早寝早起き玄米生活 ~がんとムスメと、時々、旦那~

2013/09/05(木)19:10

人間ドックで肺に影が。

がん・病気(128)

レントゲンの画像に目を凝らした。 一瞬、息が止まった。 左肺に小さな影がくっきりと映し出されていた。 パソコン画面を見つめ続ける医師の深刻な表情。 ぼくの顔を見ないまま、医師はこう続けた。 「念のため、呼吸器内科の外来で専門医に診てもらった後、 CTをとりますか」 「腫瘍ですか」 「分かりません。 ただ、その可能性は、ないとは言えません」 看護師がすぐに呼吸器内科に連絡をとってくれた。 「正午に内科の外来に行ってください。 予約が取れました」 考える間もなく、 ぼくは、人間ドック専用フロアの6階から、 呼吸器内科がある1階に向かった。 頭の中が真っ白だった。 窓から見える空も曇っていた。 呼吸器内科の医師はレントゲン画像を見ながら、 「うーん、はっきりと影が写っていますね。現状では何とも言えません。 CT検査の準備をしましょう」 ぼくは「心配ないですよ」という言葉を期待していた。 だが、医師は言ってくれない。 あのときも、そうだった。 ぼくは、千恵が、乳がんの告知をされた13年前の7月を思い出した。 患者が安心するようなことを、 乳腺外科の医師はなかなか言ってくれなかった。 CTの撮影が終わった。 看護師が、ぼくにカルテを手渡し、ニコッと微笑んだ。 「5階のレストランで食事を済ませてきてください。 ゆっくりいいですよ。 食後に結果をお知らせしますね」 看護師の優しさが、一層不安を煽った。 千恵の告知のときは、結果を聞くまで、 ぼくは食事が喉を通らなかった。 今回、自分の場合は食べることができた。 千恵が再発を繰り返し、 その都度、家族で困難を乗り越えてきた経験があるからだろうか。 不安がないと言えばウソになるが、 思った以上に、ぼくは冷静だった。 でも、食事をしながら、いろんなことを考えた。 そういえば、半年ほど前から咳き込むことが多くなったなあ。 もし、がんだったら、はなにはどのように説明しようか。 家に帰っても、普通に接しよう。 入院したら、ばあちゃんに来てもらうか。 じいじの食事が心配だなあ。 ローンはどうしようか。 通帳は整理しておかなきゃ。 生命保険の受取人は娘でいいよな。 こんなときのために、遺書って書いておいたほうがいいんだな。 仕事はなんとかなるやろ。 とりあえず、今夜ははなと一緒にうまいもん食おう。 そして、最後に思った。 千恵ちゃん、助けてよ。 まだ、はなを置いて、死ねるわけないやろ。 強気と弱気が行ったり来たり。 やっぱり、ぼくは何にも成長していなかった。 食事を終えたところで、 始業式から帰宅したはなからの携帯電話が鳴った。 「パパ〜。きょうは遅くなると〜?」 「きょうは人間ドックやけん、今、病院におるったい。 夕方までには、終わるよ」 「やった〜! パパ、今夜は何が食べたい? ごはん、一緒につくろうね」 「おー、そうやね」 そう言って、ぼくは携帯を切った。 娘の声を聞いた途端、涙があふれ出てしまった。 「ヤスタケさーん。診察室へどうぞ」 ぼくは、ドキドキしながら画像をのぞきこんだ。 画像をスクロールしながら、医師は言った。 「なーんも、ありまっせんね」 「えーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」 「まったくないっ!」 「いったい、なんやったんですか! あの影は?」 「うーん、なんやろね。乳首かな?」 「チクビーーーーーーー?????」 「いやあ、滅多にないんですが、写ることがあるんですよ。 ヤスタケさんの場合、画像で確認できた影は、 左側だけだったから『まさか』と思ったんだけど。 まあ、よかったですね。ご安心ください」 自宅に戻って、はなに一部始終を話した。 はなは、「はあ〜?チクビ?」と首を傾げ、 直後に「パパ、めっちゃウケる〜」と腹を抱えて大笑いした。 つられて、ぼくも一緒にゲラゲラ笑った。 ふたりで笑ったら、腹が減った。 ここ最近の暮らしを振り返ってみた。 生活が、やや乱れていたような気がした。 お酒を飲む機会も増えている。 仕事も講演も遊びも、ちょっと、詰め込みすぎだ。 千恵の警告に違いない。 「油断したらいかんけんね〜。 はなちゃんがおるっちゃけんね。 あんたが頼りやけんね〜。分かっとるやろうね〜」 そう言っているに違いない。 身が引き締まった。 深く反省。 しかし、だ。 なぜ、 乳首は左右にあるのに、 左の乳首だけがレントゲンに写っていたのか? それは、謎のままだ。 左右の乳首の大きさが微妙に違うのが原因だろうか。 位置に関係があるのか。 色の濃さだろうか。 それは、だれにも分からない。 考え始めると、ますます腹が減ってきた。 昨日の夜、はなと一緒に見に行った映画を思い出した。 「謎解きはディナーのあとで」 めし食ってから、謎を考えればいい。 そのうち、きっと忘れるだろう。 よっしゃ、 今夜は、カツ丼だ。 カツ丼食ったら、下剤飲んで、 あすは第2ラウンドの大腸内視鏡検査だ〜。 こわいなあ〜(泣)。

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