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カテゴリ:第3話 反乱前夜
アンドレスは、ハッとした瞳でアパサの顔を改めて見た。 アパサの目は、めったにないほど澄んでおり、どこか、まるで同情の念を宿しているかのような色さえ湛えている。 「それが、おまえの宿命だ。 アンドレス。 おまえは、周りの者の心を惹き付け、奮い立たせ、士気を高める、そのための偶像にならねばならぬのだ。」 そして、低い声で続けた。 「今、トゥパク・アマルがやっているようにな。」 アンドレスは、今や、はっきりとその意味を察した。 そして、トゥパク・アマルがわざわざ自分をこのアパサの元にあずけた理由も、今、アパサの言葉で明確に認識した。 確かに、銃や砲弾で応戦してくるスペイン兵に対して、アンドレスがいかに見事な剣裁きで立ち向かおうとも、そこには、さほどの大きな意味はない。 むしろ、反乱軍の精神的支柱としての「インカ皇帝」つまりは「トゥパク・アマル」の属性の一部として、インカ族の人々の士気を高め、その魂を高揚させることにこそ意味があるのだ。 それ故、「インカ皇帝」の側近、あるいは血統の武将として、いかに味方の心を打つ振る舞いができるのか、その見せ方が重要だと、アパサは言いたいのだろう。 既に、辺りは澄んだ藍色に染まりはじめている。 秋近い夕暮れ時の空気は、何とも物悲しい。 足元のすぐ傍の草の中から、虫の鳴く声が響いてくる。 アンドレスは、すっかり手になじんだ棍棒の感触を改めて確かめた。 「わかりました。」 「うむ。」と短く答え、アパサは館の方に消えていった。 一人草地に立ったまま、アンドレスは宵の空を見上げた。 ただでさえ乾いたこの土地の秋間近の空は、恐ろしいほどに澄んでいる。 まだ微かに薄明るい空には、しかし、星々が既に秋の星座を描きながら、白く清らかに瞬きはじめていた。 無性に故郷が懐かしく思えてくる。 星の静かな瞬きが、今は、何故かとても切なく感じられる。 すっかり夜の帳がおりても、アンドレスはじっと遠い星を見上げたまま、いつまでも冷たい風に吹かれていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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本当にいつもお話にふさわしい絵を上手に持ってこられますね!一瞬で雰囲気に引き込まれていきます。
ところで、アパサ、トゥパク・アマル様のこと、よ~くわかっていらっしゃる☆ 「今、トゥパク・アマルがやっているようにな。」 ここのセリフは、鳥肌ものでございましたわ♪ インカの民を鼓舞する神々しいトゥパク・アマル様のお姿がさっと浮かびましたわ♪ドッキン(♥∀♥)ドッキン アンドレスは母性本能を刺激してくれますけれど、ごめんなさい。私はトゥパク・アマル様にぞっこんなのですぅ~ (でも、見守っているからねっ☆) (2006.04.27 21:45:43)
あんじぇ(*・∀・)さん、嬉しいコメント、どうもありがとうございます!
狙い目のところを、きっちりとらえていただけて、密かに「やった!」とガッツポーズをとっています(笑) 流石に、ここのところアンドレスばかりでしたので、自分としても、そろそろトゥパク・アマルを書きたくなってきました。 というか、トゥパク・アマルが、もう溜まりかねているようなので(苦笑) …というわけで、明日、久々に登場の予定です。 引き続き、トゥパク・アマルをごひいきにお願いいたします(^人^) (2006.04.27 22:06:27)
(゚ー゚)(。_。)ウンウン
風とケーナさん、さすが風とケーナさんだなと思いましたw この一個前のコメントを読んでですw 四草めぐるです。 そうそう。 テレビも新聞も歴史も怪しいのですw だから自分自身の価値観をしっかりと持つ事が大事だと思っています。 イチローUSA語録を読んでいて強く思いました。 メジャー、一年目。 日本人初の野手メジャーリーガー。 果たして日本の打率王の彼はメジャーで通用するのか、疑問視され……。 イチローは開拓者だとか冒険者と呼ばれていたらしいです。 しかしイチロー曰く。 彼にとって、アメリカだろうが、日本だろうが、野球をやっているだけとの事。 これ位、しっかりと自分を持っている人はそうそういませんね。 ゆえにスパースターなのですがw アンドレスにもインカ皇帝の血統に恥じぬよう自分を確立して欲しいです。 私は創作を通して、様々な事を学びました。 まだまだ学ぶ余地はあります。 気力も衰えていませんw イチロー語録によると、投手に負けた場合は自分自身の力不足。 自身によるミスには、学ぶ余地があり成長できる要素が隠れているそうです。 なるほどなと思ったりもしますw だから、あの年齢でもメジャーリーガーだったりするんですねw そういえば、誰かが言っていましたね。 人間に決まった器はない。自分自身が器の大きさを決めているのだと。 自分は、ここまでしかできない。ここまででいいと。 まとまろうとするらしいです。 本来ならば、どこまでも限りなく拡がっている大きな器をです。 アンドレスは、どこまで成長するんでしょう? 願わくば、限りなく大きな漢になって欲しいと思っています。 その為には修業! 修業! です。 では、では。 草々。 (2013.04.17 22:01:21)
四草めぐるさま、こんばんは☆
先日のコメントへのお返事に温かいお言葉、 本当にありがとうございます! 四草めぐるさまにそのように仰って頂けますのは、 とても嬉しいことです(*^-^*) イチロー語録も教えてくださいまして、 どうもありがとうございました! >自身によるミスには、学ぶ余地があり成長できる要素が隠れているそうです。 >なるほどなと思ったりもしますw 私も、大いに賛同いたします! 自身の失敗から学べることは、とても大きいと感じます。 成功した時よりも、ミスから学べることの方が、 大きいほどではないかと。 >本来ならば、どこまでも限りなく拡がっている大きな器をです。 四草めぐるさまのこのお言葉も、すごくいいです! 全く同感です。 本来、私たちは、皆、 それぞれに無限の資質をもっているのだと思います。 それに制限をかけてしまっているだけで、 本来はどこまでも拡がっていけるのではないかと。 四草めぐるさまのお言葉に勇気をたくさんもらいました。 アンドレスにも、 力強いエール、本当にありがとうございました!(^-^)/ (2013.04.17 22:48:50) |