|
カテゴリ:BL小説
新刊で手に入れてから1年以上経ってしまった・・・。最初、20ページくらい読んだ段階で、木原さんの「冒頭ふつーっぽい」のは要注意フラグが頭の中に立ったので、読む方に体力と覚悟の要る話だと思って、中断したまま忘れていた。 新書判2段組だが、妙にポイント数も小さい。版組みも版面の天地ギリギリいっぱいでみっしり詰まっている。ただでさえも内容が重くて苦くて読むのがしんどい話だと予測されるのに、すでに読む前から版組みで読み手の腰を引かせてしまう。なかなかやるじゃないか、ホリーノベルズの木原さん担当編集者!極くフツーのリーマンとその温厚にして仕事のできる上司。普通の構造だ。木原さんにしては珍しいほど。 ゲイなムードは微塵も無くて、凡庸にして野心だけはある攻(だと後で知れる)が、花形部署への異動を希望して、人望のある上司と取引をするところから、一気にドロドロムードになっていく。だって上司は普通の人に擬態している、とっても深く心を病んだ挙句にヘンタイさんになった人だったんだもん。登場人物の擬態と、一見普通のBLのような擬態と、構造がダブルに擬態した、読み手をも欺こうとするようなお話。 あー重い。そして読了して2週間以上経つのに、まだ印象をまとめられない。重すぎる。木原さんのは娯楽では読めない話だよなまったく。そこが好きなんだから自分も大概ヘンタイさんなのかもしれない。 でも重すぎて、途中で西村賢太の『苦役列車』に逃げたら、この古風で無頼な私小説のほうがずっとこころに優しかった(笑)。 弄りまわしていた時間が一番長い作品だったとか、最初に同人誌で発表したときは途中までだったと、あとがきにあったけど、そりゃそうだろう。こんな面倒な閉塞感に満ちた出口のない作品、落としどころなんてどこにもないのに、まとめようとしなくちゃならないんだから。 あ、でも途中までだったという箇所はわかった。上司に異動と引き換えに体を提供し、攻として受に襲われるという滅多にない経験をして、その嫌悪から上司を間接的に交通事故に遭わせて、見捨てて逃げたあたりで終わったんだろうなと感じた。いや、その直後、上司が北海道に転勤になって、自分は裏切られたと一旦は襲った相手(しつこいが受)を恨んでみるが、実はちゃんと異動が叶った、というあたりかもしれない。あっけにとられて、でも自分の身の上しか考えられないお年頃だから、そのまま忘れちゃったふりをするあたり。あ~読み終わって時間が経つのにこんなにはっきり覚えているのも珍しい。なんかまだ憑いている感じがする。 本当に木原さんって恐ろしい。医療職(ナース?)だったというウワサがあるけど、この二人の精神の病みようは、そうとしか考えられない。あわわ古今東西、フロイトあたりからユングだのフロムだの、あらゆる精神分析の症例を調べ上げていたらどうしよう。受のヘンタイぶりが際立っているから目立たないけど、実はそんなヘンタイさんを深く理解できないまま深みにはまっていく攻のほうが、もっと病んでいる。そんなお話。 あ、そうそう。このタイトルから私は童謡の「唄を忘れたカナリヤ」の一節を思い出していたんだけど、あの歌詞は、死んだカナリヤの葬り方として、月夜の晩に船で海に流せば(水葬?)魂がよみがえるというような内容だけど、この作品も似ている。心が死んで盲目となった攻が月夜の晩に海で救済(再生)されるお話。童謡からBLができるとは思わなかった(笑)。 そして意外にもラストはハッピーエンド。もちろん木原流の、という条件つきだが。 もひとつ。イラストは日高ショーコさんだったんだが、全く印象に残らない仕事だった。絵がヘンとか手抜きとかいうのではなく、何一つ二人を描ききれないというか。「美しいこと」(だったっけ?)ではなかなかいい仕事をしていたと思うのに(いまだに表紙を覚えている)、結構挿絵仕事にはムラがあるのね。
[BL小説] カテゴリの最新記事
|