日々是徒然

【送料無料】ゴールデンビッチ 価格：580円（税込、送料別）

なんちゅうタイトルだろうと思ったけど、読んでみたら大好きな「犬」シリーズじゃないか！読んでみれば、これまで以上にいろいろとそぎ落とした文章なので、ひどく省略が多い。どんだけ行間読めばいいの？　このシリーズに慣れているファンならよろこんで（自虐的に）パテですき間を埋めるようにして読めるけど、初めて読む人にはいろいろとポカーンなお話になっているんじゃないかとちょっと心配。それぐらい推敲しまくっているのがわかる。すごい時間がかかっているんだろうなあ。

最初、丁寧に書きすぎて、これじゃ情報が多いと、そぎ落としていく過程が面白いんだよね、きっと。実際には書かないで、頭のなかで膨らませていくだけかもしれないけど。削った部分を創造力（妄想力？）で埋めていく作業に、どこまで読者がついてくるのか試されているような気もする。

でも独特の体言止とか、心情を小出しにしてくクレッシェンドにしてみせる手法とか、それが効果となって、同シリーズの前作よりはるかに息の詰まるようなスリリングな展開なのに、登場人物の心中が痛いほど伝わってきて、切ない切ないラブストーリーになっている。

もこの作家さんは、あざとくうまい、上質のラノベを書く人だ。別にBLに固執しなくてもいいと思うんだけど。少女漫画やコバルト文庫で育った女子が、ちょっとだけスリリングな刺激が欲しいときなんか読むと、誰もが感動できるお話なんだよなあ。色眼鏡でみられなくてすむステージに上がってほしい。

さて、「犬」シリーズでは、第一作のワンコが一番好きだったが、二番目の美人犬もよかった。そして今回はいきなりなビッチ犬で、最初からかなーり下品だったけど、どうやら警察や公安の諜報活動、ソビエトとの関係は一番現代に近くて、五條瑛さんの鉱石シリーズや今野敏の警察小説と重ねながら読んでいった。玄上さん、絶対どっちも読んでいると思った。

いろんな仕掛けがあるシリーズで、まず「犬」という、戸籍もなく人ですらなく（確か行方不明になると「遺失物」扱いなんだっけ）、でも誰よりも知能があり感情もある愛すべき生き物を創造した時点で、私なんか構造だけで泣けてくる。
今回は研究所はそんなに出てこなかったけど、生体としての特殊能力と脆さ、両面があるところがまず好み。そして犬の飼い主になる人間（攻）は、なんらかのトラウマ持ちで、犬とかかわることでカタルシスを得る。なんという理想的な構造！　これで泣ける話を書けなかったらだめよね。でもこんな構造、他の作家さんでは読んだことがないから、この構造（システム、といってもいいかも）を思いついた時点で勝ったも同然だ（何に勝つんだ一体！）。
そして同じ手になんども泣かされたたまるかと思いながら、毎回泣かされる。今回はジャッカルの日みたいなスナイパーものの要素と、ビッチな行動が目立って、それほど泣かせるポイントは厚くなかったけど、それでも何度もウルッとした。でも愛が成就した証拠とはいえ、ラストのえちシーンがくどいかなあ。それと、文中に「ビッチ」が頻出すると、どうしても英語変換しちゃうので、なんか微妙だった。もっとかわいく呼んでやれよ！

ところで、なんで今回、イラストが竹美家ららさんじゃなくなったんだろう。すごく合っていたのに。今回の人もキャラの造形は竹美家さんに近いけど、激しいお話をファンタジーでくるんでくれるような甘さがない。できれば同じ人がよかったなあ。