[読書レビュー]の記事一覧 | 映画と出会う・世界が変わる

[読書レビュー] カテゴリの記事

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読書中■書店ミステリー

今、「配達あかずきん」を読んでいる。宮部みゆきの「淋しい狩人」が古本屋ミステリーならば、こちらは書店（新刊書）ミステリー。評判通りなかなか面白い。「書店の謎は書店員が解かなきゃ！」というコピーがいいし、その通りの物語。感想は後日に。映画の話題がちりばめられて映画ファンがにやりとする映画館ミステリーというのはないだろうか？

2006年08月23日

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オススメ映画本■「シネマ頭脳」

「シネマ頭脳」（フィルムアート社刊）という本があるが、これがなかなか面白い！＜映画を「自分のことば」で語るための＞というリードがあり、「磨け鑑定眼！鍛えろ評論力！グラッツァー先生の実践映画批評名講義」と惹句がある。グラッツァー先生とは著者ロバート・グラッツァーのこと。映画の内容や感動を他の人に説得力あるように伝えるのは意外と難しいのであるが、それを自分の言葉で生み出せるのが「シネマ頭脳」のようで、読んでいて納得の連続。そのなかでも「サウンド・オブ・ミュージック」をワーストミュージカルと断定した根拠は、この映画が大好きな私も納得である。面白く実用的で、かつ映画について深い考察を与えてくれる本をお探しの方、是非、どうぞ。

2006年07月19日

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「噂」（荻原浩）■ラスト１行の衝撃は本物だ！

「衝撃のラスト１行に瞠目！」というコピーに偽りはない。本当にラストの１行には驚いた！この小説で扱っている事件は猟奇的なものであるが、登場人物たちのリアリティが、その陰惨さを打ち消している。特に主人公となっている上下逆転関係の中年刑事と年下の美人刑事のコンビ。彼らの子どもとの関係を示すエピソードや渋谷にたむろする少女たちの様子など、非常に活き活きとしている。物語の展開も実に見事。そんな展開での最後の１行であるが、これが破壊的な衝撃なのである。以下は読んだ方への質問。もしかして、渋谷で会ったピンク娘は、本当は○○（あえて伏字）なのだろうか？化粧でわからなかった・・・？

2006年05月17日

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本屋大賞って何？

第３回本屋大賞に「「東京タワー　オカンとボクと、時々、オトン」（リリー・フランキー）が決定した。「本屋大賞」というのは、全国の書店員が「一番売りたい本」とのことであるが、この本、今さら書店員が「一番売りたい！」と言っても既によく売れているではないか。我々が「本屋大賞」に期待するのは、こういう種類の本ではないのだ。既に売れている本ではなく、「こんないい本あるのだが、いろんな事情でなかなか目立たない。こういう本がもっと売れることで、みんなは読書の面白さを知って、さらに波及効果があるはずだ」という本を選んで欲しいのだ。こんな選出では、各社持ち回りと悪評の「日本アカデミー賞」と大して変わらない。書店員の方、もっと勉強して下さい。以下参考-----------------------------------------------------------【本屋大賞設立の経緯】売り場からベストセラーをつくる！本が売れない時代と言われます。出版市場は書籍、雑誌とも年々縮小傾向にあります。出版不況は出版社や取次だけではなく、もちろん書店にとっても死活問題です。その状況の中で、商品である本と、顧客である読者を最も知る立場にいる書店員が、売れる本を作っていく、出版業界に新しい流れをつくる、しいては出版業界を現場から盛り上げていけないかと考え、同賞を発案しました。

2006年04月07日

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新刊！「フランソワ・トリュフォー」

「フランソワ･トリュフォー」という本が出た。５５０ページを超す分厚いもの。セルジュ・トゥビアナとアントワーヌ・ド・ベッグという共に「カイエ・デュ・シネマ」の元関係者による伝記である。セルジュ・トゥビアナは「フランソワ・トリュフォー盗まれた肖像」というドキュメンタリー映画も作っている。これからしばらくはこの本で楽しもう！「フランソワ・トリュフォー」は、どういうわけか原書房発行で、翻訳も、どういうわけか山田宏一ではなく稲松三千野。

2006年03月21日

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宮部みゆき「不文律」

宮部みゆきの「不文律」という短篇を読んだ。文庫本にして約１８ページという長さであるが、これがすごい。短篇ならではのインパクトだ。埠頭から一家４人が車ごと転落するという無理心中を疑われる事件が起きる。この小説は、この事件についての家族の親類、同僚、子どもの級友、警察関係者などのコメントだけで構成されている。最初はごく普通のコメントが並ぶが、それが重なっていくうちに思いがけない展開が！サスペンスが高まりながら、意外な真相が明らかになる。こういう短篇を読んだときの驚きは何ものにもまさる。

2006年02月26日

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「心理試験」■江戸川乱歩のベストワン

多数ある江戸川乱歩の作品では、これがベストだと思っている。短篇であるが、３００ページくらいの長編を読んだようなボリュームと満足感を味わうことができる。天才犯罪者と天才探偵（もちろん明智小五郎）の対決、しかも論理の対決である。犯人はあらかじめ登場して、犯行も明示される。さて、この完全犯罪は、どこに綻びがあるのか？これは読者への挑戦でもある。論理だけで見事に解決される結末にこれこそ推理小説の醍醐味だと、私は、これでファンになった。事件と犯人の人間像はドストエフスキーの「罪と罰」を、犯人の心理はポーの「盗まれた手紙」をトレースしていると言われるが、何度もの再読に耐えうる倒叙ものの傑作である。

2006年02月21日

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「となり町戦争」■問題提起の作品

作者が若手であったので、一種の擬似イベント小説で奇想天外なＳＦタッチかと思ったら、淡々と話が進んで行く、まるで小津の映画を小説にしたような内容である。淡々と進むにしては、内容は非常に刺激的だ。それにしても発想がすごい。戦争は公共事業であり、日常生活の中で静に展開していく。考えてみれば、この小説の内容は、ほとんど戦争が出来る国になった日本の現実の姿ではないか。また、戦争が領土拡張・資源確保を旗印にするのではなく、公共事業的な、あるいは平和の為という装いをもって実施される現代においては、戦争を考える手がかりや問題提起となるのではなかろうか。読んでかなり時間が経つが、これは最近読んだ中では最も刺激的な小説である。

2006年01月04日

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日本２００６年＝「ベルリン日記」

ひどく気が滅入って、どうにもやりきれない。ワイマール共和国時代のあのベルリンがなつかしい。のんびりして開放的で、文化的だったあの雰囲気、髪を短く切ったしし鼻の若い女たちや、髪を刈り込むか、長く伸ばすかした－どちらにしても大した違いではないが－若い男たち、彼らはわれわれと夜っぴて、ありとあらゆることを知性と情熱をもって議論しあったものだ。ところが今は「ハイル・ヒトラー」の叫び、かかとをカチッと合わせる音、それに通りをしょっちゅう行進してゆく褐色シャツの突撃隊だの黒い上衣のＳＳ（親衛隊）が、私の神経をいらいらさせる。---------------------------------------------------これはウィリアム・シャイラーの「ベルリン日記」の一節である。１９３４年９月のベルリンであるが、これは現在の日本にも通じることだ。一部の固有名詞を置き換えるだけで、今の日本の状況だと思う。映画「ヒトラー　最期の１２日間」は力作であったが、我々にはむしろこのシャイラーの「ベルリン日記」の映画化が必要であったのではなかろうか。今、我々が読むべき本である。

2006年01月01日

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歌謡曲映画が映し出す時代の姿

「ＡＬＷＡＹＳ　三丁目の夕日」と「カーテンコール」を見たことにより、次の本を再読中である。「御三家歌謡映画の黄金時代」橋・舟木・西郷の「青春」と「あの頃」の日本藤井淑禎・著平凡社新書動機はむしろ、「カーテンコール」で「下町の太陽と「いつでも夢を」の一場面を見せてくれたことにある。昭和４０年代に量産された歌謡曲映画こそは、高度経済成長をひた走る日本の社会を映し出すものだという姿勢で書かれた内容で、映画を通した時代論である。おそらく作家論や映画史からは無視されているであろうプログラムピクチャーばかりであり、具体的な作品、歌手、歌を取り上げており、非常に説得力がある。映画は時代の鏡であるということがよく判る。お正月休みにでも気軽に読める本としてオススメ！

2005年12月27日

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「住宅展示場の魔女」■人間はハマるもの・・・

本岡類という作家には「真冬の誘拐者」と「鎖された旅券」という２作品で強い印象が残っている。今回、初めて短編集を読んだ。「住宅展示場の魔女」（集英社文庫）がそれ。８つの短編が収録されているが、テーマは「ハマる」。人間は何かにハマってしまう習性があるが、そのハマるとはどういうことか、また、ハマってしまったらどうなるのかということをミステリー仕立てで描いたものである。「通販」、「懸賞応募」、「釣り」、「服装フェチ」、「住宅単事情見物」などにハマった人たちの顛末が、あるものはブラックユーモア風にあるものは本格ミステリー風になど様々なスタイルで語られる好短篇集。表題作は、恵まれない境遇を住宅展示場見物で晴らしておく女性の物語であるが、これには共感もでき、なかなか面白い。「あとがき」のタイトルは「人間はハマってしまう葦である」。「あとがきベストテン」を選ぶとすれば、これは入ると思う。

2005年12月24日

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鈴木尚之氏の訃報と「私説・内田吐夢伝」

「飢餓海峡」、「宮本武蔵」などの脚本家・鈴木尚之氏が亡くなられた。７６歳。この方の作品として映画ではないが、「私説・内田吐夢伝」（岩波現代文庫）という本を忘れてなるまい。この脚本家が師事した巨匠・内田吐夢監督の伝記である。内田吐夢は１８９８年に岡山で生まれた。１６歳での年季奉公から放浪を経て映画監督として安定した地位を獲得するも、満州に渡り、満映へ。長い抑留後にやっと帰国。その後は日本映画の黄金期を支えた監督として数々の名作を撮り、鈴木尚之は脚本家としてそれらを支える。後半部は内田吐夢監督自身の私生活上の苦悩と創作上の苦悩に鈴木氏自身の体験も加わり、まさに内田・鈴木の創作の現場を実感できる。日本現代史と戦後映画史の一面をも読み取ることができる優れた伝記であり、まぎれもなく鈴木尚之の代表作のひとつである。巻末に深作欣二の解説が付いている。

2005年11月29日

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松本清張作品の面白さに改めてふれる

先日、松本清張の「点と線」を再読して、改めてその面白さを認識したが、実は最近、宮部みゆき責任編集の「松本清張コレクション」（文春文庫）も読み出している。そんな中で次の本も、非常に面白く、清張ミステリーとその時代背景への良きガイドブックとなっている。清張ミステリーと昭和三十年代　　　　　　　　　藤井淑禎・著（文春新書）松本清張を読む　細谷正充・著（ベスト新書）これまでにもいろいろと読んではいるが、松本清張作品には「はずれ」がないと思っている。もちろん未読の作品も多く、全作品制覇をめざしてもいいかと思っているところである。

2005年10月30日

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「点と線」を再読■やはり面白い！

ある事情で松本清張の「点と線」を再読することになった。推理小説というのは「犯人」と「トリック」がその核であるので、それらが判っている作品を再読するとどうなるかという興味もあったが、これがなかなか面白い！以前読んだときからかなり時間が経っているということもあるが、再読に値する作品である。「日本の推理小説の概念を変えた記念すべき作品」との評がある作品で、その通りだと改めて実感。昭和３２年という旅が贅沢であった時代で、背景となる交通事情も現在と大きく異なるが、今読んでも決して古びていない。今なら、こんなことはありえないとか、今なら、こんなことはしないよなという突っ込みを入れる余地は全くない。そのようなものをはねつける力があるのだ。この作品の核は「アリバイ崩し」である。実は犯人はある程度、示唆されている。そうした設定のもとで時刻表を駆使しながら、しかし、数字遊びに終わるのではなく、人間が持っている思い込みを交えて探偵（警察）と犯人との知恵比べに読者も引き込まれ、ついつい推理に参加してしまう。殺人現場は福岡・香椎の海岸であるが、北海道までの範囲で物語は展開する。背景に組織悪があり、それもこの作品が持つリアルさを引き立てて、後にジャンルとして確立する「社会派推理小説」のさきがけであることがわかる。「私はこれで推理小説が好きになった」と言う人が多いのも納得である。

2005年10月28日

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「中国大女優・恋の自白録」■恋と金儲け・・・痛快な自伝

１９日の日記でパトリシア・ニールの自伝を紹介して、そこではロアルド・ダールが「悪役」であることを書いたが、もし、ダール側から見たらどうなのだろうか。おそらくパトリシア・ニールについては、つらい書き方になっているのではないかと思う。ダールの自伝や伝記はないのだろうか。俳優や監督の自伝・伝記を読むと、いろいろと面白いことが発見される。「もしも、この人があの人・あの出来事に会わなかったら、あるいは会っていたら」という想像をしたくなる。それが時には単にその人の人生だけではなく、映画史が変わったかも知れないことを想像するのは、なかなか面白い。映画「芙蓉鎮」で主役を演じた劉暁慶の自伝「中国大女優・恋の自白録」（文藝春秋）では、彼女の恋、結婚、ビジネスが実にあけすけに描かれている。この中でかなりの部分を占めるのが「芙蓉鎮」で共演した姜文との恋である。その時点で、劉暁慶は大スターの地位を確保していたが、姜文は、まだ新人で彼の方が８歳年下。姜文はその後に張芸諜監督の「紅いコーリャン」にも出ているのであるが、この撮影中も彼は毎日のように現場から抜け出し、その撮影スケジュールは大幅に狂い、監督の悩みはかなりのものであったらしい。もしかしたら、そういう苦悩の中で張芸諜と鞏俐は恋におちその絆を強めていったのではなかろうか。もし、姜文と劉暁慶との恋がなく、「紅いコーリャン」の撮影がスムーズに進んだら、張芸諜と鞏俐というカップルとあの数々の傑作は生まれなかったかも知れない。ふと、そんなことを考えた。「中国大女優恋の自白録」は、様々なタブーに挑戦して、スキャンダラスであることを超えて、痛快ですらある内容だ。

2005年10月21日

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（追記あり）「真実　パトリシア・ニール自伝」をお薦めします

映画「チャーリーとチョコレート工場」が好評であるが、その原作者ロアルド・ダールその人が登場する物語がある。物語といってもノンフィクションである。女優パトリシア・ニールの自伝「真実」（新潮社刊）がそれ。彼女はデビュー当時は「第二のガルボ」として売り出したスターである。パトリシア・ニールがゲーリー・クーパーとのつらい恋から逃げるようにロアルド・ダールと結婚する。その後、子どもを得ながら、うち１人は幼くして死ぬ。また、彼女は脳卒中で倒れ、言葉を失う。役者としては致命的であるが、懸命のリハビリの結果、見事にカムバックを果たす。しかし、ダールの裏切りによって離婚。その混乱と苦悩の中で彼女に救いの手を差し伸べたのは・・・。もし、これが小説や映画であれば、出来すぎと思われるかもしれない展開であるが、これは１人の女優の実人生。俳優の自伝は多いが、これはその中でも必読のものだと思う。ダールのファンにはひとこと言っておくが、この自伝の中では悪役である。-------------------------------------------------紹介した「真実　パトリシア・ニール自伝」は現在は絶版です。古本屋か図書館を探すしかないようです。

2005年10月19日

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「容疑者Ｘの献身」■もしかしたら、トリュフォーが・・・・

しがない高校教師に甘んじている天才数学者が主人公。彼は、愛する女性の為に完全犯罪を目論む。その彼の友人であるこれもまた天才的な物理学者と警察は果たして彼の完全犯罪を打破できるか？真実に迫ることができるのか。東野圭吾の新作ミステリー「容疑者Ｘの献身」は実に面白い。「Ｘ」も「献身」も、最後まで読むとその意味が判ってくる。「騙された！」、「そんなバカな！」と思わず言ってしまいそうであるが、その騙され方も快感である。さて、この本を読んで連想した映画が２本。ヒッチコックの「裏窓」トリュフォーの「日曜日が待ち遠しい」「裏窓」と「日曜日が待ち遠しい」では、主人公の男が愛する女性の為に犯人探しを行う。それは、同時に愛を確かめる行為でもある。「容疑者Ｘの献身」では、何と愛する女性の為に完全犯罪を目論むのである。その経緯や内容についてはネタばれになるので敢えて書かない。読んでいただくしかない。それは刑務所に入って、その中で復讐を遂げた「黒衣の花嫁」のヒロインの情念にも通じる。もし、トリュフォーが生きていれば、コミカルな「日曜日が待ち遠しい」とは対照的なシリアスな作品として映画化したかも知れない。主演は当然、ジェラール・ドパルデューだ。そんなことを考えさせる小説であった。

2005年10月11日

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「あふれた愛」■ホ・ジノに映画化して欲しい作品あり！

忙しい中でこの数日、読んでいた本。天童荒太の短編集で、４つの短編は収録されている。「とりあえず愛」「うつろな恋人」「やすらぎの香り」「喪われゆく君に」いずれも愛が凶器にもなりうる、また愛と一言で表現しても、その内実は実に多様であるというもの。タイトルの「あふれる愛」という言葉に、この４つの短編の共通のキーワードがあるが、それは決して癒しややさしさというものだけではない。いずれも印象に残るものであり、好き嫌いがはっきりする作品であろう。しかし、嫌いとは言いながら、数年後に再度読んでみようと思わせるものである。「喪われゆく君に」は「八月のクリスマス」や「春の日は過ぎ行く」のホ・ジノが映画化したら、いいものになりそうだ。（新作「四月の雪」を期待）

2005年09月03日

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「嫌われ松子の一生」■ある団塊世代の人生・・・

文庫本の背表紙には「ミステリー巨編」とあるが、ここにはミステリーの要素はない。九州から上京して平凡な大学生生活をおくる川尻笙は、突然の父の訪問から三十年以上前に失踪した叔母・松子の存在と、その彼女が最近東京で何者かに殺されたことを知る。松子の部屋の後始末を頼まれた笙は、興味本位から松子の生涯を調べ始める。まだ世間や人生にもまれていない彼にとって、それは凄まじい人生との遭遇であった。大学を出て中学校の教員であった松子がある事件をきっかけに退職に追い込まれ、そこから彼女の流転と堕落の人生がスタートする。それはまさにジェットコースターのような展開であり、変転の様は凄まじい。昔なら「赤い疑惑」などの大映テレビ、あるいは昼メロ、最近では韓流ドラマであろうか。松子が抜き差しならぬ状況に追い込まれている様は奥田英明の「最悪」や「邪魔」を連想させるが、読み手としては「人の不幸は蜜の味」と楽しめる仕掛けである。松子は１９４７年生まれという設定であるから、団塊の世代。大学生であったわけであるが、全共闘運動との関連は全く登場しない点が、この世代の人生を描いたものとしては新味である。松子の人生が、複数の視点で語られるが、それが後半になるに従って効果をあげていく。映画化されるとのことで、それも期待したい。

2005年08月27日

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最新のスピルバーグ論■「スピルバーグ　宇宙と戦争の間」

スピルバーグとは、おそらく世界で有名な映画監督であろう。そのスピルバーグ論というのは、どれくらい出ているのだろうか。「スピルバーグ　宇宙と戦争の間」（竹書房刊）は、おそらく日本では最新の「スピルバーグ論」であろう。２０人の論者によるもので、スピルバーグ作品や彼の作家としての精神の是非という単純なものではなく、もっと広い視点に立った内容である。但し、最新作の「宇宙戦争」論はない。おそらく刊行に間に合わなかったのであろうが、それが残念。中原昌也と柳下毅一郎の対談は期待はずれであったが論考には面白いものが多い。私には梅本洋一、粉川哲夫、斉藤英治の論考が面白かった。

2005年08月24日

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「訓録『仁義なき戦い』」を読んで己の山守度を知る

映画「仁義なき戦い」は日本映画史上最高の娯楽映画であると同時にこの時代に生きる人々への強烈かつ示唆に富んだメッセージを放つ映画である。この混乱と混沌の時代に個人が組織との摩擦の中でいかに組織に圧殺されることなく生きていくかということを教えてくれる。この観点に立って書かれた本が「訓録『仁義なき戦い』」である。「人生に必要なことはみんな『仁義』に学んだ」というサブタイトルがついている。（ここでいう『仁義』とは「仁義なき戦い」のこと）「仁義なき戦い」の数多の登場人物の中での最高のキャラクターは何といっても「山守」である。この本には「あなたに潜む山守度」というテストがある。私は、なんと８０％。最も厄介な含有量とのこと。一問毎に「イエスまたはノー」で進んでいくテストで、いくつかどちらも答えにくいものもあるが、そうしたものも何回かやっても結局は「８０％」に落ち着く。まあ、山守度８０％であることを自覚して生きていこう。この日記を読んでおられる方へ本当は善良な市民ですので、ご安心を。（笑）

2005年08月21日

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グルメ小説・食料小説？！

昨日は「調味料バトン」だったので、今日は「食べる」とか「食料」をテーマにした小説を紹介しよう。次の３編である。いずれも短編小説。「蟹甲癬」「最高級有機質肥料」「二壜のソース」前２編は筒井康隆、最後のはロード・ダンセイニである。ご試食、ではなかった、ご一読下さい。但し、取り扱い注意です。

2005年08月02日

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仁義なき「義経」

義経を最初に知ったときは、やはり「悲運の武将」であり、「悲劇のヒーロー」であった。当然、頼朝はヒーロー義経を陥れた陰険な男である。しかし、社会人になり、組織の中で仕事をし、あるいは、組織の中でなくても、何かをやるときには自分以外に人の力が必ず必要になってくるということを身をもって体験してくると、「義経というのは、本当にヒーローなのか」とか「義経みたいな奴が傍にいて、一緒に仕事をすることになったらどうなんだろうか」と思うようになってきた。「もしも義経にケータイがあったなら」（鈴木輝一郎・著）はそういう観点から書かれたものである。総大将・源頼朝の承認を得ずに独断で行動することの多かった源義経が、社内根回しの重要性や始末書の書き方を知っていたら、あるいは携帯電話を持っていたら、ということをあげながら、経営と人事理論で読み解く義経の失脚について、という内容である。なかなか面白い。映画「仁義なき戦い」は、組織に生きる者にとってのバイブル的映画でもあるが、ここに登場する人物にあてはめれば、義経は「大友勝利」に近いと思うが、いかがであろうか？

2005年07月31日

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今日はコミック・バトンを受けてみた。

●質問１．今あるマンガの冊数は？数えたことはないが、おそらく５０冊未満。● 質問２．今、１番読んでいるマンガは？萩尾望都の作品はかなり頻繁に読む。特に「マリーン」。週刊誌を立ち読みして必ず読むのは東海林さだおの漫画。● 質問３．最近買ったマンガは？「夕凪の街桜の国」（実は半年ほど前のこと。つまり私はあまり漫画は買わない。）● 質問４．よく読み返す、または特別な思い入れのある５冊。「光る風」（山上たつひこ）「ポーの一族」（萩尾望都）「百億の昼と千億の夜」（萩尾望都）「ねじ式」（つげ義春）「アリと巨人」（手塚治虫）「ゴルゴ１３」（さいとうたかお）の中では好きなエピソードがある。

2005年07月26日

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おすすめホラー小説

短編集「図書室の海」のあとがきで、恩田陸は自作の解説を行っているが、「茶色の小瓶」と「国境の南」をドキュメンタリー・タッチのホラーだと言っている。これは非常にいい表現だと思う。この２作品は共に、日常のなにげない描写を積み重ねながら、次第に異様な世界を描き出す、あるいはそのムードを作っていくという展開で、これが実にいい。そのドキュメンタリー・タッチがホラーの効果をあげている。ホラーや伝奇小説は、日常の描写からとか普通の小説のような展開でスタートする方が説得力もあり、効果もあると思っている。このようなタッチのホラーでよく出来ているのは小池真理子の「墓地を見おろす家」と「死者はまどろむ」である。これらは本当に怖い！

2005年07月21日

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はやく読みたい！恩田陸の未刊長編ＳＦ「グリーンスリーブス」

新潮文庫の新刊「図書室の海」は恩田陸ファンには、たまらない内容である。実は、ここに収録されている作品のいくつかは、長編小説の予告編であり、番外編である。予告編の場合は、既刊のものがあり、ここから新たな解読ができそうで楽しみが増えた。未刊のものは、今後が大いに楽しみである。「イサオ・オサリヴァンを捜して」は、長編ＳＦ「グリーンスリーブス」の予告として書かれたものであるというが、これは想像力を刺激させてくれる素晴らしい内容である。コッポラの「地獄の黙示録」とウェルズの「市民ケーン」を合体させた内容を予感させるような内容である。これはとてつもない内容になるのではないかと、今から期待をしている。さあ、いつ刊行されるのか、「グリーンスリーブス」！期待！期待！この「図書室の海」には、素晴らしい作品が収録され、まさに恩田陸の魅力全集といった感じなので、今後もたびたびこの日記で取り上げたい。

2005年07月09日

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「戦国自衛隊」ブームならば、半村良をもっと読もう！

昨日の日記にも書いたが、「戦国自衛隊１５４９」は世界各国で公開され、さらにハリウッド・バージョンも製作される。更に興行収入が高くなるわけだ。これらの増収によって誰が最も利益を得るのだろうか。個人的な希望であるが、半村良のもとにそれがわたって欲しい。半村良は既に亡くなられているので、遺族が受け取れればいい。半村良のあのアイディアあふれる作品がなければ、この状況は生まれなかったと思う。ブームが生まれたときに、そのパイオニアは、もっと評価とメリットを受ける資格があると思う。さて、今、半村良をもっと読もう！私のベスト５「妖星伝」「石の血脈」「収穫」「産霊山秘録」「およね平吉時穴道行」

2005年07月04日

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「靖国問題」（高橋哲哉・著）を読む

「靖国問題」をいろいろな観点から考察するには非常にいい本だと思う。１ヶ月ほど前、若桑みどり講演会を聴いたときに彼女がその講演の中で高橋哲哉のことを高く評価しており、一度、きちんと著作を読んでおこうと思った矢先に、ちくま新書から「靖国問題」が出た。この本の特長は靖国問題を「哲学的に」論じている点である。靖国神社をめぐる様々な観点（歴史認識、感情、宗教、文化、追悼施設）について論理的に考察しているのである。靖国問題を国家神道や靖国神社の成立ちなど歴史的に考察するのは歴史学者の課題であり、近隣諸国の中でこれをどのような政治的決着をつけるかというのは、政治家の課題であるが、それらはこの問題の本質をふまえたものではないであろう。靖国神社の問題については、Ａ級戦犯の合祀、中国や韓国などの近隣諸国の反発などばかりがクローズアップされて、首相の公式参拝の是非についても、そのような観点からしか論じられていないように思える。また、東京裁判の正当性や国のために死んだ者を一国の総理が参拝するのは当然だという意見も出てくるが、私には、もっと本質的な考察が不足しているのではないかという思いがあった。この本は、そうした不満を埋め合わせてくれる内容である。靖国問題は靖国神社の是非だけを論じても結論は出ない。国家と国民の関係のあり方こそ、その中核にある問題だと思った。

2005年06月22日

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「小説以外」■面白い本のことだけを考えた恩田陸小説作法

恩田陸の小説の魅力は、既存のジャンルにとらわれないことであろう。ＳＦ、ホラー、ファンタジー、ミステリー、青春ものと様々なジャンルの作品を発表しつつ、どれも非常に魅力的である。その意味では山田正紀に似ているかもしれない。この「小説以外」は、その恩田陸のエッセイを集めたもので、ほぼ発表順に並べているので、恩田陸の「創作日記」という一面もある。これを読むと、恩田陸作品の魅力の一面が非常によくわかる。それは、彼女の膨大な読書量である。但し、小説を書く為の調査ではなく、彼女自身が読書が好きなのである。面白い本を読んで、その世界に夢中になり、自分が読みたい本を彼女自身が書いているのではないかと思わせる。そんなわけでこの「小説以外」は、面白い本のブックガイドとしても活用できる。私自身、これを読んで、読みたい本が増えてうれしい悩みである。中でも「悪魔に食われろ青尾蠅」は読みたい。この「小説以外」を読んで、ますますファンになった。

2005年06月15日

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「電車男」・原作はつまらなかった！

私は「電車男」の原作は読んでいる。実はこれは発売されてすぐに買った。物語の内容よりは構成にひかれた。ネットの掲示板をそのまま本にした点が新味であったが、その新味を感じるのも数ページのみであとは、掲示板独特の書き方、当て字、アスキーアートが苦痛であった。これでラストのオチがよければ、いいのだが、ご存知の通りの結末で感動も衝撃もない。そんなわけで昨年読んだ本で最もつまらなかった本である。以前にも会話だけ、手紙だけという小説もあり、それぞれにインパクトがあったが、この「電車男」にはそういう内容ではなく、これはつまらない本であった。さて、映画「電車男」はヒット中であるという。わが町の映画業界のうわさでは公開２日間の観客数は約２０００人であったと。５回／日の上映であるから、１回の平均観客は約２００人。この劇場の座席数からみれば、約５５％。しかし、日曜日の最終回などは観客は少ないはずで、土日の午後にはほぼ満席か立ち見と出ているのではなかろうか。２日間で２０００人というのは、地方都市では大変な数字である。観客の年齢層はかなり若いらしい。これは当然か。その満足度はどうなのだろうか？第２回目の土日はどうだったのであろうか。あんな物語を映画化して、ヒットするとは映画化にあたってどんな工夫をしているのか？むしろ、そこに興味がある。この映画のホームページのトップには「電車男」、超特急で映画化とある。おいおい、それでは映画化にあたって何の工夫もしていないのか？それとも電車＝超特急というギャグ？あの事故を考えれば、このギャグはまずいのでは？ホームページに割引券がついていて印刷して持参すれば、３００円引き。やはり見ておくかなあ・・・。しかし、「マゴニア」、「ベルリンフィルと子どもたち」、「ベルンの奇跡」、「いつか読書する日」と見たい映画・見るべきと決めた映画がいっぱいで、これらを見る時間の確保に必死である。「交渉人・真下正義」もまだ見ていない・・・・。

2005年06月14日

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五木寛之から村上春樹への流れ

このところ村上春樹の世界について考えている。彼の作品が多くの人々に支持されている、その理由は何であろうか？連合赤軍事件による全共闘運動の崩壊、反体制を旗印にした若者の社会参加、異議申し立ての崩壊が、その底流にあるような気がする。そんなことを考えているが、６０年代末から現在に至る若者に支持されてきた作家をふりかえってみると五木寛之片岡義男そして村上春樹というひとつの流れが浮かんでくるようだ。この３人について「小説を読む楽しさ」という観点で比較すると、村上春樹が最も疲れる。

2005年05月10日

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やはり読みたい村上春樹の映画評、あるいは６０年代末以降考察

８日に日記に対してすみれＭさんから次のようなコメントをいただいた。「この７０年代というのは日本の高度経済成長期でがむしゃらに働いてきた親世代そして其の子らが生活に余裕が出来始めたときに、人間が見落としてきた物を追求する苦悩、そして厳しさ、クールさを作品から感じるのですが。」このコメントをもとに６０年代末から７０年代にかけての映画などを考察してみたい。日本においては７０年の万博の象徴される高度経済成長により生活様式や思考形態などが大きく変化したと思います。それは映画、小説、音楽にも及びそれぞれの分野で、従来にない新しいものが生まれていった。映画においても同様で、これは日本だけではなくアメリカのニューシネマなどが、その具体例としてあげられるであろう。「アメリカン・ニューシネマ」が、それまでの映画と大きく違う点として、描いている内容がゲイ、暴力、麻薬という表面的なものがあげられる。しかし、それ以上に「観客の不在」にあるのではなかろうか。観客を笑わせ、泣かせるという観客のリアクション以上に作家の主張がまず優先されているのではなかろうか。それはともすれば、一方的な主張であり、観客の心情を無視した作家の独り言であったりする。もちろん例外はあるが、これは、６０年代末から７０年代中期に至るアメリカ映画の特長としてあげられると思う。昨日の日記で、村上春樹が学生時代に「『問題は一つ。コミュニケーションがないんだ！』'68の映画群から」という映画評を書いていると紹介したが、これは当時のアメリカ映画を最も的確に言い当てているのではないかと推察している。だから非常に読みたいのである。

2005年05月09日

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村上春樹と五木寛之

やっと村上春樹を読み始めて、彼のことを調べているが、彼が団塊の世代であるということを初めて知った。６８年に大学に入学しているので、まさに学園闘争の只中である。彼の小説は、「トニー滝谷」と「氷男」しか読んでいないので、速断は禁物かも知れないが、様々な書評などから推定するに彼の作品のキーワードは「孤独」と「喪失」であろう。それは、６８年前後の全共闘の熱気と７０年代に入っての退潮と連合赤軍事件という決定的な事件を体験する中で生まれてきたものであろう。全共闘の時代に活躍した作家として五木寛之がいるが、彼の作品と通じるものがあると思う。五木寛之の短編「白夜の終り」（「幻の女」所収）は村上作品に最も近いのではなかろうか。ネットで村上春樹のことを調べると、「『問題は一つ。コミュニケーションがないんだ！』'68の映画群から」という映画評を学生時代に書いている。これは是非、読んでみたい。どれかに収録されていないだろうか？

2005年05月08日

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はじめての村上春樹（読書編）

映画「トニー滝谷」を見て、この原作が収録されている「レキシントンの幽霊」を購入。まず、「トニー滝谷」を読む。映画は、原作と全く同じであることが判る。全く変えていないな、と思ったら最後が違った。但し、映画の結末と原作の結末が違うわけではない。その表現方法が違う。「トニー滝谷は今度こそ本当にひとりぼっちになった」という表現は映画と原作では違う。映画はやはり映画独特の表現で、これで成功だと思う。「トニー滝谷」は原作の映画化についてのひとつの模範解答として映画学校の教材になるのではないか。原作の短編集には「氷男」という短編もあるが、これもまた「トニー滝谷」と全く同じことを描いていると思った。

2005年05月05日

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「ツ、イ、ラ、ク」と「夜のピクニック」

姫野カオルコの「ツ、イ、ラ、ク」を読んだ。２００３年のベストワンだとか評されていて、以前から気になっていたのであるが、やっと読んだ。これを読んでいる間、実は恩田陸の「夜のピクニック」が思い出された。「ツ、イ、ラ、ク」は中学生、「夜のピクニック」は高校生と非常に近い年代の物語であり、この時期独特の「自分の存在が確固たるものであることを主張するが、それを周囲から認められない、確認できないもどかしさ」と「自分を認めてくれる相手を求める必死さ」が、この二つの作品からはひしひしと伝わってくる。どちらも青春小説という形態をとりながら実はもっと汎用性のある人生ドラマなのである。もし、この二つの作品に違いがあるとすれば、「ツ、イ、ラ、ク」は＜夜の言葉＞で書かれているということであろう。

2005年04月23日

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「新・世界の七不思議」（鯨統一郎）■この面白いミステリーはビジネス書としてもいいぞ！

デビュー作「邪馬台国はどこですか」の待望のシリーズ続編である。今回はアトランティスをはじめとして、ピラミッド、ナスカの地上絵、ストーンヘンジ、ノアの箱舟、始皇帝、モアイ像という世界の七不思議を取り上げ、まさに驚天動地の新解釈が展開される。前作での面白さは、そのままであるが、面白さを説明するとネタバレになるので、次の点のみをあげておこう。・アトランティスの意外な正体・ノアの箱舟と日本の有名な昔話との関係・始皇帝と邪馬台国との関係・ナスカの地上絵と日本のお盆（先祖供養のお盆のこと）との関係いずれも驚きの一語に尽きる。どの話も非常に論理的で、単に変り種の展開をやっているだけではないのである。意外な視点から意外な結論へ。しかし、その出発点も、結論も、その過程も非常に説得力があり、これは学説として充分に通用するのではと思わせる。この歴史検証バトルを展開する設定は、今回も前作「邪馬台国はどこですか」と同じでスリーバレーというあまりはやっていないバー、そして物語を展開するのは早乙女静香、宮田、バーテンダーの松永という３人にゲストの登場人物。今回も早乙女静香の毒舌は冴えている。さて、最近ビジネス書では「論理思考」、「論理トレーニング」、「プレゼン術」、そして「頭がいい人の話し方」などが流行であるが、前作「邪馬台国はどこですか」とこの「新・世界の七不思議」も、その方面でも充分に活用できるので、フレッシュマン、あるいはくたびれかけたビジネスマンも必読の一冊だと思うぞ。このシリーズは多作困難であることは承知の上であるが、第３作目以降も期待して日本史、世界史に驚愕の視点による新解釈が生まれることを期待したい。「アナスタシアは誰ですか」「源氏物語は誰が書いたか」「源義経はジンギスカンか」「沈んだのはタイタニックか」など題材は多い！鯨先生、お願いします！

2005年04月12日

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「夜のピクニック」■祝！本屋大賞１位

この日記でもかなりの方が感想を書いておられる「ナラタージュ」（島本理生）を買おうと思っていつもの書店に行くと、棚にはない。そこで注文しようとすると「出版社でも品切れになっており重版検討中」とのこと。届くまでにはしばし時間が必要。この本はかなり売れているようだ。ちょうど、その頃、書棚では「本屋大賞決定」のディスプレイを取り付け中。本屋大賞とは、「全国書店員が選んだ　いちばん！　売りたい本　２００５年本屋大賞」のこと。２００５年の第一位は恩田陸の「夜のピクニック」である。納得！これは夜を徹して高校生が歩くだけ、そして主人公の女子高生が、同級の男子生徒に話しかけることができるかどうかという、ただそれだけ。単純な構成であり、大きなドラマが起きるわけではないが、これほどに瑞々しく心躍らせるとは！読んでいる間、とにかく「終わらないで欲しい」と思いながら読んだ。この本屋大賞には、わが町を舞台にした「黄金旅風」も入選。これも読もう。

2005年04月08日

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最近読んだ本、いくつか

最近読んだ本で良かったもの、印象に強く残ったものをあげてみる。「となり町戦争」三崎亜紀「夜のピクニック」恩田陸「太陽の簒奪者」野尻抱介「『仁義なき戦い』をつくった男たち　山根貞男、米原尚志「訓録『仁義なき戦い』」　仁義総研いずれもそれぞれに素晴らしい内容。映画「ローレライ」を作った人、監督と脚本家は「となり町戦争」の作者の爪の垢でも煎じて飲むべし。１９７０年に生まれた者にも、これほど戦争を描くことができる。最後の２冊は映画「仁義なき戦い」関連本である。公開から３０年以上経てもこのような本が出ることがこの映画の凄さである。最後の本は「人生に必要なことはみんな『仁義』に学んだ」というサブタイトルが付いている。映画をもとにした人生論の表装であるが、実は社会論であり、組織論、そして国家論になっており、さらにはこの映画の本質をついている。すごい！

2005年03月23日

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「夕凪の街　桜の国」■静謐な中にあるもの

読むときに非常な緊張感を強いられる漫画がある。例えば、萩尾望都の作品である。もちろん、良い意味での「緊張感を強いられる」ということであるが、広島の被爆を描いたこうの史代の「夕凪の街　桜の国」もまた、そうであった。柔らかい線、おだやかな表情、日常の風景が描かれるこの漫画には読み進んでいくうちに非常に心が騒ぎ、苦しくなり、緊張感を伴ってくる。あの日に一瞬で、あるいは苦しみながら消えた命、そして生き残った人々の苦しみがどのようなものかを教えてくれる。凄惨で残酷な被爆の描写は全くないが、ここには戦争がもたらすものがどういうことか、それが日常の生活に染み付いていることを示してくれる。それでもこの作品自体も、その登場人物たちも決して明るさを失っていない。静謐な中にこめられたものを受け止めたい。残酷さと明るさが奇跡的に同居するこの作品を作り上げたこうの史代に惜しみない賞賛をおくりたい。この作品には多くの切り口があるようだ。何度も読み返したいと思う。ここには、「ＴＯＭＯＲＲＯＷ／明日」と「父と暮せば」という二つの映画に通じるものがある。この「夕凪の街　桜の国」も映画化されるようであるが、どうかこの作品が持っている良さを失わないように、あるいは、よりその良さを引き出すように製作してもらいたい。

2005年03月17日

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「ハワード・ヒューズ」を読む

今、ハワード・ヒューズの伝記を読んでいる。以前から、この人物には興味があり、この本は読みたいと思っていたので、映画「アビエイター」の公開前に読んでおこうと思った。ウォーレン・ビーティーがハワード・ヒューズについて監督・主演で取り組むという話があった。「レッズ」を完成させた頃の話である。ビーティーにはぴったりではないかと思っていたので、今回のディカプリオ主演には、どうもピンと来なかったが、この本を読んでいるとディカプリオのイメージでもいいのではないかと思い出した。映画がどのような出来であるか、ハワード・ヒューズという人物を素材にスコセッシが何を描こうとしているのかは、実物を見るまでを待つしかないが、この本は非常に面白い。ハリウッドで映画製作に着手して、彼の名をあげた「地獄の天使」は、非常に有名な映画であるが、なかなか見る機会はない。これは是非、見たいと思う。興味を持った対象に対しては、冷静な計算や思考を背景に無我夢中の熱い行動のハワード・ヒューズという人物は非常に魅力的である。--------------------------「ハワード・ヒューズ」ジョン・キーツ・著小鷹信光・訳ハヤカワ文庫

2005年03月15日

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「愚か者死すべし」■ラストが気になる！あれはどうなった？

９年ぶりに登場の新作。ファンには待ちに待ったというところで、私が入会しているミステリークラブのファンたちは、作者がピアノを演奏している店まで行って「執筆督促」という実力行使までやらかしている。ハードボイルドにさほど思い入れのない私であるが、この主人公の携帯にも、パソコンにも見向きもしない姿勢に共感。この姿勢は、前作が評価高くても、納得いくまで執筆をしなかったであろう作者自身の姿勢につながっているのであろう。さて、この小説で私は最も関心を持って惹かれたのは政界の黒幕的存在の男が運営する映画草創期から戦前に至る９００本の日本映画を収集したフィルムライブラリー。一体、どんな作品が収集保管されているのか？リストを見たい！そんなわけで、私は事件の真相より、あのライブラリーはどうなったのかが気になっている。

2005年01月29日

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「犯人に告ぐ」（雫井脩介・作）■劇場型捜査という大胆設定

捜査が行き詰った幼児誘拐殺人事件に対して警察がうった手は、捜査官をテレビのニュース・ショーに出して公開捜査をするというものであった。その公開捜査、つまり劇場型捜査の展開がスリリングに描かれる。捜査のリアルな描写から視聴者（世論）の捜査官への共感・賛同から非難という動きまでが描かれるが、これが見事。主人公の敵は犯人なのであるが、主人公に敵対するのは警察内の身内にもいる。捜査官への反感や嫉妬、そして組織対組織の対立が捜査官の足を引っ張る。これは、映画「レディ・ジョーカー」では、若い刑事が「部下が何かやったら死ぬしかない・・・・そういう組織なんですか」「何やってんだ、俺たちの組織は・・・」という台詞に通じるもので、日本の組織全体に当てはまるのではなかろうか。この小説は、劇場型捜査という大胆な設定で成功しているが、映画「踊る大捜査線・レインボーブリッジを封鎖せよ」では、盗聴と監視による捜査というこれもまた、大胆な設定。しかし、こちらは「とほほ」だなあ・・・。

2005年01月28日

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「シネマ・フェスティバル」☆この快い小説！

「スウィング・ガールズ」、「ウォーター・ボーイズ」、「ロボコン」などと同じく「学園版プロジェクトＸ」といった趣のもの。但し、この「シネマ・フェスティバル」は小説である。どういうわけか話題になっていないが、大変に面白く快い内容であることをまず言っておこう。登場人物は、みなどこか病んでいるか欠陥がある。それぞれの人物は、あまりにも戯画化されすぎているという批評もあるかも知れないが、身近にいそうな、あるいは自分の中にもそういう一面がありそうな、そんなリアリティとか親しみを感じてしまう。問題意識や使命感など持たない高校教師が顧問を任された高校映研で、頼りない、やる気なしの部員と共にシネマ・フェスティバル応募をめざして映画作りに取り組む。さて、その結果は？こういう小説では、ラストは「こうであろう」という予想を見事に裏切ってくれる面白さ。作者はおそらく大変な映画ファンであると思うが、映画的記憶や知識をひけらかすのではなく、「映画」をひとつの事例として、生きる目的や姿勢について考えようと呼びかける。しかし、この作者が数多くの映画を見て、そのセンスが身についていることは最後の「エンドロール」でよく判る。しゃれた「エンドロール」には思わず拍手！心地よく、年の最初に読む本にふさわしい。紹介してくださったくりむーぶさんに感謝。-------------------------------「シネマ・フェスティバル」永田俊也・作講談社

2005年01月07日

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元祖・セカチュー　「世界の中心で愛を叫んだけもの」を解釈する

「セカチュー」とは、片山恭一原作の「世界の中心で愛を叫ぶ」のことである。しかし、このタイトルにはモトネタがある。ＳＦ短編「世界の中心で愛を叫んだけもの」である。この「世界の中心で愛を叫んだけもの」は、アメリカのＳＦ作家ハーラン・エリスンによって１９６８年に書かれた短編である。文庫本で１５ページである。ＳＦ短編とは言っても、ブラッドベリやブラウンのように読みやすいものではなく、極めて観念的で難解なものである。従って、この小説は、例えば、ブラッドベリの「霧笛」のように内容やテーマがきちんと理解されて、読者に広がっているわけではなく、単にタイトルだけが一人歩きをしているようなもの。映画で言えば、「去年マリエンバートで」のようなものである。以下で、私の解釈を交えてこの小説について書いてみたいが、難解さゆえ、理解は不十分であり、違った解釈もあろう。その場合はコメントで書き込んでいただければ、ありがたい。何しろ、この小説について、もっといろんな解釈を知りたいのである。まず、現実社会での大量殺人事件が描かれるが、その後の舞台となる場所や時代などは全く架空のもので、極めて抽象的な設定であるが、これはラストでつながってくる。すべての時空の中心ともいうべき「交差時点」という場所そこに住む発狂した竜その竜を外部に出そうとする動き。それをとめようとする動きも。結局はその狂気を留めることはできない。そして、主人公は反逆罪で処刑に。処刑時に「私の像を建てる時は、狂気の被害者の顔にして欲しい」と頼んだ。ここで人類の現実の歴史や事件とつながる。ひとことで言えば、パンドラの箱の物語。この小説が書かれた６８年とはアメリカではベトナム戦争が激化して世界的には大きな変動の時期で、狂気と熱気にあふれていた。この状況においては次の時代への新しい創造を感じる人も多いであろうが、作者のエリスンは、おそらくそこから人間の持つ憎悪やエゴなどの負の部分に注目したいのではないかと思う。この物語からは、核管理と拡散、武器輸出、テロ戦争などが容易に連想される。今読み返すと、これは非常に先見性のある小説であり、難解ながらもいつの時代にも何世代にもわたって読み返すに値するものだと思う。----------------------------------「世界の中心で愛を叫んだけもの」ハーラン・エリスンハヤカワ文庫

2004年12月18日

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「このミス２５００年版」を買った

毎年、この時期になると買う本がある。「このミステリーがすごい」（通称「このミス」）である。最初の発刊時から毎年購入している。この本には、その年の国内外のベストミステリーが紹介されているので、実に有効なブックガイドとして活用できるのである。この本によって愚作を避けることができる。ほぼ、一年遅れで評判のミステリーを読んでいることになる。今年読んだ「月の扉」（石持浅海）は、「このミス」で知ったもの。現在読んでいる「犯人に告ぐ」（雫井脩介）は８位にランクされている。ベストテンには入っていないが「迷宮の暗殺者」（ディヴィッド・アンブローズ）は期待できそうだ。この本で毎年楽しみにしている記事がある。それは「人気作家による私の隠し玉」と「我が社の隠し玉」である。まあ、言ってみれば、来年以降の予告編である。今回のもので、楽しみにしているのは、・折原一の「黙の部屋」・山田正紀の「神狩り２」・篠田節子の東エーゲ海の小島を舞台にしたホラー好きな作家たちなので、楽しみだ。「このミス２００５年版」では、１６５ページには笑ってしまった！同感！！-------------------------------------来年のベスト上位確実！原リョウの久々の新作「愚か者死すべし」の著者サイン入りを入手！

2004年12月17日

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不思議な絵本「ハリス・バーディックの謎」から村上春樹を読んでみよう宣言！

まず、言い訳というかお詫びから。この数日間の日記には実に多くの方々に訪問いただき、コメントもいただいている。そのコメントは実に面白いものばかりで、これからいろんなお話が展開できるようだ。ネット上でキャッチボールができそうで、うれしい限りであるが、忙しくてなかなかご返事を書けないでいるのが実態。申し訳ありませんが、少しづつご返事します。これからの日記の中でご返事することもあります。今後、気長にお待ち下さい。では、以下、本日の日記です。-------------------------------------------------もうかなり前に買った絵本でクリス・ヴァン・オールズバーグの「ハリス・バーディックの謎」がある。モノクロームの不思議なタッチの絵だ。その奥に、その裏側に、その絵のフレームの外側に物語があることを感じさせるそんな絵が１４枚、簡単な文章と共に掲載されている。消えてしまった謎の人物ハリス・バーディックが語ろうとした物語とは？これから先は読者の想像力に委ねられている。この絵本の翻訳者はなんとあの村上春樹なのである。私自身、村上春樹が苦手で、わずかに読もうとした２冊も途中で放棄してしまっている。しかし、この絵本にひきつけられていることから村上春樹の世界は、私に合うのではないかと思い始めた。やはり読んでみよう。

2004年11月12日

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おことば／「電車男」読書経過

サラリーマンなら経験があるであろう。例えば、地方の営業所や事業所に社長がやってくる。社長に声をかけられた第一線の管理者（例えば、課長や部長）は、社長に対して「この地域の全家庭にわが社の製品を買ってもらうのが私の仕事です。その為に休日も、深夜も部下を働かせております」と張り切って言う。それに対して社長からは、お褒めの言葉をいただくどころか「部下の健康は考えているのか？まさかサービス残業はさせていないだろうな」と注意され、やや愕然とする。先日の某会でのやり取りとは、普通の会社の場合であれば、こんなもんだろう。-------------------------------------「電車男」は読み始めているが、予想通り読み難く、なかなか進まない。映画化のオファー殺到とのことであるが、誰が、あるいはどこのプロダクションがオファーしたのか知りたいところです。ご存知の方、ご教示願います。

2004年10月31日

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「電車男」を読み始める

話題の「電車男」を読み始める。正直に言うと、非常に読みづらい。何しろ普通の形態ではない。いわゆる普通の小説のような文章は全くない。ネットの掲示板の羅列である。文体も掲示板によくあるものである。まずこの形態になれることから。しかし、慣れて読み終わった頃には私の文章や話し言葉は滅茶苦茶に変化・感化されているのではと危惧している。でも、読みづらいので、読み終わるには時間がかかりそうだ。さて、この小説は映画化のオファーが殺到しているとのこと。誰が、どんな映画にするのだろうか？森田芳光の「（ハル）」を凌ぐ作品にして欲しい。-------------------------------さすがに話題の「電車男」。午前中で既にアクセス数は１２０になりました。地味な日記にしては珍しいことです。ご訪問とコメントをありがとうございます。

2004年10月30日

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「おかしな男　渥美清」

２４日夜に放送された「ＮＨＫアーカイブス」で６５年放送のバラエティ番組「夢であいましょう」が取り上げられたが、このときの渥美清はモダンで軽妙な、それまでのコメディアンにはない味であった。「夢であいましょう」が始まったのは１９６１年のことで、その頃に気鋭のタレントと作家として出会ったのが渥美清と小林信彦。その出会いから、同志としての交際や断絶などを交えて描いた人物評伝が「おかしな男・渥美清」（小林信彦・著）である。内容はあくまでも著者である小林信彦の記憶にある渥美清で、２人の交流や離反が描かれ、渥美が極めて複雑な人間であることが理解できる。全体的には人物評伝というよりハードボイルド小説のような味で、「思えばあれが渥美清を目にした最後であった」というラストには、時の流れにおける哀感が漂う。渥美清が「男はつらいよ」にあそこまで捕われなかったら、俳優としてももっと別な面が生み出されたかも知れないし、日本映画への影響もあったかも知れない。--------------------------------------------おかしな男　渥美清（小林信彦・著、新潮文庫）

2004年10月25日

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「荒れ野の４０年」　ヴァイツゼッカー大統領演説

映画も本も「難しいこと、重いこと」を平易に表現しているものが好きである。映画の場合、「ローマの休日」はその典型だと思うし、「父と暮せば」やトリュフォー映画もそれに相当する。本でいえば、「荒れ野の４０年」（岩波ブックレット）を躊躇なくあげたい。これは、１９８５年、西ドイツ（東西ドイツ統合前）のヴァイツゼッカー大統領が敗戦４０年にあたり連邦議会で行った演説である。読み始めて一気にひきこまれ、夢中になって読んでしまった。実に素晴らしい。何が素晴らしいかというと重みのあることを平易な言葉で語りかけて、説得力があるのである。この本はその後、私の「感動の一冊・好きな一冊」になっているが、今後もそうであり続けるであろう。ひきつけられる理由は、美辞麗句ではなく、率直な言葉であることだ。演説の冒頭では、多くの人への呼びかけがある。それは自国民だけではなく、戦時中に迫害・虐殺されたユダヤ人、ジプシー、精神病患者、他国のレジスタンスなど実に多岐にわたる。こうした人々も含めて哀悼や謝罪の言葉が語られる。この演説で印象的な言葉がある。それは「心に刻む」という言葉である。彼は、これを「歴史における神のみ業を目のあたりに経験すること」と述べているが、この行為がどのようなことかは、一人一人に課せられた課題であろう。過去の出来事が自分の内面の一部になることであろうが、その為には、まず何が起きたのかを見極める謙虚さが必要であろう。非常に様々なことを示唆してくれる一冊であり、私はことあるごとにこの本を読んでいるが、最も読んでもらいたいのは日本国政府の閣僚たちである。私はこの「荒れ野の４０年」を読んで、このような指導者を持つ国民は幸福であると思った。

2004年08月27日

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五木寛之から村上春樹への流れ

やはり読みたい村上春樹の映画評、あるいは６０年代末以降考察

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はじめての村上春樹（読書編）

「ツ、イ、ラ、ク」と「夜のピクニック」

「新・世界の七不思議」（鯨統一郎）■この面白いミステリーはビジネス書としてもいいぞ！

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「夕凪の街 桜の国」■静謐な中にあるもの

「ハワード・ヒューズ」を読む

「愚か者死すべし」■ラストが気になる！あれはどうなった？

「犯人に告ぐ」（雫井脩介・作）■劇場型捜査という大胆設定

「シネマ・フェスティバル」☆この快い小説！

元祖・セカチュー 「世界の中心で愛を叫んだけもの」を解釈する

「このミス２５００年版」を買った

不思議な絵本「ハリス・バーディックの謎」から村上春樹を読んでみよう宣言！

おことば／「電車男」読書経過

「電車男」を読み始める

「おかしな男 渥美清」

「荒れ野の４０年」 ヴァイツゼッカー大統領演説

（追記あり）「真実　パトリシア・ニール自伝」をお薦めします

最新のスピルバーグ論■「スピルバーグ　宇宙と戦争の間」

「夕凪の街　桜の国」■静謐な中にあるもの

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「荒れ野の４０年」　ヴァイツゼッカー大統領演説