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先週、7月25日(水)、26日(木)の2日にわたり、東京のパレスホテルでFIA ジャパン・コンファランスが開催されました。これは、日本で活動をしているデリバティブについての国際的な団体であるFIA(Futures Industry Association) Japanが開催した、日本のデリバティブ取引に関する会議です。日・英の同時通訳の下、日本内外のデリバティブに関する規制当局、取引所、ブローカー業者などが講演やパネルディスカッション(パネル)を行いました。約3割の海外からの人々を含め、300人を超える参加がありました。
25日(水)の基調講演では、松下金融大臣が総合取引所実現についての決意を話されました。また、26日(木)の基調講演では、白川日銀総裁が先物取引における投資資金の流入の重要性について話されました。なお、白川総裁の講演の全文(講演は英語でしたのでその翻訳)は、次のサイトに掲載されています。http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120726a.pdf 26日(木)には、金融庁、経産省の規制当局、東証、大証、金取、東工取の取引所による講演またはパネルがあり、午後には"Japan Inbound and Outbound Business Development"(日本における、外→内/内→外のデリバティブ取引の発展)と題するパネルが開催されました。このパネルでは、私もパネリストの一人として話をしました。今回は、私がこのパネルで話したことについてご紹介します。 今回のような多くの聴衆を前にした会議でのスピーカーとしては、2011年11月にシンガポールで開催されたFIA Asiaコンファランスでも、パネルでHFT(プロップハウス等が行う高速取引)について話をしました。このときは使用する言語が英語のみでしたので、苦労しながら英語で話をして質疑応答をしましたが、今回は日・英の同時通訳がありますし、聴衆の多くが日本人でしたので、日本語で話をしました。 冒頭、外→内、内→外ビジネスの進展について、コモディティのデリバティブについて、次のとおり紹介しました。 内→外については、東工取における海外玉の、売買高と東工取の売買高全体に占める比率が、2009年:6百万枚(10%)→2010年:8百万枚(15%)→2011年:14百万枚 (22%)→2012年(1-6月の実績を2倍して推計):15百万枚(30%)と、売買高、比率ともに拡大しています。 外→内については、全体についてのデータがありませんので知り得るデータを基にしてですが、2009年12月に営業を開始したドットコモディティの海外先物の売買高が、2010年(1倍)に対して、2011年:30倍、2012年(1-6月を2倍して推計):100倍を大きく伸びています。 次に、内→外、外→内ビジネスのさらなる発展のために解決すべき課題について、次のとおり説明しました。日本の商品市場が縮小していることを反映して、外→内の方が課題が多くなっています。 内→外については、 第1に、海外を取引する個人投資家についての課税です。 国内(国内取引所取引のみならず店頭取引も)は一律20%の分離課税となっているにもかかわらず、海外(外国取引所取引)については、雑所得扱いとなっているため、最高50%との差別的な課税になっています。 第2に、国内と海外の証拠金の立替えです。 日本のブローカー(証券会社/商品先物会社)は、国内と海外の双方において取引を行う顧客、特には市場間の裁定取引を行う顧客について、建玉に伴う当初の証拠金、一方の取引において含み損(他方の取引において含み益)となった場合の追加の証拠金について、国内と海外とを別々に徴収することが義務づけられています。一方の含み益があるにもかかわらず、他方の含み損についての追加の証拠金をブローカーが立替えることも認められていません。 なお、海外のブローカーは、立替えはもとより、そもそも国内と海外の取引を合算しての証拠金を徴収すればよしとなっていますので、この制約は日本のブローカーのみについての差別的なものです。 外→内については、 第1に、海外のHFTについての課税です。 海外のHFTが日本の取引所において、自らが所有または占有するサーバーからコロケーション取引(取引所のデータセンターに直結しての取引)を行うと、日本居住者の取引とみなされて日本で課税されてしまいます。外国ではこのような実態とかい離した扱いはされておらず、HFTが安心して取引を行って自国の取引所の流動性を高めています。 第2に、委託者保護基金の定率会費です。 海外の顧客は保護基金のペイオフの対象になっていないにもかかわらず、商品先物会社が海外の顧客の取引を行う場合も、2.85円/枚の委託者保護基金の定率会費が負荷され、結果として海外の顧客に費用転嫁されます。 第3に、証拠金の外貨預託です。 日本のクリアリングハウスまたは取引所は、当初の証拠金または日々の値洗いに用いる通貨について、日本円のみしか認めていません。海外からの投資をこれから呼び込むためには、外貨建ての商品の上場を考えることも一案ですがその前に、まず外貨での証拠金の完全な受け入れを実現することが先決です。 第4に、コモディティと金融についての二元規制・二元行政です。 同じデリバティブにもかかわらず、日本では、コモディティと金融(証券を含む)とで、制度(法律)と監督官庁が異なります。 このため、口座を別にし、証拠金を別々に預託しなければならない、手続きが異なる(コモディティは勧誘を承諾しないとブローカーの説明を受けられない実態がある等)、ブローカーが規制に対応するための人件費コストがかかる、といった弊害を生じています。 第5に、東工取で高速取引を行う際の費用です。 東工取の海外玉の伸びの大半がHFTであると推測されるように、取引所の成長のためにはHFTの取り込みが不可欠になっています。顧客としてのHFTの重要性ゆえに、ドットコモディティも東工取向けのプロキシミティ・サービスをこの7月に開始したところです。このような状況の下で、東証/大証はデータセンターが同一ですが、東工取は異なるため、東証/大証に加えて東工取で高速取引を行おうとすると、設備・回線について追加的に費用が生じます。 第6に、東工取の流動性です。 流動性(出来高)の低下によって、東工取での取引が他の取引所に比べて困難または不利になっています。 例をあげますと、金の1日当たり平均出来高(2012年4月~6月)について、次のとおりです。 東工取 (1枚=1Kg) : 44千枚 CMEグループ(1枚=100オンス):178千枚 178×3.11=554千枚(Kg換算ベース) 第7に、東工取の取引コストです。 システム費用に対して出来高が少ないこと、赤字解消を意図して値上げをしたことから、東工取の取引経費が他の取引所に比べて高くなっています。 例をあげますと、自社で清算を行う取引参加者が金100オンス(=3.11Kg)の取引に要する費用について、次のとおりです。 東工取 : (55+5)×3.11=187円≒2.3$ CMEグループ: 0.45$(日計り) or 0.70$(オーバーナイト) 最後に、これらの内→外、外→内ビジネスのさらなる発展のための課題の解決策について、次のとおり説明しました。 第1に、税制改正です。 税制を、グローバル・スタンダードに則したものに改正することです。 これは、課題の、内→外の第1、外→内の第1に対応するものです。 第2に、規則改正です。 行政、取引所、団体等の様々な規則を、グローバル・スタンダードに則した合理的なものに改正することです。これは、課題の、内→外の第2 、外→内の第2、第3について対応するものです。 第3に、総合取引所です。 総合取引所=東工取の日本取引所グループ(東証/大証の統合会社)合流を実現することです。これは、課題の、外→内の第4、第5、第6、第7について対応するものです。総合取引所が外→内の第4、第5、第6、第7の各課題について、どのようにして解決策となるか、具体的には次のとおりです。 第4に対して、規制・監督の一元化です。 今国会にて成立する金商法改正により、東工取が日本取引所グループに合流、具体的には、東工取が日本取引所グループのデリバティブ市場運営会社と合併すると、この日本取引所グループのデリバティブ取引は、規制(金商法)・監督(金融庁)が一元化されます。 第5に対して、コモディティについて高速取引を行う場合も追加費用なしです。 日本取引所グループ合流の結果、現在の東証/大証と同じデータセンターにおいてコモディティも取引されるため、東証/大証に加えてコモディティについて高速取引を行う際に、設備・回線の追加費用を生じない。 第6に対して、商品市場の流動性拡大です。 規制・監督の一元化と、日本取引所グループ合流に伴うシステム同一化とによって、人件費・システム費の追加費用を生じることなく証券会社がコモディティを扱うことにより、日経225の投資家(50万口座)が商品市場(10万口座)に参加し、商品市場の流動性が拡大します。 第7に、コモディティの取引コスト低減です。 取引所統合によって単一のシステムのもとで多くの取引が行うわれるようになりますので、取引1枚当たりのシステムコストが低下し、今後ミリ秒単位からマイクロ秒単位の約定を実現するようにシステム更新が必要となる場合を含めて、コモディティの取引経費の低減が可能になります。 くしくも、同じ7月26日(木)に、規制・監督の一元化を実現するための金商法改正が参議院の財政金融委員会で与野党一致により採決されました。デリバティブについての、日本の内→外、外→内のビジネスがさらなる発展を遂げるための一歩です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.08.04 09:51:12
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