2022/07/04(月)00:31
コンドルの系譜 第十話(119) 遥かなる虹の民
かくして、アンドレスの懸念通り、スペイン兵の隊長は、いきなり飛び込んできて戦況をインカ側有利に大きく攪乱(かくらん)している覆面の男たちに憤慨しながらも、虎視眈々と反撃の機を掴もうと手ぐすね引いていた。
隊長サンチョは、味方のスペイン兵の雑踏に紛れ込んで覆面たちの目から逃れながら、副隊長のイヴァンを呼びつける。
サンチョはいかにも隊長らしい立派な体格をしてはいるものの、顎髭をたくわえた顔は神経質そうで落ち着きなく、血の気を失った額には青筋が立っている。
他方、副隊長のイヴァンは、ヒョロリとした頼りなげな痩身ながら、その表情は飄々としていて、あまり感情の乱れが見えない。
「隊長、戦いの風向きが怪しくなってきましたな。
早いとこ、あの妙な覆面どもをなんとかしませんと」
そうは言いながらも、どこか落ち着き払った副隊長の様子に、隊長サンチョはますます苛立ちを募らせ声を荒げる。
「そのために、お前を呼んだのだ、イヴァン!」
隊長サンチョは、蛇のように炯々と光る目を、しばしの距離を隔てたところで戦っているひとりの覆面の男──アンドレスの方に真っ直ぐ向けた。
「覆面は全部で4人。
中でも、あいつの動きが特に目ざわりだ。
イヴァン、おまえ、銃の腕は確かだったな?
あいつを撃て」
冷酷な濁声(だみごえ)で単刀直入にそう言って、隊長はアンドレスの方へ顎をしゃくる。
かたや、狙撃を命じられた副隊長イヴァンは、痩せた頬をポリポリかきつつ、口をへの字に曲げた。
「ですが、隊長、こんなゴチャゴチャした戦闘状態の中じゃあ、あの覆面を狙おうにも味方撃ちをしちまう恐れがありますぜ」
対するサンチョは剣のある目で副隊長を睨(ね)めつけ、憤然と鼻腔を膨らませて怒鳴りつける。
「イヴァン、そこをなんとか上手くやるのが、おまえの役目だろう!!」
それから、チッ、と舌を鳴らして、低声(こごえ)で付け加えた。
「もし誤って味方に弾が当たっても、この状況じゃ事故ですませればいいことだ。
その辺のことは、後で何とでも俺が片付けるから、おまえは余計なことを考えず、さっさとあの覆面を始末しろ!
このままじゃ、味方の士気は下がる一方だし、下手すりゃ全員おねんねさせられちまうぞ。
さあ、ノロノロせず、さっさと行くんだ!!」
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【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)
義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。
スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。
スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。
身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。
これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)
インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。
此度のアンドレスの旅の同行者の一人。
20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)
スペイン軍の歩兵。20代半ば。
偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。
スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!
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