アンドレスは瞬時に目が覚めて、ベッドから飛び降りると、窓枠の陰から外に鋭く視線を走らせる。
確かに、ジェロニモの言う通り、宿屋の外のそこかしこに、スペイン兵たちが殺気だった様相でたむろしている。
ジェロニモとアンドレスの様子に異変を感じて目を覚ましたペドロとヨハンも、すかさずベッドから起き出し、窓外の様子に目をやって息を詰めた。
「どうしてあんなに多くの敵兵が!?」
そう口の中で呟いたペドロは、反射的にヨハンに険しい嫌疑の目を向けた。
だが、ヨハンは、その視線を払いのけると、逆にキレそうな眼でギロリと睨み返す。
「てめぇ、俺が呼び寄せたとでも言いたいのか?
こんな状態でお前らと一緒にいる俺が、どうやってそんなことができるってんだ。
とんだ濡れ衣(ぬれぎぬ)だぜッ!」
腰に素早く剣の装備を穿(は)きながら、外の様子を隙なく観察しつつ、アンドレスがペドロとヨハンの間に止めに入る。
「ヨハン、どうか気を鎮めてくれ。
ペドロも今はそこまでに。
今は仲間割れをしてる場合じゃない。
それより、あのスペイン兵たちにどう対処するかを考えよう。
──ここから見える範囲だけでも、ざっと2~30人ぐらいはいそうだな。
それに対して、こちらは4人。
斬り込まれてきた場合、ひとり5人以上を相手にしなければならない計算だ……」
低く絞ったアンドレスの声音に、ジェロニモをはじめ他の3人も、窓の外を見据える横顔をいっそう険しくさせる。
「まぁ、それぐらいの人数なら相手にできますケド。
ただ、こんな狭い部屋じゃ、奴(やっこ)さんたちも戦いにくいでしょうネ。
俺たちを殺したいだけなら、建物を包囲して逃げ場を塞いで、それから放火でもしちまった方が早いでしょうが」
そんなジェロニモの発言を受けて、ペドロが敵兵たちへの憤怒を露わにした口調で応じる。
「しかし、向こうは、アンドレス様を生け捕りにしたいはずです。
だとすれば、斬り込んでくるか、外に誘い出してから戦闘に持ち込んでくるか」
「宿屋の主(あるじ)あたりを捕えて人質にして、おまえに投降を迫ってくるってのもありそうだがな」
アンドレスを一瞥(いちべつ)して飄々と言い放ったヨハンの言葉に、アンドレスはハッと息を呑む。
「ヨハンの言う通りだ。
宿屋の主人や他の宿泊客に何かあったら…!
俺たち自身のことより、この宿の人たちを守る方が先だ!」
「あっ!
アンドレス様、ちょっ、待っ!」
ジェロニモとヨハンが制する間も無くアンドレスが部屋を飛び出していきかけた時、逆に、扉を部屋の外の廊下側からノックする音が響いた。
と同時に、緊張と不安を滲ませた宿屋の主人の声が聞こえてくる。
「あの…、お客様方、ちょっとよろしいでしょうか……?」
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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。
≪ジェロニモ≫(インカ軍)
義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。
スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。
スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。
身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。
これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。
≪ペドロ≫(インカ軍)
インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。
此度のアンドレスの旅の同行者の一人。
20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。
≪ヨハン≫(スペイン軍)
スペイン軍の歩兵。20代半ば。
偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。
スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。
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