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結局花火は、近くの駄菓子屋で買うことになった。 レトロな雰囲気を忠実に再現したその店には少々季節外れでも置いてあるだろうと踏んだのだ。 「まさか花火に1500円もつぎ込むことになるとは思わなかった…」 今日は何もおごらないと決めていたはずなのに、ついつい、妹の久々のわがままを聞き入れてやりたくなったのだ。 恐るべし、霧山鈴ッ!我妹よ! 一旦大量の花火を抱えたまま家へ戻った。花火の際使用するライターとロウソク、水とバケツを用意する為だ。 「うっわ、あつー!!」 勢いよく開け放ったのが運のツキだ。 窓も玄関も締め切って家を出たため、家の中は最高潮の蒸し暑さである。 「蒸し釜だな、こりゃあ…」 玄関の延長線上にあるキッチンの食器乾燥機などぼやけて、滲んで、揺れている。 「すげぇ、家の中に蜃気楼があるって……」 玄関の靴箱の余分スペースにつぶされる形で埋まっているバケツを掘り当てながら呟いた。 「おーい、鈴ー、バケツ確保したぞー、ライターとロウソクまだかー?」 声は家の中に響いただけで返事は返ってこなかった。 なんだよ、無視かよ?蒸し暑いだけに無視ってか? って、俺何しょーもないことを… 「おーい、鈴ー?」 またも家の中に響いて人の声はしなかった。 おかしい。 何故か嫌な予感がして背筋か凍りついて行くのがわかる。 聞こえてないだけなら2回目で気づくはずだ。 だが、鈴のことだ、どうせイタズラと思い念のためもう一度呼んでみる、今度は家のどこにいようと聞こえる声で。 「おい!いい加減にしろよ!返事くらいしろ――!」 何回やっても結果は同じ、焦りとなにか別の感情が沸点を越えた。 ガン!とバケツを投げ捨てて、靴のままで家の中を駆け回る。 家が汚れるとか、バケツが壊れるとか。そんな事、今はどうでもいい。 居間の柱を回転軸にし、そのままの勢いで階段を駆け上がった。 その瞬間、俺は思わず息を呑んだ。同時に足の力が一瞬抜ける。 階段の手すりにつかまりながら俺が見たもの、それは 汗だくになりながら、しかし意識を失った妹だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.07.19 21:37:57
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