色彩工房

2005/03/31(木)21:33

名前のない物語一章 続き

小説(11)

チェルシーが泣いていた事を誰かがラーズに伝えたらしく、ほどなくしてラーズやクリム・・・リエル達が公園へとやってきた。チェルシーは赤く泣きはらした顔をして「ごめんなさい」と何度も何度も両親やクリムに謝っていた。 きっとチェルシー自身、なぜそんなにも謝りたい気分になったのかわからなかっただろう。人格を増やし、周りを惑わせて、迷惑を掛けてしまったことに対してではないのだ。 大切なものを自ら捨ててしまいそうになったことに対しての・・・―――― チェルシーと少年が話した、翌日のことだった。 クリムの話によると、家に戻った後のチェルシーはもう一切他の人格を出さなかったそうだ。もしかしたら既にチェルシーの中にいた人格は、チェルシーの涙と一緒に消えてしまったのかもしれない・・・そう、少年は思っていた。 (何にしても良かったよな。両親とも仲直り出来そうだって言ってたし) 少年は一晩泊まった宿の部屋を綺麗に片付けると、宿屋の外へと出た。 「旅人さんっ」 後ろから女の子の声がして、少年は振り向いた。そこにはすっかり元気を取り戻した様子の、笑顔で立っているチェルシーがいた。 「あ・・・チェルシー。体調はもういいの?」 「えぇ。元々、具合が悪いってわけじゃないもの。お父さんは1日休みなさいって言ったけど」 ふふ、と苦笑しながらそう話すチェルシーには、何か吹っ切れた感が見えた。そんな彼女の表情を見て、少年も安堵したようだった。 「あの・・・・・・ありがとう」 「え?」 突然の言葉に、少し唖然とする少年。 「あなたが私を諭そうとして話してくれなかったら・・・きっと私、元には戻れなくなっていた。・・・昨日ね、お父さんやお母さんが私の名前を呼んで・・・それに私が応えた時の嬉しそうな表情。それを見たら、なんだか・・・あなたの言ってた事、間違いじゃないってわかったの。名前って大切なものなんだって、勝手に捨てていいものじゃないんだって気がしたわ」 「・・・・・・そっか」 チェルシーの優しい笑顔に、少年も癒されるような感じを覚える。 これが本来の彼女の姿なんだ、と少年は思った。 チェルシーと話をする前クリムに聞いていた、「優しくて気立てが良い可愛らしい娘」・・・そのまま。 チルルとシェルアが彼女の一部だったとしたら、きっと・・・彼女は人格をつくりあげる際、自分の中から感情を切り取って人格を作っていたのかもしれない。だからあの時のチェルシーは無表情で反応が薄いような感があったのだ。 今はもう違う。切り取ったものを全部取り戻した、本来のチェルシーなんだと、そう思えた。 (・・・良かった) 少年がそう思いながらチェルシーを見ていると、彼女は何か言いたそうな顔をしていた。 「・・・どうかした?」 少年が聞くと、チェルシーは照れくさそうに少し頬を染める。 「あの・・・それで、何かお礼が出来ないかと思って、色々考えていたの。」 「え?い、いや・・・いいよそんな気にしなくても」 「そんなわけにいかないわ。本当はお父さんもお母さんもクリムもお礼したいって言っていたんだけれど、さすがにそんなには迷惑だろうからって私一人で来たんだから」 (参ったな) 少年は特にお礼が欲しくてクリムに協力していたわけではないし、こういうことは何だか妙に照れてしまう。少年はぽりぽりと頭を掻いていた。 「それに・・・ひとつ、気になっていた事があったから」 「?」

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