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《櫻井ジャーナル》

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2016.01.26
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 アメリカ政府における好戦派のひとり、アシュトン・カーター国防長官は1月22日、陸軍第101空挺師団から1800名ほどをイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると主張した。占領状態のイラクでは政権をアメリカがコントロール、派兵を正当化する形を作ることは可能だろうが、シリア政府は明確に拒否、シリアへの派兵は侵略以外の何ものでもない。

 シリア侵略軍、つまりアル・カイダ系武装集団やIS(ISIS、ISIL、ダーイッシュなどとも表記する)の宣伝部門的な役割を果たしているSOHR(シリア人権監視所)によると、アメリカの特殊部隊はシリア北東部にある空軍基地を制圧したというが、CENTCOM(アメリカ中央軍)は否定している。ただ、情報会社のストラトフォーが公表した昨年12月28日に撮影されたという衛星写真には、700メートルの滑走路を1315メートルに延長する工事をしている様子が写っている

 ちなみに、SOHRは2006年にメンバーひとりで創設された「団体(ペーパー団体の疑いが濃厚)」で、CIAやMI6のような情報機関とつながりがあり、エドワード・スノーデンが所属していたブーズ・アレン・ハミルトンやプロパガンダ機関のラジオ・リバティも後ろ盾になっていると言われている。勿論、SOHRを「反体制派」と呼ぶのは正しくない。そのSOHRの話を無批判に垂れ流しているメディアが存在するとするならば、そこも背景はSOHRと同じだということだろう。ネオコン/シオニストの書いたシナリオ通りにことが進まず、シリアのバシャール・アル・アサド政権を倒せないことに苛立っているように見えるメディアも存在する。

 アメリカ軍の全てを指揮している統合参謀本部の議長は2011年10月から15年9月までマーチン・デンプシー陸軍大将が務めたが、アル・カイダ系武装集団やISの勢力を拡大させるバラク・オバマ政権の政策を懸念した軍の幹部は2013年秋からそうした武装集団に関する情報をホワイトハウスの許可を得ず、シリア政府へ伝え始めたという。

 前にも書いたように、DIA(国防情報局)が2012年8月に作成した報告書によると、シリアで政府軍と戦っている戦闘集団の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、アル・カイダ系武装集団のAQIで、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けているとしている。アル・ヌスラはAQIがシリアで活動する際に使っている名称にすぎないという。この報告書が作成された当時のDIA局長、マイケル・フリン陸軍中将は、AQI/アル・ヌスラやISの勢力拡大をアメリカ政府の決定が原因だと語っている

 アメリカが2003年3月にイラクを先制攻撃した当時の大統領は共和党のジョージ・W・ブッシュであり、今は民主党のオバマだが、AQI/アル・ヌスラやISを使って自立した政権を破壊するという戦術に変化はない。その戦術を実行しているのはCIAと特殊部隊で、正規軍は当初から反対する意見が多かった。正当な理由がないうえ、作戦が無謀だということだ。

 この無謀な作戦を進めたグループの中心的な存在はブッシュ・ジュニア政権で「摂政」とも言われたリチャード・チェイニー副大統領、ドナルド・ラムズフェルド国防長官、そしてポール・ウォルフォウィッツ国防副長官が含まれている。リチャード・ニクソン大統領がウォーターゲート事件で失脚した後、副大統領から大統領へジェラルド・フォードが昇格した時代にこの3人は台頭、デタント(緊張緩和)派を粛清した好戦派仲間だ。

 イラク侵攻作戦のベースになったのが1992年初めに国防総省で作成されたDPGの草案。この時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュ(父親)であり、チェイニーは国防長官、ウォルフォウィッツは国防次官だった。そのDPG草案をベースにしてネオコン系のシンクタンクPNACが「米国防の再構築」という報告書を作成して2000年に発表、01年から始まるブッシュ・ジュニア政権の軍事戦略はこの報告書に基づいた。

 当初の予定では、2001年9月11日(9/11)にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された翌年の春にイラクを攻撃する予定だったようだが、軍の幹部たちに抵抗される。

 例えば、2002年10月にドナルド・ラムズフェルド国防長官に抗議して統合参謀本部の作戦部長を辞任し、06年4月にタイム誌で「イラクが間違いだった理由」というタイトルの文章を書いたグレグ・ニューボルド中将、翌年の2月に議会で長官の戦略を批判したエリック・シンセキ陸軍参謀総長、そのほかアンソニー・ジニー元中央軍司令官、ポール・イートン少将、ジョン・バチステ少将、チャールズ・スワンナック少将、ジョン・リッグス少将などだ。

 こうした抵抗で開戦は約1年先に延びたが、結局はイラクを先制攻撃して破壊、殺戮、そして占領することになった。軍の幹部も好戦派、つまり戦争ビジネスと結びついたり、カルト的な考え方をする軍人に置き換えられてしまったようだ。そうした配置換えを進めたグループのひとり、ラムズフェルド国防長官の周辺では9/11から間もなく、イラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランを先制攻撃するという計画ができあがっていたというが、1991年の段階でウォルフォウィッツが口にしていたのはイラク、シリア、イランの3カ国。イラクを破壊した段階で残されたのはシリアとイランだ。

 アメリカがサウジアラビアやイスラエルと手を組み、シリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラに対する秘密工作を開始したとシーモア・ハーシュが書いたのは2007年3月5日付けニューヨーカー誌。シリア、イラン、ヒズボラを敵と位置づける発言は国務長官時代のコンドリーザ・ライスも口にしていた。

 そうした秘密工作の中心にはチェイニー副大統領がいて、その手先として使われると見られていたのはサウジアラビアの影響下にあったムスリム同胞団やサラフ主義者(ワッハーブ派)だ。実際、2012年8月におけるDIAの報告では、シリアで政府軍と戦っている戦闘集団の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、アル・カイダ系武装集団だとされている。

 こうした事情を考えれば、アメリカがアル・カイダ系武装集団やISを本気で攻撃するはずはなく、ISが支配地を拡大するのは必然なのである。その間、イスラエルはシリア政府軍を攻撃してアル・カイダ系武装集団やISを支援していた。

 状況が一変したのは昨年9月30日。ロシア軍がアル・カイダ系武装集団やISに対する空爆を開始したのだ。アメリカのように物資を「誤投下」することもなく、司令部、兵器/武器庫、トルコから運び込まれる兵站、さらにトルコへ運び出されていた盗掘石油の輸送車両も破壊され、ネオコン、イスラエル、サウジアラビア、トルコといった国々は窮地に陥った。

 特殊部隊を使ったアル・カイダ系武装集団やISへの支援は続けているようだが、それでも支えきれなくなっている。政府軍による要衝の奪還が明確になれば、西側の宣伝マシーンも実態を隠しきれなくなるだろう。そうした中、出て来たのがカーター国防長官の発言だ。最後に自国の陸軍第101空挺師団を送り込み、自分たちが「テロリスト」に勝利したという宣伝をはじめるつもりだろうという見方もある。

 他人の手柄を自分の手柄にするのは米英支配層の得意技。例えば、第2次世界大戦の最中、1941年6月ドイツ軍がソ連へ攻め込んだ時もそうだった。両国軍はスターリングラードで死闘を繰り広げ、1943年2月にドイツ軍は全滅、ソ連軍の反撃が始まる。

 それまで傍観していたアメリカ軍だが、1943年7月にシチリア島へ上陸、44年6月にはノルマンディ上陸作戦を敢行してパリを制圧した。その後はハリウッドを利用してドイツ軍を打ち破ったのは自分たちだという宣伝を繰り広げ、今ではそのプロパガンダを信じている人が少なくない。シリアやイラクでも同じことを目論んでいる可能性があるが、ネオコンなどはシリアやイランの体制転覆を諦めていないだろう。軍隊の送り込みに成功したなら、次はイラクの占領体制を強化、シリアやイランの体制を転覆させるために使うかもしれない。






最終更新日  2016.01.27 10:03:32

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