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カテゴリ:第10話 遥かなる虹の民
トゥパク・アマルはコイユールを助け起こすと、「アレッチェ殿を見舞いに来たのだが…。大丈夫かね」と、心配そうな眼差しをコイユールに向ける。 コイユールはいっそう深々と身を低めて、アレッチェに打倒された衝撃で辺りに飛び散った薬草を慌てて掻き集めた。 「お見苦しいところをお見せして、申し訳ございませんでした……!」 「とんでもない。 コイユール、そなたは良くやってくれている」 そう優しく応じて、それから、今度は、トゥパク・アマルはアレッチェに目を向けた。 「アレッチェ殿、そなたの苦痛や苛立ちは察するに余りあるが、このような暴力は看過できかねます。 コイユールも、従軍医も、わたしもそなたの治療のために最善を尽くしたいと努めている。 ゆえに、どうか気を落ち着けてほしい」 他方、アレッチェはフンッと鼻で笑った。 「相も変わらず、白々しいことを。 おまえの偽善者ぶりには辟易している。 ククッ…どうせ、このわたしの哀れな姿を確認して、内心では安堵の溜息でもついていることだろうよ」 「そのようにしか思ってもらえぬことは残念だ。 なれど、今日は、そなたの治療のために、新しい提案を持ってきたのです」 そう誠意を込めて語るトゥパク・アマルの方に、顔面にもグルグル巻きにされた包帯の隙間から、アレッチェは闇色の瞳を一瞬だけこちらに向けた。 が、それからまたすぐに明後日の方向に視線をやって、苛立たし気に吐き捨てる。 「フンッ……。 おまえたちインカ族どものお粗末な治療法では、何をしようとも変わるものか」 トゥパク・アマルはゆっくりと頷いた。 「そのようなそなたの気持ちはよく分かっている。 ゆえに、スペイン人の医師にもそなたを診察してもらおうと思うのだ。 腕の立つスペイン人の医師を厳選して招聘(しょうへい)するゆえ、会ってみてほしい。 アレッチェ殿、そなたに異論が無ければ、だが」 「…………」 しばし沈黙が流れた後、アレッチェはあからさまにトゥパク・アマルの方に背を向けて、荒っぽく引き寄せた毛布に半ば顔を埋めて呻(うめ)くように言う。 「ふん、馬鹿らしい。 わたしがそのような哀れみや施しなど受けると思うか? それに、たとえ助かったとしても、このような姿で生きていくなど真っ平御免だ!」 「アレッチェ殿、だから、その皮膚の状態も治癒させる手立てがないかも含めて、西洋人の医師に相談してみようという話なのだが……」 まるで、今は我侭な子供のような態度のアレッチェに、トゥパク・アマルは小さく吐息をつくと、そっと宥(なだ)めるように言い添えた。 「それでは、とにかくスペイン人の医師を呼んでみるから、気が向いたら会ってみてくれ」 外では野鳥たちの甲高い鳴き声が遠く響き、日没前に寝所に辿り着こうと慌ただしく飛翔している様子がうかがえる。 まもなく夜の帳(とばり)が降りようとしているのだ。 もう完全に無視を決め込んでいるアレッチェから視線を外し、トゥパク・アマルは今度はコイユールにも目を向けた。 「コイユール、西洋人の医師に診察を依頼すること、そなたは構わないかね?」 「もちろんです、トゥパク・アマル様」と、コイユールは澄んだ瞳を真っ直ぐ上げて答える。 「アレッチェ様がご回復されるためでしたら、私はどんな方法でも賛成ですし、どんなことでも厭(いと)いません」 ひとキャラメッセージ できれば、そうであってほしいのですけれど……」byこいゆーる☆ 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) ≪アンドレス≫(インカ軍) ≪コイユール≫(インカ軍) ≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍) ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!
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