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カテゴリ:第3話 反乱前夜
それから、アパサは武器庫にアンドレスを連れていき、武器庫の奥の方から臙脂色のビロードの大きな包みを持ってきた。 アンドレスの目の前で、その布の周りに丁寧に結ばれていた豪奢な紐をゆっくりとほどいていく。 格調高く優美な、そして、重厚で厳(いか)めしい、輝くようなサーベルがそこにはあった。
サーベルがまるで生きているかのように、蒼く燃え上がるがごとくの気を発している、そのような激しい錯覚にとらわれる。 アパサは捧げ持つようにして、アンドレスにそのサーベルを手渡した。 彼は、興奮で震える両手で、がっちりとそれを受け取った。 非常に厳(いか)つい棍棒で鍛え続けてきたアンドレスにとって、これほど重量感のあるサーベルでさえ、今や羽のように軽く感じられる。
持っていけ。」 揺れる眼差しでアパサを見上げるアンドレスの瞳の中で、アパサは静かに笑っていた。 「おまえはよくやった。」 サーベルを掲げ持ったまま、アンドレスは深く頭を下げた。 「本当に、何と御礼を申し上げたらよいのか…。」 思わず涙が込み上げそうになるのを、彼はぐっとこらえた。
「これまで敵を攻撃することばかりを言ってきたが、おまえに渡したこのサーベルは、ただ攻めるだけのものではない。 そもそもサーベルとは、攻めるよりも守ることに優れた武器なのだ。 サーベルには、敵のもつ銃や大砲には無いものが宿っている。 それは、美しく、魂と呼ぶにふさわしい雰囲気とも言えるだろう。 おまえには合っている。」 アンドレスは、もはやこらえられず、男泣きに涙を落とした。 恐らく、アパサも感極まっていたことだろう。
「アンドレス。 これで己の身を守れ。 おまえは命を落とすなよ。」 アンドレスは、霞んだ視界で、アパサに深く礼を払った。 アパサもそれに応えるように、深く礼を払って言った。 「さらばだ、アンドレス。 次は、戦場で会おう。」
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