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カテゴリ:第6話 牙城クスコ
すうっと肩の力が抜けていくのを感じながら、アンドレスは思い切って言う。 「コイユール…。 すまなかった。 俺は、ずっと、君に声ひとつかけずに…」 コイユールは軽く首を振って、微笑んだ。 「そんな…。 声などかけなくても、アンドレスは、いつも見守ってくれていたわ…。 そう感じてた。 トゥパク・アマル様やビルカパサ様の治療の時に出会えた時も…いつだって…!」 「コイユール…!」 アンドレスは、胸を突かれたように言葉が出ない。
一方、コイユールは静かに微笑みながら、アンドレスを見上げている。 本当は、どれほど会いたかったか、話したかったか、近くに感じたかったか…――と、コイユールの心にも、アンドレスに伝えたい気持ちがとめどなく溢れるが、彼女もそれを言葉にすることができずにいた。
そして、思い切ったように深く息を吸い込むと、素直な疑問を問いかけた。 「アンドレス…でも、何か、あったのね? こうして、来てくれたのは、何か訳があるのでしょう? …そうなのでしょう?」
(やっと会えたというのに、すぐに別れの話を切り出すのか…俺は……! しかも、隣国まで行く上に、いつ戻れるかさえ分からないなどと…――!!)
「言いにくいことなの…ね? でも、私、きっと大丈夫よ。 ね、アンドレス、心配しないで、言ってみて」 コイユールは気丈に微笑みを保とうとするが、口ごもるアンドレスの沈黙が長引くにつれ、徐々に不安気な影を宿しはじめる。
(今まで、まるで避けるようにしていた俺が、こんなふうに、突然、押しかけたこと…何か理由があってのことだって、コイユールは察しているんだ。 その理由を、コイユールだって、本当は聞くのが怖いに違いないのに…。 でも、コイユールは向き合おうとしている…!)
コイユールは覚悟を決めた真摯な眼差しで頷くように、真っ直ぐ自分を見上げている。 (コイユール…!! ああ…俺も、今までのように、避け、逃げるのは、もう終わりにするのだ!!) アンドレスは意を決したように、真正面からコイユールに向いた。 そして、搾り出すように言う。 「コイユール…俺は、ラ・プラタ副王領に…派遣されることになったんだ。 明後日、遠征に出立する」 「!!」
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