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カテゴリ:第10話 遥かなる虹の民
かくして、アンドレスの懸念通り、スペイン兵の隊長は、いきなり飛び込んできて戦況をインカ側有利に大きく攪乱(かくらん)している覆面の男たちに憤慨しながらも、虎視眈々と反撃の機を掴もうと手ぐすね引いていた。 隊長サンチョは、味方のスペイン兵の雑踏に紛れ込んで覆面たちの目から逃れながら、副隊長のイヴァンを呼びつける。 サンチョはいかにも隊長らしい立派な体格をしてはいるものの、顎髭をたくわえた顔は神経質そうで落ち着きなく、血の気を失った額には青筋が立っている。 他方、副隊長のイヴァンは、ヒョロリとした頼りなげな痩身ながら、その表情は飄々としていて、あまり感情の乱れが見えない。 「隊長、戦いの風向きが怪しくなってきましたな。 早いとこ、あの妙な覆面どもをなんとかしませんと」 そうは言いながらも、どこか落ち着き払った副隊長の様子に、隊長サンチョはますます苛立ちを募らせ声を荒げる。 「そのために、お前を呼んだのだ、イヴァン!」 隊長サンチョは、蛇のように炯々と光る目を、しばしの距離を隔てたところで戦っているひとりの覆面の男──アンドレスの方に真っ直ぐ向けた。 「覆面は全部で4人。 中でも、あいつの動きが特に目ざわりだ。 イヴァン、おまえ、銃の腕は確かだったな? あいつを撃て」 冷酷な濁声(だみごえ)で単刀直入にそう言って、隊長はアンドレスの方へ顎をしゃくる。 かたや、狙撃を命じられた副隊長イヴァンは、痩せた頬をポリポリかきつつ、口をへの字に曲げた。 「ですが、隊長、こんなゴチャゴチャした戦闘状態の中じゃあ、あの覆面を狙おうにも味方撃ちをしちまう恐れがありますぜ」 対するサンチョは剣のある目で副隊長を睨(ね)めつけ、憤然と鼻腔を膨らませて怒鳴りつける。 「イヴァン、そこをなんとか上手くやるのが、おまえの役目だろう!!」 それから、チッ、と舌を鳴らして、低声(こごえ)で付け加えた。 「もし誤って味方に弾が当たっても、この状況じゃ事故ですませればいいことだ。 その辺のことは、後で何とでも俺が片付けるから、おまえは余計なことを考えず、さっさとあの覆面を始末しろ! このままじゃ、味方の士気は下がる一方だし、下手すりゃ全員おねんねさせられちまうぞ。 さあ、ノロノロせず、さっさと行くんだ!!」 ひとことメッセージ 厳しい暑さの続く日々、くれぐれも熱中症などにお気を付けてお過ごしください 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) ≪アンドレス≫(インカ軍) ≪ジェロニモ≫(インカ軍) ≪ペドロ≫(インカ軍) ≪ヨハン≫(スペイン軍) ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!
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