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カテゴリ:記憶の進化
一般的には「言語はコミュニケーションの道具」という定義が通っているが、これに対して今までずっと疑問を持ってきた。それがやっと最近になって「記憶の進化」というキーワードを使うことで解決した。
動物レベルのコミュニケーションは「個体同士による相互認知行動」といえる。これに対して人間レべルのコミュニケーションは、動物レベルのコミュニケーションをベースにしながら「記憶を進化させ伝える」ことと定義できる。 これを端的に説明している例がある。パリで十年程前、京都大学の霊長類研究所の松澤先生の講義を受けたことがあるのだが、その時のアフリカのチンパンジーのナッツ割の技術が、チンパンジーのグループの中でどのように伝わるのかを興味深く聞いた。 まずナッツ割の技術だが、これはそれほど簡単ではない。ナッツはかなり硬いから、石を使って割ることになるのだが、地面の上に置いて石でたたいてもナッツは割れない。まず土台になる大きめ石を見つけて、その上にナッツを置いてから別の石を使って上からたたく。先生はこの作業を「入れ子構造をもった作業」と説明していた。つまり、複数の行為を組み合わせることでナッツ割という技術が成立するのである。 人間は記憶の伝達を「教える」ことで実践しているが、野生チンパンジーのあるグループに見られるこの行動は、親から子供へと伝承されているのは確かなのだが、観察結果から意図的に教えられているわけではないと結論づけられていた。一言で言うと、親は子供に技術を教えない。子供は見よう見まねで習得するのだ。 例えば、チンパンジーの群れではメスが別のグループに移動するのだが、大人になってからグループに来たメスの個体はこの技術を使えない。つまり、生育期のある時期にグループ内で他の個体がナッツ割をするのを見て、自分でもやってみる期間がないと習得されない。この時期を逃してしまうと、後から学ぼうとして不可能だというのだ。 野生チンパンジーの歴史の中で、きっと一個体がこの技術を「発明」したのだろう。チンパンジーという種自体には、こういう能力はあるのだ。しかし、この技術は、若い個体の一方的な模倣という方法で伝承されてきた。つまり、若い個体が、経験を積んだ個体の行動を「認知」することで学習していくのである。ここには「記憶としての技術の伝達」はない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.05.21 07:28:15
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