コンドルの系譜 第九話(1029) 碧海の彼方
※暴力シーンがありますので、どうかご注意ください。「嫌だと言ったら?」トゥパク・アマルの研ぎ澄まされた双眸が、不動の深い光を宿したまま、血走ったアレッチェの目を射抜くように見返した。「今、この場で、おまえを殺すのみだ」凍てつく声で凄んだアレッチェの手が、銃口をトゥパク・アマルのこめかみに強くねじ込んでいく。だが、トゥパク・アマルは、確固たる覚悟を宿した揺るぎない口調で明言する。「ならば殺すがよい。この命は、とうに天に預けている」その言葉が終わるか否かという次の瞬間、アレッチェの握る銃身が、トゥパク・アマルの頭に猛然と叩き付けられた。ガッ!!――と、銃底が頭肉を裂く生々しい音と共に、傷口から吹き出した血飛沫によって、トゥパク・アマルの漆黒の長髪が朱に染まる。容赦の欠片も無くトゥパク・アマルの頭を銃で殴りつけたアレッチェの力は凄まじく、さすがにガッシリとしたトゥパク・アマルの身体も、半ば脳震盪(のうしんとう)を起こしかけてグラついた。そんな彼の側頭に、またもアレッチェの銃身が、猛烈な勢いで横殴りに叩き付けられる。そのあまりの勢いと力の激しさに、バランスを失ったトゥパク・アマルの身体は、椅子から石床に転がり落ちた。倒れた彼の上に、呪わし気なアレッチェの言葉が降りかかってくる。「いつまでも手を緩めていれば、いい気になりおって。未開地の蛮族の首領ごときが、このわたしと対等に渡り合おうなどと…!」憤激と憎悪に染まった赤黒いオーラを全身から燃え立たせながら、アレッチェは、床に打ち倒されたトゥパク・アマルの前にすかさず回り込むと、その至近距離から、硬い軍靴を思い切り振り上げた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次䘠現在のストーリーの概略はこちら㡸HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)