confuoco Dalnara

2022/09/20(火)21:04

Make It Right

言葉(105)

8月27日、 テニスの大坂なおみ選手が ニューヨークで開催中のウエスタン・アンド・サザン・オープン 準決勝を棄権すると聞いて驚いた。 準決勝まで進んだのに...とも一瞬思った。 大坂選手のキャリアがかかっているのではないか、と。 ウィスコンシン州ケノーシャで29歳のアフリカ系男性 ジェイコブ・ブレイク Jacob Blake氏が背後から警察に撃たれたことに抗議し、 NBA米プロバスケットボールのウィスコンシン州が本拠地のチーム ミルウォーキー・バックスが試合をボイコット(ストライキ)し、 プレーオフ3試合が延期に。 大リーグのミルウォーキー・ブルワーズも試合をボイコット(ストライキ)し シアトル・マリナーズ他の試合は延期となった。 バスケットボールや野球のチームが試合をボイコット(ストライキ)し 警察官による度重なるアフリカ系への銃撃、暴力に Enough is enoughと抗議することと 個人で戦うテニス選手が試合を棄権するのとでは 決断に至るまでの葛藤の大きさ、個人としての責任の重圧はいかばかりか、 と言葉を失った。 しかし、事態はそこまで深刻なのだ。 #BlackLivesMatter が何年も訴えられ続けているにも拘わらず、 相変わらず黒人の命を粗末に扱う警察官、制度的差別は解消されていない。 アメリカン・フットボール NFLの選手コリン・キャパニックは 2016年、人種差別への抗議を込めて国歌斉唱の際に膝をついて立たなかったため 当時トランプ大統領にTwitter上でも攻撃されていた。 #BlackLivesMatter に連帯した故の このような「リスク」を考えると (当時よりは賛同し連帯する声が大きくなっているとはいえ) 大坂選手があらゆるリスクを念頭に 悩んだ末に決断したであろうことは想像に難くない。 彼女の心中を思うと涙が出た。 大坂選手が昨年4月、BTS「Map of the Soul: Persona」が出て間もなく 自分の好きな曲、として「Make It Right」を聴いている画面を Twitterに投稿していたことを思い出した。 当時は、曲のメロディー、テイストが 彼女の好みなのだろうと考えていた。 Make It Rightは解決する、正しくするという意味もある。 大坂選手が棄権するにあたって投稿した文にもrightという言葉が出てくる。 "I don't expect anything drastic to happen with me not playing, but if I can get a conversation started in a majority white sport I consider that a step in the right direction." 「…(これが)正しい方向へ進む一歩になるのではないかと思う(拙訳)」と。 今解決しなくてはならないのは、 正しくしなくてはならないのは 今そこにあるsystemic racism 制度的差別なのだ。 だから大坂選手は正しい、大坂選手が向き合っていることは正しい。 Naomi is right, just right. You are right. 大坂選手はMake It Right、 解決するために正しくするために声を上げ 連帯している、とはっきり理解した。 一方、大坂選手が投稿した文の冒頭には "However, before I am a athlete, I am a black woman." 「一人のアスリートである前に、 私は一人の黒人女性なのです(拙訳)」と書いている。 なぜ彼女が大事な試合を棄権するのか、 それが本人のアイデンティティに結びついていることを はっきり表明している。 ここでもBTSを想起した。 2018年9月24日の国連総会 UNGA(UNICEF Generation Unlimited)でのRMのスピーチで 「僕たちは 自分自身を愛することを学びました。 だから今度は自分自身のことを話そう。 We have learned to love ourselves, so now I urge you to "speak yourself.」 「話すことで、自分の名前と声を見つけてください。 Find your name, find your voice by speaking yourself.」 「あなたの名前は何ですか?自分自身のことを話してください。 What is your name ? Speak Yourself.」 (以上、「世界中の若者たちへ BTS 防弾少年団が国連総会で行ったスピーチ」 UNICEF ホームページより) メッセージが何度も強調されていた。 自分の声を閉ざし、自分の名前を失ったRMやBTSメンバーたちの つらい経験を踏まえた上で Speak Yourselfと同世代たちに何度も語りかけていた。 大坂選手も、自分のアイデンティティ=黒人女性として リアルな身体性ある「声」でSpeak、声を上げ 人間の尊厳に連帯しようとしているのだ、と理解した。 それは、記号でもなく他人が作り上げた型でもなく、 被差別当事者としての尊厳あるアイデンティティとしての声。 その声で話し、連帯しようとしている、と。 彼女の思い、当事者としての思いが切実に迫りくる。 そして、被差別当事者が When will it ever be enough?と吐露せざるを 得なくなるまで構造的差別を温存し放置しているマジョリティこそが 本来声を上げて「Make It Right」しなければならないはず、 とあらためて唇を噛む思いもする。 「Make It Right」不平等な社会を変えるために 「Speak Yourself」声を上げている被差別当事者 レイシズムに苦しむマイノリティが 目の前にいるのだから。 #BlackLivesMatter BTS は初めての英語曲Dynamiteでブラックミュージックへの リスペクトを表していた。 この曲で言及されたNBA選手レブロンも 今回の件で怒りのツイート。 (続報)なお、大坂選手がウィスコンシン州でブレイク氏が撃たれたことに抗議し #BlackLivesMatter に連帯する意味で大会を棄権した後 ウエスタン・アンド・サザン・オープン側、WTA(女子テニス協会)、USTAと協議し 大会も「人種の不平等と社会の不公正に対抗」し (Western & Southern Open suspends entire day of play in racial injustice protest) 会期が一日延期されたことを受けて 大坂選手は棄権を撤回、準決勝に出場することを決めた。 #BlackLivesMatter と、 アフリカ系のアーティストたちも長い間声を上げ続けていた。 ビヨンセはオープンでリーチ力の高いプラットフォームで、 全米TV中継により、フラットなリーチ力を持つスーパーボウルという プラットフォーム上で、不平等で不公正な社会を変えようと 音楽で、ハーフタイムショーで訴えてもいた。 非日常的なプラットフォームではあるが。 しかし、今年ジョージ・フロイド氏が警察官に殺害された後、 音楽業界は #BlackLivesMatter に連帯し ビジネスを中断する #BlackOutTuesday #TheShowMustBePaused という「ストライキ」に踏み切った。6月2日のことだった。 黒人が無抵抗のまま暴行され銃撃され殺される ジェノサイドのような最悪の事態は一向に改善されず、 状況がより深刻に、切迫している現在、 日常を止め、仕事から離れ立ち止まり、 不正義に対して共に怒り ブラック・コミュニティに連帯すること、 より責任を持って向き合うことへフェイズが移った。 音楽業界はアフリカ系アメリカ人のクリエイティビティなしには成り立たない。 ブラックミュージックを源泉としない音楽は ポップスにもロックにもヒップホップにもジャズにもラテンにも殆どないだろう。 アフリカ系アメリカ人の人権が侵害され命が奪われている時に 日頃彼らの文化的恩恵を存分に受け、 彼らの文化をリソースにしているにも係わらず 見て見ないふりをしてビジネスを続けるのは あまりに無責任で非人間的、正しくないから。 NBAのミルウォーキー・バックスが試合を「ボイコット(ストライキ)」したのも その延長、同じ文脈だろう。 アメリカのプロスポーツも音楽業界同様、 アフリカ系アメリカ人なしには成立し得ない。 だからこそ、「ビジネス」や試合を止め 画面を真っ黒にすることで 今そこにある不正義をストレートに突きつける、可視化する。 傍観者やマジョリティが気付くように。 同じ共同体、アメリカ社会で共に生きる彼らが 制度的差別で苦しみ殺されていく現実に 気付き、考えることを喚起するのがブラック・アウト。 マジョリティが娯楽として消費もしている才能、その持ち主のマイノリティは 延々続くレイシズムと生命の危機に常に曝されている現実を突きつける。 "Watching the continued genocide of Black people at the hand of the police is honestly making me sick to my stomach." 試合をボイコットしたチームへのメンションで 「プラットフォームをいい形で使ってくれてありがとう(大意)」 という謝意も見られた。 アメリカでは、それが政治的であろうがなかろうが アーティストは音楽やステージで伝えたいメッセージを伝え アスリートは試合の場で膝をついたり 「Black Out(~ボイコット/ストライキ)」しながら 不正義をやめてくれ、と声を上げる 人間らしく尊重してくれ、と訴える プラットフォームとして活用する。 そこが彼らの場所であり、彼らが社会につながる場所であり 不正義に声を上げることは彼らの社会的責任でもあるから。 プラットフォーム、彼らの場所を このように活用することも肯定され称賛される、 共通の認識、理解、共感があるもよう。 大坂選手の棄権をバッシングした日本人とは相違する。 ステージでもコートでもピッチでもフィールドでも プラットフォームを「正しく」使うことは道義的責任でもあるのに。 そこが彼らがアメリカ社会につながっている場所だから。 人として正しく怒ること、人権侵害や不正義に対して怒り プラットフォームを正しく使うことは 尊厳あるアイデンティティとしての声を上げること 即ち「Speak Yourself」を実現していることにもなる。 だから、アメリカでは大坂選手に賛同する声が多かったのかもしれない。 メーガン妃も自身の結婚式を アフリカ系のルーツを尊重するプラットフォームにしていた、ことも想起。 to be continued...!? buzz KOREA Click... にほんブログ村 韓国映画 にほんブログ村 映画 にほんブログ村 映画評論・レビュー にほんブログ村 韓国情報 にほんブログ村 K-POP にほんブログ村 Copyright 2003-2023 Dalnara, confuoco. All rights reserved. 本ブログ、サイトの全部或いは一部を引用、言及する際は 著作権法に基づき出典(ブログ名とURL)を明記してください。 無断で本ブログ、サイトの全部あるいは一部、 表現や 情報、意見、 解釈、考察 ロジックや発想(アイデア)・ 視点(着眼点)、 写真・画像等もコピー・利用・流用することは禁止します。 剽窃厳禁。 悪質なキュレーション Curation 型剽窃、つまみ食い剽窃もお断り。 複製のみならず、切り刻んで翻案等も著作権侵害です。

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る