか食事の支度とか、ヘルパーが入ってやってくれてるもんだと思うんだ。だって1人暮らしなのに掃除も洗濯もしている様子はないしさ(笑)。乙一さんの「暗いところで~」みたいに、世間と接触を断っている設定ならわかるんだけど、そうじゃないから余計に気になる。 BLってそういう手続きをきちんと書かないから、いつまでたっても「こんな社会ねーよ」ってお粗末さから逃れられないんだな。だったらいっそ、架空の時代・架空の都市でのファンタジーにしちゃえばいいのに。そうなれば主人公は超能力だって使えるぞ(笑)。 雑誌記者の攻は会うなり受に一目ぼれで、2回目だか3回目だかでもう手を出そうとしているし。でもそれよりもっと納得できないのが、犯人とその動機だ。犯人探しの過程もだけど、肝心の犯人の動機や方法らがお粗末すぎて、それすら見つけられなかった警察はなにやってんだと。これじゃ先の捜査はこども警察だったのかと思ってしまう。スーパーのオヤジは、善人面して毎週食材を届けて、何をしたかったんだろうか。そういうところちゃんと書いてもらいたいけど、あくまでラブが主体だから、棚上げされてしまっている。 親切に飯まで作ってやっているおせっかいな幼なじみは、自分の人生のかなりの時間を主人公に割いているのに、下心はないの? それとも月々のお手当が出ているんだろうか。本来なら、この友人の善意は障害者の自立を妨げるものだけど、BL的には実はずっと好きだった……という展開があるのかと思ったが、それもなかった。ただのヒマないい人なのか? あーだめだだめだ。細部の詰めがゆるゆるなので、まったくお話に没頭できなかった。自分で選んでおいて、はずれるとすごく自己嫌悪。だからこそ最近は、自分の好みに合う安定した筆致の作家さんしか読まないようにしていたのに、どうしてまた墓穴掘るかなあ。残念。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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