《櫻井ジャーナル》

2020/10/20(火)22:58

日本と台湾を巻き込みながら東アジアの軍事的な緊張を高める米国

 アメリカ大統領の国家安全保障補佐官、​ロバート・オブライエンは10月16日、台湾は要塞化するべきだと語った​。軍事侵攻だけでなく、経済的に台湾を孤立させるような政策を中国に取らせないためだとしている。アメリカ政府が中国に対して行っていることを中国が台湾に対して行うことは許さないということだ。 その発言の直前、​アメリカ空軍のRC-135S偵察機が60回以上、中国の周辺を飛行​、そのうち41回は南シナ海、6回は東シナ海、13回は黄海だったという。この情報を出したのは中国の南シナ海戦略情勢調査イニシアチブだ。 アメリカ側の動きを振り返ってみると、​7月4日から2隻の空母、ロナルド・レーガンとニミッツを中心とする空母打撃群が南シナ海に入って軍事演習​を実施。これは中国に対する威嚇以外の何ものでもない。 8月にはアレックス・アザー保健福祉長官、9月17日にはキース・クラッチ国務次官が台湾を訪問して蔡英文総統と会談しているが、こうしたアメリカ政府の高官が台湾を訪れるのは1979年にアメリカが台湾との関係を絶ってから初めてのことだ。 これに対し、中国軍は9月18日に18機の軍用機を台湾の防空識別圏近くを飛行させ、19日にはJ-16戦闘機など19機の編隊を派遣、一部は台湾海峡を飛行、台湾軍がF-16を緊急発進させる事態になっている。 その前、9月16日に中国外務省の汪文斌報道官は、アメリカ軍が偵察飛行の際に虚偽のICAO(国際民間航空機構)の24ビット・アドレスを使い、​フィリピンなど他国の民間航空機を装っていた​と発表している。 そして10月6日にアメリカの​マイク・ポンペオ国務長官​が東京で日本、インド、オーストラリアの代表と会い、中国との戦いについて話し合った。「4カ国同盟」だという。8日には​岸信夫防衛大臣が横田基地で在日米軍のケビン・シュネイダー司令官と会談​している。 アメリカ政府が東アジアの軍事的な緊張を高めようとしていることは明かだが、こうした戦略は遅くとも1992年2月にできあがっている。国防総省のポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)などネオコンがDPG草案という形で世界制覇プランを作成したのだ。いわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンだ。 ジョセイフ・ナイ国防次官補(同)が書き上げ、1995年2月に発表された「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」は、その戦略を日本へ強要することが目的である。 1991年12月のソ連消滅でアメリカが唯一の超大国になったとネオコンは認識、そのアメリカに君臨している自分たちが世界の覇者になったと考えたのだ。ソ連の復活を許さないだけでなく、最も警戒すべき潜在的ライバルである中国に矛先を向ける。これが東アジア重視だ。 21世紀に入ってロシアが曲がりなりにも再独立に成功、2014年にネオコンが仕掛けたウクライナのクーデターや香港の反中国運動が逆効果になって中国とロシアは現在、戦略的な同盟関係にある。アングロ・サクソンは中国とロシア/ソ連を分断し、個別撃破しようとしてきたはずだが、その基本が崩れた。この両国を倒そうとアメリカの支配者たちは必死だろう。 こうした状況の中に日本も巻き込まれている。首相だった安倍晋三は2015年6月、赤坂にある赤坂飯店で開かれた官邸記者クラブのキャップによる懇親会で「​安保法制は、南シナ海の中国が相手なの​」と口にしたという。一応、彼は自分の置かれた立場を理解していたようだ。こうした状況を理解していない人が安倍を馬鹿にすることはできない。 南シナ海は中国が進める一帯一路の東端にある海域にあり、重要な海域。アメリカがそこをコントロールすることで中国の交易計画を潰そうとしている。その手先にされようとしているのが海上自衛隊だ。 こうした動きはウォルウォウィッツ・ドクトリンに基づいているのだが、19世紀から続くイギリスの長期戦略にも合致している。制海権を握っていることを利用し、ユーラシア大陸の周辺部を支配して内陸部を締め上げ、最終的にはロシアを制圧するという計画だ。それをまとめたのが地理学者だったハルフォード・マッキンダー。この理論は1904年に発表されている。大陸を締め上げる三日月帯の西端がイギリス、東端が日本。日本列島は大陸を攻める拠点であり、日本人は傭兵だ。 一帯一路は陸のシルクロードと海のシルクロードで構成され、今ではロシアの交通網やパイプラインと結びつきつつある。海のシルクロードを潰すために黄海から南シナ海でアメリカ軍は軍事的な緊張を高め、太平洋軍をインド・太平洋軍へ変えた。陸のシルクロードの要衝はいくつかあるが、そのひとつが新疆ウイグル自治区である。 こうした要衝を攻める場合、アメリカは少数民族を利用してきたが、ここも例外ではない。ウイグル問題で鍵を握る団体のひとつがハッサン・マフスームの創設したETIM(東トルキスタン・イスラム運動)。その政治部門がトルキスタン・イスラム党だという。1990年代にETIMは拠点をアフガニスタンへ据え、そこでマフスームはオサマ・ビン・ラディンらと知り合っている。 その前、1980年代に新疆で勧誘されたウイグル人がアフガニスタンでジハード傭兵に加わり、戦闘に参加しているが、その傭兵の中心がイスラム同胞団やワッハーブ派だということは本ブログでも書いてきた通り。2013年以降、ウイグル人がシリアで侵略軍の傭兵になり、一時期、1万8000人に達したと推定されていた。そうした経験を経たウイグル人を新疆へ戻っているという。 2003年にマフスームをパキスタン軍が暗殺、アンワル・ユスフ・トラニが新たなリーダーになり、本拠地をワシントンDCへ移動させる。アメリカで活動できるのはCIAという後ろ盾があるからだろう。 アメリカをはじめとする西側の有力メディアは「新疆ウイグル自治区に設けられた強制収容所」を宣伝してきた。その発信源は「​人種差別撤廃委員会​」に所属するゲイ・マクドゥーガル。この委員会は国連の人種差別撤廃条約に基づいて設立され、独立した専門家で構成されている。マクドゥーガルの発言は国連と無関係である。 マクドゥーガルの発言を取り上げたロイターはその根拠を示していないが、中国によるウイグル人弾圧に関する情報として​CHRD(中国人権擁護者)​という団体の主張を引用している。このCHRDの資金の一部はCIAの工作資金を流しているNEDからのものだ。 ​ドイツの人類学者でキリスト教系カルトの信者としても知られているアドリアン・センス​も中国におけるウイルグル人弾圧の情報源として重宝されている。中国批判は自分が神から与えられた使命だと考えているようだ。 こうした反中国プロパガンダの背景は明確になってきたが、100万人規模のウイグル人が拘束されているという強制収容所の存在を示す証拠は出てこない。ウイグル問題の根は中国政府による弾圧ではなく、CIAによる浸透にあると言うべきだろう。ここでもアメリカの支配者による情報操作は機能している。明治時代から日本で続く「反亜教育」の効果は絶大だ。

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る