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Hemingway

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2005.04.24
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「ようし」ビルは言った。「へべれけに酔っ払おう」
「酔っ払って、泳ぎにいこうや」ニックは言った。
 彼はウィスキーのグラスを飲み干した。
「彼女のことは悪かったと思ってるけど、でも、どうすりゃ良かったんだ?彼女のお袋さんはあんな人なんだし!」
「ああ、ひどい女だったよ」ビルは言った。
「気がついたら、もう終わってたんだから」ニックは言った。「こんな話、しないほうがいいな」
「おまえが悪いんじゃないさ」ビルは言った。「おれが持ちだしたんだから、この話は。でも、言いたいことはもう言っちまった。もう二度と蒸し返さないようにしようや。おまえもあの件についちゃ、もう考えないほうがいいぞ。またよりがもどっちまうかもしれないから」
 そんなふうに、ニックは考えたことがなかった。あの結果はもう決定的だという感じがしていたからだ。が、そういう可能性もまだあり得るのだ。そう思うと、気分が急に楽になった。
「ああ」彼は言った。「そういう危険はあるよな、常に」
 いまは幸せな気分だった。取り返しのつかないことなんて、この世には何もないんだ。土曜の夜になったら、町にいってみよう。今日は木曜日だった。
(『三日吹く風』ヘミングウェイ/訳=高橋健二『ヘミングウェイ全短編1』新潮文庫より)

 自分のやってしまったこと、自分の過失、そういうものを一人で思い詰めていると、次第にそれが二度と取り返しのつかないこと、人生の最重大事に思えてしまうことがあるものです。でも、私たちが不意に、そこから解放されるとき、それは懐の深い友人と他愛のないお喋りをしているときだったり、ありふれた休日の変哲のない午後の一時であったりするのではないでしょうか。もちろん、その気持ちの変化には、問題を根本から解決する力は備わっていないかも知れませんが、一日に一つ、あるいは、何か一くさりの行為の中にはいつも、清々しい恩寵のような瞬間があるのかも知れません。そして、愛について悩んだときは、同性の友人が傍にいてくれることがとても嬉しく思えるのも、味わいがあります。
 





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Last updated  2005.04.24 00:41:53
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