《櫻井ジャーナル》

2013/11/29(金)04:03

東アジアで米国が軍事的な圧力を強める中、中国は防空識別圏を設定、親米的政策への偏りを修正

 中国政府は11月23日、東シナ海に防空識別圏を設定したと宣言した。尖閣諸島/釣魚島をめぐる日中の対立という見方が主流のようだが、現在、中国が意識しているのはアメリカに外ならず、アメリカ政府に対するメッセージだと考えるべきだ。  経済的に中国と結びつこうとする力がアメリカで働いていることは確かだろうが、ネオコンや戦争ビジネスは東アジアでの軍事的な緊張を高めようとしている。そうした意向に沿う形でジョージ・W・ブッシュ政権は「中国脅威論」を宣伝、その力は今でも消えていない。今の日本を支配しているのは、そうした好戦的な勢力である。  今年に入ってからアメリカが東アジアでどのように動いたかを見ると、まず目に飛び込んでくるのは、朝鮮軍部内の強硬派を鎮圧して情勢を安定させるという想定で10万人以上の韓国軍と3月11日に実施した軍事演習。その際、アメリカ軍はB-2ステルス爆撃機を派遣、F-22ステルス戦闘機をオサン(烏山)空軍基地に配置したという。4月にフジテレビ番組に出演した自民党の石破茂幹事長は、自衛隊による敵基地攻撃能力の保有を検討すべきだと発言している。米韓の動きに日本も同調しているということだ。  その韓国では8月28日、情報/治安機関の国家情報院(NIS)が統合進歩党の李石基議員に対する家宅捜索を実施、後に逮捕、起訴している。5月に開かれた党の会合で警察署や通信施設、石油施設などの破壊を話し合ったというが、統合進歩党のスポークスパーソンは容疑を事実無根だと主張、リークされた録音記録は、彼らの意図に合わせて歪曲され操作されたものだという。統合進歩党側の説明では、朝鮮とアメリカとの対立が戦争に発展する可能性を懸念した李議員は「平和と統一をめざす我が統合進步党の党員たちはどのように対処していくか」という問題を語ったのだという。  この強制捜査が行われる伏線は昨年12月に行われた大統領選挙。NISはセヌリ党を勝たせるために工作を実施したのである。日本において東京地検特捜部の果たしている役割を韓国ではNISが担当しているということだが、得票率はセヌリ党の朴槿惠が51.6%、民主党統合党の文在寅が48.0%という僅差。アメリカにとって好ましくない勢力が与党に拮抗する支持を得たということだ。  そうした不正を行ったNISに対する抗議活動が今年に入って盛り上がり、8月10日にソウルで行われた集会には5万人が集まったという。その18日後に統合進歩党への強制捜査が始まったわけだ。この逮捕劇はそうした抗議活動に水を差すことになる。当局の作戦は成功したということだろう。  韓国では済州島に海軍基地が建設されようとしているが、アメリカ軍の軍事的な拠点になると見る人は少なくない。また、今後、中国を睨んで無人偵察機や対潜哨戒機を日本に配備するともいう。こうしたアメリカ側の動きに対して中国は神経を尖らせ、ハワイへ情報収集船を派遣したと伝えられている。  エドワード・スノーデンのケースでも明らかなように、アメリカの言いなりになっているスペイン。その国の裁判所が中国の元首脳らに対して逮捕状を出す決定を下したことも中国を刺激した可能性がある。  アメリカが東アジアでの軍事的な緊張を高める方向へ動き出したのは1990年代後半のこと。1998年に作成したOPLAN 5027-98は、金正日体制を倒して朝鮮を消滅させ、アメリカの傀儡が主導する新たな国を建設することを目指している。  こうした動きに対し、この年の8月に朝鮮は太平洋に向かって「ロケット」を発射し、翌1999年3月には海上自衛隊が能登半島の沖で「不審船」に対し、規定に違反して「海上警備行動」を実行している。この年には金体制が崩壊、あるいは第2次朝鮮戦争が勃発した場合に備える目的でCONPLAN 5029が検討され始め、日本も朝鮮戦争に備え、アメリカ軍が日本や太平洋地域に駐留することを認めたと言われている。  2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターにあった超高層ビル2棟に航空機が突入、ほぼ同時に国防総省の本部庁舎が攻撃されると、それ口実にしてアメリカは20年近くかけて準備してきた「戒厳令」を始動させ、石油パイプラインをめぐって対立していたアフガニスタンを先制攻撃、2003年3月にはイラクを先制攻撃する。  このイラク攻撃とほぼ同時にアメリカは空母カール・ビンソンを含む艦隊を朝鮮半島の近くに派遣、6機のステルス攻撃機F117が韓国に移動し、グアムには24機のB1爆撃機とB52爆撃機を待機させたという。この年、核攻撃を想定したCONPLAN 8022を作成したとも言われている。  WikiLeaksが公表した文書がによると、2009年7月に韓国の玄仁沢統一相はカート・キャンベル国務次官と会談し、朝鮮の金正日総書記の健康状態は悪く、余命はあと3年から5年だとしたうえで、息子の金正恩への継承が急ピッチで進んでいると説明している。  この会談で玄統一相は朝鮮が11月に話し合いへ復帰すると見通していたのだが、こうした流れを壊す動きが韓国側から出てくる。10月に韓国の艦艇が1日に10回も領海を侵犯、11月に両国は交戦、話し合いどころではなくなったのだ。  2010年9月には、尖閣諸島/釣魚台群島の付近で操業していた中国の漁船を海上保安庁が「日中漁業協定」を無視する形で取り締まり、その際に漁船が巡視船に衝突してきたとして船長を逮捕する。漁業協定に従うなら、日本と中国は自国の漁船を取締り、相手国漁船の問題は外交ルートでの注意喚起を行うことになっていた。この協定を無視した海上保安庁は国土交通省の外局。事件当時の国土交通大臣は前原誠司で、その直後に外務大臣に就任している。  東北で地震が起こり、東電福島第一原発が破壊されて大量の放射性物質を環境中に放出し始めた後、2011年12月に石原伸晃はハドソン研究所での講演で、尖閣諸島を公的な管理下に置いて自衛隊を常駐させ、軍事予算を大きく増やすと発言、翌年4月には父親の石原慎太郎が「ヘリテージ財団」主催のシンポジウムで講演、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南児島を東京都が買い取る意向を示した。それに対して日本政府は諸島を国有化、日中関係は急速に悪化することになる。  そして昨年11月、日本とアメリカは沖縄を中心にした大規模な統合軍事演習「キーン・スウォード」を実施した。日本から3万7000名余り、アメリカから約1万人が参加、自衛隊の艦船やアメリカの空母も加わっている。当初の予定では、仮想敵に占領された無人島を解放する作戦が含まれていたのだが、最終的にはプログラムから除外されたようだ。ただ、それでも中国を挑発するには十分な内容で、強硬路線を引き出すことになる。  その1年後、中国は防空識別圏の設定を宣言する。その直後、アメリカはグアムから2機のB-52爆撃機をその防空識別圏の中を飛行させて対抗、南シナ海には2隻の原子力空母、ジョージ・ワシントンとニミッツがいる。米中の力比べが始まった。イランやシリアで話し合いが進んで緊張が弱まるのと反比例する形で東アジアでは軍事的に緊張が高まっている。中国の資金で戦争しているアメリカが中国を挑発するという倒錯の世界だ。  これまで中国は親米的な姿勢を示していたが、力で対抗しなければ、アメリカの好戦派は侵略してくるということを中東/北アフリカで中国も学んだはず。今後、シリアにおけるロシアのように、中国も軍事力と外交を絡めてくるのだろう。 【追加】  アメリカ軍の戦略爆撃B-52に続き、自衛隊は対潜哨戒機P-3Cを、また韓国も航空機を中国が設定を宣言した防空識別圏を無通告で飛行させたと伝えられている。  中国は日本に対し、自分たちに宣言は、日本が1969年に防空識別圏を一方的に設定したのと同じことだと主張。  日本やアメリカのメディアは、今回のケースでも日米政府の主張を垂れ流している。「特定秘密保護法案」は既に起動しているかのようだ。  中国が戦闘機と早期警戒機を防空識別圏へ通常パトロールのために派遣したと発表。

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