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《櫻井ジャーナル》

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2013.08.18
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 エジプトでは治安部隊とムスリム同胞団/ハメド・ムルシ派が衝突し、多くの死傷者が出ているようだが、そうした中、政府の施設だけでなく、キリスト教の教会、キリスト教徒の家、店、学校、修道院なども同胞団によって放火されているという。

 ムルシ政権時代、キリスト教徒など少数派は弾圧され、襲撃で死傷者も出ていたこともあり、カトリック教会のエジプトにおけるスポークスパーソンは治安部隊に理解を示している。

 ムスリム同胞団/ムルシ派は放火だけでなく、銃撃している可能性が高いことは本ブログでも伝えたとおり。「無抵抗の市民大虐殺」とは言いがたい状況だ。建物の屋上から狙撃している人物もいるようだが、このパターンはリビアやシリアでも報告されている。

 リビアやシリアの場合、当初、政府側が狙撃していると報道されたが、後に体制転覆を目指す勢力が行ったとする証言が出てくる。軍事介入を目指す勢力としては、介入する口実を作りたかったようだ。

 エジプトでも同じことが繰り返されている可能性もあり、現段階では誰が狙撃していると断定することはできない。暫定政権を「悪玉」、ムスリム同胞団を「善玉」として単純に描くことはできないということでもある。

 前にも書いたことだが、エジプトの衝突にはサウジアラビアとカタールが深く関係している。軍最高評議会のアブデル・ファター・エル・シーシ議長をサウジアラビアが支援する一方、カタールがムスリム同胞団/ムルシ派の後ろ盾になっている。

 サウジアラビアもカタールも北アフリカ/中東の体制を転覆するプロジェクトで中心的な役割を果たしてきた。この2カ国と同盟関係にある国には、アメリカ、イギリス、フランス、トルコ、イスラエルなどがあり、戦闘部隊としてアル・カイダが使われている。

 暫定政権はアメリカ政府の傀儡だとする話が広まっているが、そうとも言い切れないところがある。8月14日、バラク・オバマ大統領は暫定政権に電話を入れ、シーシ議長と話をしようとしたのだが、アドリー・マンスール暫定大統領が責任者だとして拒否されたとする情報をイスラエルのメディアが伝えているのだ。そのとき、シーシはサウジアラビア総合情報庁のバンダル・ビン・スルタン長官と電話で話をしていたという。そのスルタン長官は7月31日、ロシアを訪問してウラジミル・プーチン大統領と会っている。

 それに対し、ムルシは軍最高評議会との対立が表面化した際、アメリカ政府が自分たちの後ろ盾になっていると確信、クーデターは不可能だと考えていた。バラク・オバマ政権がクーデターを許さないと語っていたのだ。南カリフォルニア大学で材料科学の博士号を取得、カリフォルニア州立大学で助教授を務めた後、航空宇宙局(NASA)でエンジニアとして働いた経験があるという経歴もムルシを強気にさせた一因だろう。

 カタールとムスリム同胞団との関係を象徴する人物がユスフ・アルカラダウィ。ムスリム同胞団の精神的な指導者で、ドーハに数十年間住み、活動の拠点にしてきた。

 同胞団は貧困層への支援活動で支持者を増やしてきたというが、決して平和的な団体とは言えない。1928年にハッサン・アル・バンナが創設し、第2次世界大戦には秘密機構を創設し、王党派と手を組んで暗殺を繰り返している。

 エジプトでは、19世紀にアルバニア人が始めたムハンマド・アリー朝が1952年にクーデターで倒された。このクーデターの名目的な指導者はムハンマド・ナギブ将軍だが、実際はガマール・アブデル・ナセルが率いる自由将校団が中心的な役割を果たした。ナギブを支えていたのがムスリム同胞団だ。

 1954年に同胞団はナセル暗殺を試みて失敗、ナギブ大統領は解任され、同胞団は非合法化された。このときに同胞団の中心的存在だったひとり、サイド・ラマダンはバンナの義理の息子だ。

 ラマダンは西ドイツ政府が提供した外交旅券を携帯、ミュンヘンからスイスへ入り、サウジアラビアの資金でジュネーブ・イスラム・センターを設立した。この当時、スイス当局はラマダンをイギリスやアメリカの情報機関のエージェントだと見なしていたという。

 今回、軍が動く前にエジプトでは反ムルシ政権の抗議活動は盛り上がりつつあった。言うまでもなく、選挙だけが民主主義で意思を表明する方法ではない。抗議活動も民主主義にとって重要な手段。その際、デモの参加者が掲げたバナーやプラカードに汎アラブ主義、ナショナリズム、社会主義などを支持するフレーズが書かれていた。ガマール・アブドゥン・ナセルの考え方が広がっていることをうかがわせる。サウジアラビアや「西側」にとって好ましくない展開だ。ムルシ追放は、こうした活動を封印することにもつながった。

 しかし、カタール王室やムスリム同胞団は勿論、トルコ政府にとっても軍最高評議会やサウジアラビアの動きは許せないだろう。が、「西側」が暫定政権に何らかの「制裁」を加えたなら同胞団は軍との戦いを激化させ、暫定政権側はそれを押さえ込もうと弾圧を強化することが予想される。すでにアメリカの軍事援助は影響力が小さくなっているが、これをさらに削減したり打ち切ったなら、エジプトやサウジアラビアとアメリカとの亀裂が深まり、アメリカの影響力はさらに低下することになる。バラク・オバマ政権は厳しい状況に追い込まれた。






最終更新日  2013.08.19 11:39:13



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