コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

2022/01/06(木)00:10

コンドルの系譜 第十話(111) 遥かなる虹の民

第10話 遥かなる虹の民(150)

スペイン国王によるイエズス会への弾圧、そして、その渦中で行われたアンドレスの父親の暗殺。 これまでこの国で行われてきた数々の蛮行を振り返れば、そのようなことが起こっていたとしても今さら驚くにはあたらない。 とはいえ、目の前のアンドレスの悲痛な表情を前にして、ジェロニモもペドロもさすがに胸詰まる思いに襲われ、かける言葉を失っている。 そのような空気の中、相変わらずの調子で、ヨハンがまたバッサリと切り捨てるように言葉を放った。 「お前の父親が、この国に残って暗殺されたのはわかった。 だが、アリスメンディって神父は、国外に亡命したって話だったよな? なんで、そんなヤツが、今頃、あんな貼り紙を書いてる? 話のつながりが全然見えねぇぞ」 いつもと変わらぬ様子のヨハンの言葉に、むしろアンドレスはハッと感傷から醒めて、我を取り戻した。 そして、口早に続きを語りだす。 「確かにアリスメンディ殿は英国へ亡命はしたけど、だからといって、この国の民の解放を断念していたわけじゃなかったんだ。 元々、彼は国際的にも著名な神父だった上、選んだ亡命先は英国。 知っての通り、英国はスペインに強い敵対心を持っている国だ」 「ナルホド!」と、ジェロニモがポンッと自分の膝を叩いた。 「敢えてスペインに反感の強い国に接近して、反撃の機会を狙ってたってコトですかネ? 敵の敵は味方って、ヤツですネ!」 アンドレスが力強く頷いた。 「その通り。 亡命先の英国はスペインに強い対抗意識を燃やしているから、アリスメンディ殿は敢えて英国を選んで亡命した。 英国に赴いてからは、意図的に英国王室に近づいて親しい間柄になり、ますます身分の高い高僧へと昇りつめた。 そして、その立場や身分を利用して、今回、当地に進軍してきた英国艦隊に『相談役』として乗艦を許可され、この国に戻ってきたんだ。 もちろん、従軍僧としての立場としても、英国王室から乗艦を許されていたと思う。 でも、英国艦隊に協力するかに装った『相談役』という名目は、あくまでここに戻ってくるための手段でしかなかった。 だから、彼を乗せた英国艦がこの国に着くと、いち早く戦艦を降りて上陸し、英国から持参した大量の武器をインカ軍に引き渡してくれた後に姿を消してしまった。 一度、トゥパク・アマル様や俺に会いにきてくれたことはあったけれど。 だけど、最近は、もうずっと行方不明のままになってる。 多分、どこかイエズス会の秘密の隠れ場に身を潜めながら、水面下で行動しているんだと思うんだ」 ひとことメッセージ アリスメンディに関する説明が長く続いてしまい、申し訳ございません 次回あたりまでで説明シーンは一区切りの予定ですので、あと少しだけお付き合いください。 それでは、今年もどうぞよろしくお願いいたします 【登場人物のご紹介】 ​☆その他の登場人物はこちらです☆​≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。 インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。 インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍) トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。 スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。 英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍) 義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。 スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。 スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。 身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。 これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍) インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。 此度のアンドレスの旅の同行者の一人。 20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍) スペイン軍の歩兵。20代半ば。 偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。 スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪アリスメンディ≫(インカ側) イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。 かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。 英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。 上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍) 植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。 単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。 キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら ​​HPの現在連載シーンはこちら​  ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます! にほんブログ村(1日1回有効)

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