すっぴんサイエンティスト

2005/02/05(土)05:38

近親婚について

科学雑学(65)

えー、ちょっとびっくりするタイトルですね… でも敢えてこれで。 近親婚、背徳的な感じがしてちょっとドキドキします。 …しません?そうですか、僕が変なんですか、そうですか… でも人間にとって禁忌とは触れられぬゆえに触れたがるもの。 変な話になりました…失礼。 goo辞書で意味を調べてみました。 近親婚: 近い親族間の婚姻。民法上、直系血族間、三親等内の傍系血族間、直系姻族間の婚姻は禁止される。近親結婚。 近しい親族との結婚を禁ずる、というわけです。 自分の親と、子供と、兄弟と結婚することを考えたことがありますか? あまり考える人はいないかと思います。 我々は“常識”として近親間で関係を持つこと、婚姻を持つことを、「タブー」だと思っています。 しかしながら、おそらく世界中には近親婚を容認している文化もあるでしょうし、 原始時代には日本でもこれはあまりタブー視されていなかったようです。 なぜ近親婚はダメなのでしょう? もちろん、文化的、倫理的に考えて近親婚は人間的でない、というのが大きな理由ではないでしょうか。 しかし遺伝学的に考えても、近親婚には大きなデメリットがあります。 人間は2セットのDNAのペアを持っています。片方は父親から、片方は母親から受け継いだものですね。 このDNAの片方の1セット(「ゲノム」といいます)は、それを受けついだ親の持つDNAと基本的に同じです。 さて、このゲノムには様々な遺伝子が含まれています。 目の色を決める、顔の形を決める、髪の毛の色を決める遺伝子… しかし、何も生きる上で“必要な”遺伝子だけがあるのではないんですねー。 生きていくうえで邪魔な遺伝子もあります。 ある種の病気にかかりやすくなる遺伝子、先天的に障害を抱えることを運命付ける遺伝子など。 そのなかに、受精卵から正しく発育していくのを止める遺伝子があります。これを「致死遺伝子」といいます。 「致死遺伝子」は胎児のちゃんとした発育を阻害し、結果として流産させます。 一見聞いただけでは、なぜこんな遺伝子があるのか、と思ってしまいますよね。 そんな邪魔な遺伝子は長い時間のうちに、人間の中からなくなっておかしくないはずです(ダーウィンの「自然淘汰」説)。 だって、この遺伝子を持つ子供は生まれてこれないんですから。 ところが!人は誰でもほぼ確実にこの致死遺伝子を持っているのです! 「イヤ待てや、持ってたら死ぬんやろ?だから致死言うんちゃうん?」 そのとおりですが、ここで重要なことがあります。 先ほど言ったように、人間は両親からひとつずつ受け継いだ“2”セットのDNAを持っています。ここが第一のミソ。 そしてもうひとつ。この致死遺伝子にはいくつも種類があり、そのうちのおよそ2種類を人は持っているということです。 種類数はたくさんあるので僕とあなたの持っている致死遺伝子が同じだという可能性は500分の1ぐらいです。 さて、そうすると… 人が誰もが致死遺伝子を持っているのにちゃんと生まれて来るのは、片方の親から致死遺伝子を受け継いだとしても、もう片方の親から“正常な”遺伝子を受け継げば、その子は生まれることができるからです。 正常な遺伝子のほうで致死遺伝子のはたらきを覆い隠すことができます(これを致死遺伝子は「劣勢」であるといいます)。 そして、致死遺伝子はいくつも種類があるので、両親が“同じタイプ”の致死遺伝子を持つことはめったにありません。 母親からAタイプの致死遺伝子を、父親からBタイプの致死遺伝子を受け継いでも子供は死にません。 タイプの同じ致死遺伝子を両親が持っている確率は0.5%ほど、そして子供に同じ致死遺伝子が譲り渡される確率は0.06%ほどです。 こういう風にして、「致死遺伝子を持つけれど、その遺伝子はもうひとつの正常な遺伝子によって隠されている」というのがほとんどの人の状況なんですよ。 さて、本題である、 「邪魔な致死遺伝子がなぜなくならないのか?」ですが、 今までのポイントは、 1、人は誰でも致死遺伝子を隠し持っている 2、同じタイプの致死遺伝子が両親にそろうことは滅多にない そして、 3、親と子ではひとつのセットのDNAはまったく同じである です。 さてここで、僕と僕の母親が近親相姦の関係を持ち、子供を授かったとします。(あくまで仮定です!僕にそんな願望はありませんから…) このとき、3番目の条件から僕が譲り渡すDNAと、僕の母親から譲り渡すDNAがまったく同じであるという可能性があります。 これは赤の他人同士ではDNAはどちらのペアもまったく違うので、自然な状態では確実にありえないことです。 譲り渡すDNAは二人ともが2つのペアのうちからひとつを選ぶのですから、2×2の四通りのペアの組み合わせができで、そのうちのひとつ、つまり4分の一がまったく同じDNAのペアです。 よって25%の確率でまったく同じDNAのペアがそろってしまいます。 このとき、このペアのDNAは致死遺伝子が2つそろってしまい、覆い隠してくれる正常な遺伝子はないので、致死性が現れます。 この確率は赤の他人において同じ致死遺伝子がそろう確率0.06%と比べれば400倍ぐらいも高いです。 これと同じようにして近親相姦では、不利な病気の遺伝子が、親の代まではもう一つの別のDNAのセットで覆い隠されていたのが、2つ同じペアになることで現れてしまうことがよくあります。 近親相姦で生まれた子には先天的に異常が現れる確率が高いのです。 ここがポイントです。 近親相姦による受精卵はなんらかの異常を持っている可能性があるが、その受精卵は致死遺伝子も現れているので、子供に育つ前に消滅してしまう、ということです。 もし致死遺伝子がなかったら、受精卵は正常に育ち、高い確率で先天性異常を引き起こします。 残酷な話ですが、致死遺伝子という“印”がついていることで、人間は近親相姦によって異常を持つ受精卵を排除する、というシステムを持っているのです。 このはたらきがうまくいっているので、致死遺伝子はいつまでたっても生物からなくならないのです。 ちなみに流産の何割かは、赤の他人同士では低い確率ですが、この同じタイプの致死遺伝子がそろってしまった胎児だったために流産してしまうことがあります。 決して、母親のせいだ、というだけではないのです。 念のために言っておきますが、僕は何らかの異常がある子供に生まれてくるな、などと言っているわけではないです。 ただ、近親相姦による胎児に異常が多く見られ、それを取り除くうまいシステムは存在している、という事実だけです。 何度も何度も近親婚を繰り返した、どこぞの王家はどんどん血が濃くなる、つまり、生まれてくる子供のDNAのペアが高い確率で同じものになってしまうため、 流産を繰り返したり、生まれつき病気をかかえた人が多かったりしたようです。 この意味で現代文化の通例の常識、「近親婚をタブー視する」ということは、生まれつきの異常を胎児になる以前から防止する、という役割をもっていることがわかります。

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